そのじゅうさん:場違いな顔合わせ(岸視点)
召喚被害者の帰国組も、帰還後は普通に働いてますから。
事情を教えられる事のない普通の若者目線でお届けします。
海外とのミーティングであっても、出張するとは限らない。
「俺、英語自信ないんですけど」
海外出張が無いのは良いが、問題はそこである。オンラインミーティングでも、英語は喋る必要がある。
「テキスト打ち込みで自動翻訳使えば?」
と、気楽に言ったのは同期の井波だった。
「それなりにできる井波っちと同じ方法、俺に使えると思う?」
おきらくごくらく能天気な井波杏樹だが、能力はそれなりに高い。というか『趣味のために資金も能力も全振りします!』と公言してはばからない井波は、趣味のためとあらば外国語を覚えることなど苦にしないため、英語もそれなりに使えたりする。
会社で能力を発揮するのは趣味の資金稼ぎのためである、と公言するあたりも、開き直ったオタク臭しかしない。才能が有って見た目も悪くないのに、残念娘としか言いようがないのが井波である。
「がんばれー、きっしーやれば出来る子だしー」
「信じてないだろ」
「あ、ばれた」
あはは、と屈託なく笑った井波だが、その後に使い勝手の良い方法を教えてはくれた。
が。
「……え、こっちでミーティングですか」
念入りに準備したらそれが無になるという意地の悪い法則が発動したらしく、オンラインミーティングの予定取り消しと連絡されたのは、準備をした翌日の事だった。
「先方がわざわざこっちまで来るんですか?」
『先方のうち二人がたまたま、日本に来る用があったんだよ』
そう連絡してきたのは寺井で、こちらはいつも通り自宅勤務である。
「じゃあ、寺井さんはいつも通り自宅から参加で?」
『いや、さすがにあいつらが来るのに顔を出さないわけにいかないから』
「は?」
『あれ、言ってなかったか?今回はジョナサンともう一人が参加だ。二人とも私の知り合いだから』
「それ俺が参加して良いミーティングなんですか」
なんかヤバい匂いしかしない。
寺井の『前職』関係者と目されているジョナサン・トールマンは陽気な技術者だが、寺井と付き合いがあった時点で要警戒である。
『次の開発は君にも入ってもらうんだから、むしろ君が主力』
「俺、民間人ですよ!?」
『私も民間人だが?』
あきらかに笑いをこらえている様子で、寺井が返してきた。
──────────
「岸君、また余計なこと考えてるだろう」
ミーティングの準備を終えたところで、寺井が半分呆れたように声をかけてきた。
「え?あ、はい」
うっかり答えてから慌てたが、もう遅い。
とはいえ寺井は苦笑しただけだが。
「ジョナサンの事は君も知ってるだろ、ただの技術屋だよ」
「はあ」
ジョナサン・トールマンは時々やり取りがあるから知っている。寺井が開発し日本での権利を会社に売却したシステムの共同開発者で、海外販売ルートの一つのカウンターパートにいるエンジニアだ……ということになっている。
「もう一人のほう、知らないんですけど」
「フィリップか、彼とは私もしばらく連絡取ってなかったんだよなあ」
「寺井さん人脈って時点で、俺でどうにかできると思えないんですけど」
「なんとかするのが仕事だ、頑張れ?」
威圧感溢れるおっさんが首をかしげてみても、おっかないだけである。
とりあえず普段から駄々洩れている威圧感を何とかしてほしい。
と思ってから、気が付いた。
「あれ、ミーティングだけどカジュアルですね」
トラブルシューティングで社外に出る時はスーツ着用の寺井が、今日はカジュアルシャツにチノパン姿だった。
「そりゃ、ジョナサン相手に格好つけても意味ないからね。威圧する必要もないし」
「……わかっててやってたんですか、あれ」
また口が滑ったが、開き直ることにした。
「当然だろう、見た目は大切だぞ?」
にこやかに返してくるあたり、このおっさんはどうしようもない。
いやまあ正論ではあるんだが、あの威圧感を悪びれもせず正当化しているあたり、やはり相当な曲者である。
「スーツ似合いすぎですよね」
「悪い事じゃないさ」
にやにやしてるので、言いたいことは察しているだろう。それ以上コメントしてこないのが、寺井らしい人の悪さだが。
絶対に面白がってるよな、これ。と岸が思ったところで、
「お客様が見えました」
総務がビジター二人を案内してきた。
一人はWEB会議でも見かける事のあるトールマンで、いつも通りの笑顔だったが、もう一人は会議スペースに入ってくるなり立ち止まって、寺井に向かって敬礼した。
ロシア系のようにも見える顔立ちで年齢は良く判らないが、40にはなっていなさそうな男性だ。体もそこそこ鍛えられてるし、やはり寺井の前職の関係者なのだろう。
「……癖って怖いもんだな」
軽く会釈で返した寺井が苦笑気味に言い、岸をつっついた。
「ほら、始めるぞ」
「は、はい」
どうみても元軍人同士じゃないのか、というツッコミを飲み込んで、岸は二人に席を勧めた。
──────────
「おっつかれー」
ミーティングが終わってビジター二人を送り出した後、席に戻る前にコーヒースペースで休憩していると、井波が軽い口調で言いながら寄ってきた。
「マジつかれたわ……」
「でも何とかなったんでしょ?ゴルゴが機嫌よかったし」
「しぃ~、あんま大声で言ったら聞こえるって」
綽名はどうせもうバレている(シニアマネージャーの楠木情報だ)とはいえ、面と向かってゴルゴと呼ぶ根性は岸には無い。
「あ、ごめんごめん、多分聞こえてないと思うよ」
「普通はそうだけど、相手が相手だからなあ」
「さすがにここに盗聴器は付けてないんじゃない?」
すぐにそういう発想になるあたり、信頼のほどがうかがえる。
「で、どうだった?」
「技術的にはいけそうな感じ?」
とりあえず技術的な要件は何とかなりそうである。プロジェクトが走るかどうかは、岸の判断するところではないが。
「で、疲れてる理由は?」
「ゴルゴと同業者二人に囲まれてたせい」
あれで緊張するなというほうが無理である。
「あ~、やっぱり同業者?」
「サーマンさん、ゴルゴの顔見るなり敬礼してたよ……」
しかも会話中は"Sir"と呼びかけてたし。
「なにそれ」
「昔の知り合いっていうけど、部下かなんかじゃないの?途中で英語じゃない言葉でなんかやり取りしてたし」
「フランス語とか?」
「聞いても見当つかないよ」
第二外国語なんか記憶のかなたである。
大学で単位をとった後、速やかに忘れ去ったから、もはや何か外国語で喋ってるなあという程度にしか理解できない。
「そっか~、言語が判ればどのへんで活動してたか見当ついて、面白かったのに」
「気になるなら、変わる?」
「期待の星はきっしーでしょ?がんばってねー」
井波はにこやかに言うと、クッキーを2枚、岸の前に置いて自席に戻っていった。
ジョナサンもフィリップも、帰国組の召喚被害者です。
帰国後に働く先を伝手を頼って探すと、どうしても固まるというわけですね。




