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異世界召喚被害者の会。閑話集  作者: 中崎実


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3/19

そのさん:農業王とベーコンのおはなし。

農業(アグリ・)(キング)ことトマス・ウィリアムズ氏、こだわりの食材のお話。

ウィリアムズ視点でお送りします。

 豆とベーコンばかりの食卓、というと開拓農民のひどく退屈な食事の代名詞でもあるが、こちらではそれに当てはまらない。


「こっちのは豚というより、イノシシに近いよな」


 腕組みしながら唸ったのは、小麦生産部門のヒロだった。


「俺、豚は詳しくないんだけどね……現代の豚より、古い品種なのかな」

「その可能性は高いだろうな」


 と、これは品種改良部門のデュボワ。


「小麦も在来種は丈が高くて、生産効率がひどく悪いからな」


 ブーツを脱ぎながらウィリアムズは言い、家政婦が持ってきた代用コーヒーを受け取った。

 本物のコーヒーが飲みたいが、こちらではまだ発見されていない。いくつかの植物の根を強く炒って煮出した代用コーヒーは、長年の努力でなかなか飲める味のブレンドに仕上がったが、それでもたまに本物のコーヒーを夢に見る。

 劇作家のトマソンが農業(アグリ・)(キング)などというあだ名をつけてくれたが、今の農場はまだまだ、ウィリアムズが満足できるレベルには程遠い。欲しい植物そのものが足りてないのだから。


「小麦も大麦も古い品種。家畜も現代的なものは無い。でもって人間は交配可能だから、ここの人間と俺らは絶対、同じ起源だよな」

「あちらの12世紀頃にこっちに移住した連中の子孫じゃないか、と誰か言ってたな」

「そうすると、家畜や農作物もその時代のものかな?」

「少しは改良されてるんだろうけどね」

「麦を改良する気にならなかったのが、謎だよな」


 ヒロが首をひねるのも、無理の無い話だった。

 在来種の小麦の、丈が高く倒れ易い性質は、大規模生産に手をつけるためには邪魔な性質だった。

 丈が低く生産量の多い小麦の性質を導入したいが、こちらにはその親となる品種が無い。仕方がないので近縁種と交配させて作ったのが、ウィリアムズたちが主力商品にしている現在の小麦だった。


 農林(ノーリン・)十号(テン)ほどすぐれた半矮性は持たないが、以前の品種よりは丈が低くて倒れにくく、収量は格段に増えた。


「小麦だけじゃないぞ、豚もたぶん改良されてない」

「イノシシだもんなあ」


 肉をたっぷりつける豚ではなく、野性味のある品種がこちらの主流だ。より肉が取れる品種を目指して畜産部門で改良を続けているが、まだまだ満足のいく結果は出ていなかった。


「加工肉部門の商品も増やしたいんだが、なかなか難しいな」

「ベーコンはいいのが出来てるんだけどねえ」

「いや、あれではまだまだだ」


 肉から滴る(ドリッピング)でカリカリに焼きあがったベーコンをどっさりと、ぷちぷち音を立てる焼き立てのハム、たっぷりしたサラダにベイクドビーンズとパン、締めには大きなパイを一切れ。そんな昔の朝食が食べたかったが、こちらで作れるベーコンはウィリアムズにはまだ不満が残る代物だった。


(こだわ)るねえ……」


 感心してるんだか呆れてるんだか判らない言い草は、もちろんヒロだった。


「朝飯にベーコンが無いのは許せないんだ、俺は」

「ヒロがコメを食べたがるのと一緒だよね」

「言わないでくれないかなあ、食べられないと思うと余計食べたくなるよ」


 こちらにはコメもない。おそらく、移住が行われた時代にはコメの生産が始まっていなかったか、コメを作っていない地域の人間が移住したせいだろう。


「コメはとにかく、今以上のベーコンと言ってもなあ。どこらへんが気に食わないわけ?」


 無いものねだりはしない主義のヒロは、あっさりとコメの話を諦めていた。


「肉の質がなあ」

「記憶が美化されてる可能性もあるぞ?」


 と、デュボワ。


「獣くささが強いもんな。飼料もまたちょっと変えてみるか?作付変更も今なら出来るよ」


 と、ヒロ。

 理想のベーコンを手に入れるまでには、しばらくかかりそうだった。


──────────


「というわけで、沼尾のところの通信機も変えたから」


 と、ケニー・テライが久々にやってきて色々工事していったので、通信状況はずいぶん改善した。

 とはいえ将来的には、こちらの技術だけでしっかりした通信網を作りたい。そんな話をしていたはずだが、いつの間にか今の農産物の状況の話になっていた。


「ベーコンねえ。なんでベーコンなんだ?」


 ヒロと同じ日本人のケニーには、ベーコンへの情熱はないようだった。


「ベーコンの無い朝飯は朝飯じゃない」

「あ、そういうこと」


 半ば呆れているのか感心しているのか、良く判らない答えだった。


「ただ、昔食べた味を美化しているんじゃないかとロベールが言っててなあ」

「まあ普通に考えれば忘れてるよな」


 ケニーはそう言ってからニヤリとした。


「思い出したほうが良いか?」

「出来るものならな」

「法律上、異世界人である我々が母国の品を手にするのは、問題にならんよ」

「頼めるか。商品開発のためのサンプル、ということで頼みたい」


 嘘は言っていない。新商品開発のために、昔食べた味を思い出す必要もあるのだし。


「今は日本に住んでるから、日本製になるぞ。アメリカ製のものも多少輸入されているが、ベーコンの塊となると日本製だ」

「それでもいい」

「たいした分量は持ってこられないが、買ってきたら連絡する」

「頼む」


 ただでさえ忙しいケニーの手を煩わせるのもどうかと思ったが、誘惑には勝てなかった。


 そして後日。

 ケニーが送ってきた2ポンドほどのベーコンは、懐かしい味がした。

ウィリアムズの習慣に従って愛称で呼ばれてます。

ヒロこと沼尾(ぬまお)博紀(ひろのり)は本編でちょっと話に出てきた「ガラケーが壊れた」人のことです。今は麦農家やってます。ロベール・デュボワは品種改良部門のトップ。ウィリアムズ農場の3人は帰国を選ばなかった「攻め」の人。

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