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異世界召喚被害者の会。閑話集  作者: 中崎実


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10/19

そのじゅう:魔導卿と秋の休日。

自分で自分の仕事を増やす魔導卿(てらい)を見かねた日本側バックアップ担当・大島の視点でお送りします。

 秋晴れの休日、となればやる事がある。

 バーベキューだ。


「私も忙しいんですがね…」


 たまには付き合え、と引っ張り出した寺井が、困ったような顔をしていた。

 当日になってもこれである。いいかげん諦めが悪い。


「あちらも多少、仕事が増えてまして」

「若者に押し付ければ良いんだよ」


 面倒見が良すぎるのも良し悪しである。

 本人に自覚はないようだが、とにかく人が()過ぎるのが寺井の欠点だ。まあもっとも、寺井が底抜けのお(ひと)()しでなければ、拉致被害者の帰還事業に私財を投入するような真似もしなかっただろうが。


「とりあえず、今日くらいはあっちの仕事も休みだ」


 先日、あちら(バーラン)にも連絡は入れている。大島からの直接連絡は(まれ)なため、通信機の置いてある寺井の屋敷まで呼びつけられた格好になったガディス卿も緊張していたようだが、とりあえず大島の要求を呑ませることはできた。


 弟子(ガディス卿)の眼が遠くを見ていたような気もするが、気のせいという事にする。


「はぁ……」

「だいたい、ここまで来てあっちの事を心配しても無意味だろう」


 他人の眼もあるバーベキュー場から、転移なんかできるはずもない。

 実行可能性について言えば、どういうわけか寺井だけはこちらの世界でも魔法が使えるので、転移するのも可能だが。


「それはまあ、そうですがね……」

「買収のシナリオは考えてやるから」


 寺井が仕掛けている企業買収の詰めなどは手を貸したほうが良いだろう。


「それ以外の仕事も振りますよ」

「わかった、わかった。良いから今日は肉の事だけ考えなさい……ああ、野菜も忘れないように」

「子供じゃあるまいに」

「でも肉しか食べないつもりだろう」

「サラダなら食べますよ」


 他の参加者がはしゃぎながらカット中の野菜は食べる気がありません、と遠回しに宣言するのは、さすがに良い性格としか言いようがなかった。


──────────


 中年男二人だけの秋のバーベキュー、ではなにやら寒々しいものがあるので、寺井の勤務先で慰労(いろう)を兼ねて参加希望者を募ったところ、若手と中堅を合わせて4名、役員1名、およびその連れが参加して合計11名のなかなか大所帯になった。


 参加は高校生以上と限定したので、これでも少なくなったかもしれない。無分別に走り回る子供が寺井を転倒させでもしたら、入院する騒動になりかねないので(なにしろ骨の中にチタンが埋め込まれている状態だから、転倒の衝撃で骨折する可能性があると聞いていた)、大島としては見知らぬ子供のお楽しみより、よく知る寺井の安全を優先した結果である。


「思ったよりは増えたな」

「無料参加が効きましたかね」


 こういう時も面倒を見る役に回ってる寺井が言うのに、


「タダ肉おいしいでーす」


 と、なんとも率直なことを言っている若者がいた。

 寺井が若者に怖がられているのか(なつ)かれているのかよく判らないのは昔からだが、最近は懐かれている割合のほうが増えただろうか。


「肉が良いから美味(うま)いんだよ。追加、焼けてるぞ」


 寺井もかなりカジュアルに接している。


「さっすが。あ、そっちの脂少なめのください」


 この若者はたしか山野と言ったか。下戸なのか、飲み物はウーロン茶を選んでいる。


「しっかり食べて行きなさい」


 大島からもそう声をかけると、


「ありがとうございまーす」


 と、にこにこしながら返してきた。


「そろそろ寺井君もあっちに混ざって来なさい。鈴木さん、寺井君と交代頼んでいいかな」


 気が付けば2台目のグリルの焼き担当に収まってるのだから、寺井も相変わらずである。

 大島と話すならこのほうが便利なのは判るが、他の人間に聞こえないように話せるとなったら、どうしてもあちら(バーラン)の話題になる。休むべき時にまであちらの仕事の話などするべきではないし、そろそろ放流したほうが良いだろう。


「奥さん連れてきてる人にやらす事でもないでしょう」

「いいですよ、慰労なんだしそろそろ働かないと。うちの奥さんが(にら)んでますし」


 CTOの鈴木が、妻らしい女性が苦笑しているのを目で示しながらそんなことを言い、寺井からトングを受け取った。

 うながされて素直に自分の皿とソフトドリンクを持ってテーブルのほうに行った寺井を見送って、


「大島さんも、あちらに混じってきたらどうですか」


 そう、鈴木が気を利かせたが


「ホスト役だからここで良いよ。そろそろスペシャル肉も焼けるし」


 と、大島はグリルの上でソーセージをひっくり返しながら応じた。


「スペシャル肉って、その渦巻ソーセージですか?」

「ダチョウ肉だよ。こっちの肉もそう」


 味付け肉はまだ焼いていないが、渦巻ソーセージはそろそろ食べ頃だった。


「珍しいものを買って来ましたね」

「寺井君の差し入れ」

「……彼、意外に茶目っ気ありますよね」


 一瞬絶句したように思えたのは、大島の気のせいじゃないだろう。


「前から聞きたかったんですけど、どこで拾ったんですか、あんな人。そうそう落ちてないでしょ」

「彼の前職に関わることだから、私の口から言うのもなあ」


 寺井の採用の時には、履歴書がほぼ空白だったのを問題視した者もいなかったわけではない。

 寺井自身も就職活動にそう熱心ではなかったから、変に取り(つくろ)う気もなかったようで、守秘義務があるとだけ言って沈黙を貫いている。

 大島も、寺井の『前職』に関しては業種も含めて何もコメントしていない。技術力を買ったらどうかと勧めただけのことだ。


 鈴木を含む会社上層部にしてみたら、言ってみれば正体不明の謎の技術者のわけだ。そんな寺井の人となりを保証しているのは大島への信頼だけである。

 それで敢えて技術を買いに行く度胸はたいしたものだ。


「元はどっかで軍に入ってたんじゃないか、って考えてるんですけどね」


 意外に慣れた手つきで肉をひっくり返しながら、鈴木がそんなことを言った。


「私と接触がないだろ、それだと」

「ああ、そうか……って、大島さんもしばらく海外にいましたよね?」


 バーランに拉致されていた期間の事は、周囲には海外を放浪していたと言ってある。


「たしかに、あの時期にできた知り合いではあるけどね」

「……彼のプロダクト、基本的に荒事を想定して作ってあるんですよ」

「君も技術者だなあ」


 寺井が明確に説明したことはないはずだが、設計思想を見抜いたようである。


「うちで作るものにMILスペックまで要らないのも理解してるから、余計なトラブルは起こさないですけどね。カウンターパートが軍用にカスタマイズしやすいようになってます」

「そこまで理解できてるなら、あとはお察し、てやつかな?」

「それ以上の情報も無し、ってやつですね」

「そういうこと」


 言っても正気を疑われるだけである。


「大島さんも相変わらずですよね」

「人間、そうそう変わらないって」


 大学時代からの付き合いだけあって、鈴木も判ってはいるのだろう。


「それより、地ビールあるけど飲むか?」

「いただきます。あれ、大島さん車で来たんじゃ?グリルとか全部持ってきたんでしょう」

「運転手は寺井君だから、私は飲んでも大丈夫なんだよ」

「人使いが荒いのも、相変わらずですよね」


 呆れたように言う鈴木に、大島はビールの缶を押し付けた。

身体に良いものも食えと言われる独身のおっさん・寺井の図。

話せない事を話さないでいるだけで不審者扱いされてます。

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