そのじゅうよん(下):トラック転生は予防が大切。(前田視点)
声をかけてきた人の目線でお送りします。
普段は諸々ごまかしてる寺井さんですが、プロの眼から見ると色々バレるのです。
※本日は2話同時更新しております。
「さすがですね」
思わず呼び止めてから前田がそう言うと、
「そうですか?」
と、寺井は苦笑気味に返してきた。
前田の転勤で顔を合わせなくなって久しいが、さすがに忘れるような相手ではない。もっとも、一番良く覚えているのは顔よりも患部だろうと言われたら否定できないのが、医者である身の哀しいところだが。
「パニックしてる人の面倒見るの、慣れてますね」
前田が寺井に初めて会ったのは、卒業旅行中に異世界に拉致されるという、ありえないレベルのトラブルに遭遇した時だ。
動転して固まったまま殺されそうになった前田を助けてくれた人物であり、研修開始に間に合うよう日本に帰してくれた恩人である。
あの時の前田にまず声をかけてくれたのも、寺井だった。
「何年もやってましたからね」
こうしていると、異世界民拉致の犯行現場に突入してきた現場指揮官の面影はあまり感じない。片足のハンデをものともせず犯人たちを制圧した強面魔術師も、こちらでは普通の人に見える。
いや、そう見せかけてるだけか。
寺井が履いている靴を見て、前田はそう判断した。
股関節と膝の可動域が大きく制限されている人間が、きちんとフィットする外羽根の革靴をカジュアルに使うのは見かけない。かがめないため紐を結ぶのが困難だから、通常であればもっと履きやすいものを選ぶ。
まして寺井の場合は神経損傷で足首を自由に動かせないという問題もあり、短下肢装具を付けているので、自力で着脱できる靴は限られる。
ただし、それは通常の患者だった場合の話だが。
本人曰く『奥の手』を使って諸々こなしているので、あまり影響がないのだろう。
「知り合い?」
寺井の連れていた中学生くらいの少女が、不思議そうな顔をしていた。
「ああ、うん。足の手術を担当してくれた前田先生だよ」
「あ、お医者さんなんだ」
「お嬢さんですか」
結婚しているとは聞いていなかったのだが、と思いながら聞いてみると、
「いや、姪ですよ。兄の娘でしてね」
と、返ってきた。
「こんにちは、いつも叔父さんがお世話になってます?」
最後が疑問形になっているのが微笑ましいが、しっかりした印象のある少女だった。
「最初は僕のほうが寺井さんにお世話になったんだけどね。今日はお出かけですか」
「ええ。テストの成績が良かったら、奢れと言われてたんですよ」
「へえ」
こうしていると、見た目が少しいかついだけの気の良い叔父さんに見える。
「このへんだと、ラウンジですか」
この時間帯でこのくらいの年頃の女の子が喜びそうなものというと、ラウンジのアフタヌーンティーくらいか。寺井もその姪もあまり崩していないやや堅めのカジュアルだから、それなりの店に行くのだろう。そう思って店名を出すと、
「よくご存じですね」
との返事で、どうやら正解したようだった。
「うちの若いのが三人ほど、さっき出かけていったんですよ」
がっつり肉が好きな前田は別の店に行ったが、女性医師二人と男性研修医が嬉々として食べに行っていた。
まだ戻ってきてないような気がするが、研究会の午後の日程には差し支えないだろう。
「もう一人の若いのはあそこにいるんですが……あ、解放された」
警官と話し終わったのか、若手が人をかき分けて外に出てきた。
「前田先生、お待たせしました……って、知り合いだったんですか?」
「あれ、さっきのお兄さん」
寺井の姪が、若手の顔を見て言った。
「どーも、さっきの子供をとめてくれた子だよね?」
「うん。あ、お兄さんもお疲れさまでした」
「いえいえ、君もありがとうね。あれは危なかったよなー」
「動いてる車に触りたいとか、ワケわかんないですよね」
「ほんっと、わけわかんないよね。子供って怖いよねー」
体格も良い元ラグビー部の若手医師にも物おじせず話しているのだから、寺井の姪もかなり肝が据わっているんだろう。
「あ、おじさん、時間。そろそろ予約した時間だよ」
「え?ああ、そろそろ移動したほうが良いな。じゃあ失礼します」
軽く頭を下げてから去って行く二人を見送って、若手が首を傾げた。
「前田先生、知り合いですかあの人」
「うん。僕の患者さん」
嘘は言っていない。
世話になったのは医者になる前だったとか、整形外科に進むと決めた理由の一つが寺井の障害だったとか、そういった事は説明しないだけだ。
「あ、股関節の術後なんですね」
歩き方を見て首をかしげる若手に、
「後で説明するよ、苦労した症例だからさ」
と、前田はそれだけ言っておいた。
寺井の奥の手=日本でも何故か使える魔力を使ってる、です。
遠くにゴミを捨てる時にも便利な能力。




