スパゲッティオとオルナヤス
ここじゃない違うどこかに、なろうという国がありました、そこではたくさんのお話を書く人達がいて、それぞれ自分が考えたお話を皆に見せて、お話を聞く人達を喜ばせていました。
そこにスパゲッティオという、この国では少し田舎に住む、とっても頑固な男が居ました。
彼は人が人に優しくしたくなるようなお話を書きたい、そんな風に思って他所の国からなろうの国にきて、毎日お話を書いては誰かに語りかけていました。
ですがなろうに住む人は皆、楽しいお話や自分が一番になるお話ばかりを聞きたがり、スパゲッティオが考えたお話を聞いてくれる人は、残念ですけどあまり居ません。
なろうの国で語られる楽しいお話の中には、ちょっと悪いことやズルをしたりして、簡単に一番になるお話も一杯あります。
スパゲッティオは、そういう話を聞く度に少しだけ寂しくなって、頑張ることや一番になるために頑張るお話だって、とっても面白いのにと、皆が聞いてくれないことに悲しくなります。
それでもスパゲッティオは自分がもっとすごいお話をつくれば、きっと皆も優しくなろうというお話の良さを分かってくれるかもしれない、そう思って来る日も来る日も頑張ります。
なんで彼が頑張るかって?しんどいけど、諦めなかったのには、小さな、けれどとっても大きな秘密があるからです。
それはね、沢山の人が楽しいお話を聞きたいと思ってても、自分のお話も聞いてみたいって思ってくれる人だっていると知っているからです。
とっても頑固で変わり者なスパゲッティオに頑張ってと、少しだけでも応援してくれる人だっているからです。
スパゲッティオはなろうの国のことが好きですし、頑固な自分の話を聞いてくれる人達も、話を聞いてくれない人も皆が好きですが、それでも悲しく思っている事があります。
それは誰にもお話を聞いてもらえず、いっつも悲しそうにしている人が居る事や、気に入らないお話をしている人に、聞いている人が大きな石を投げてお話を止めさせようとすることです。
そんな姿を見る度、スパゲッティオはやっぱり悲しくなって、楽しい話だけじゃいけないよ、悲しい話や難しいお話、他の色んな話だって、全部大事なお話なんだと何度も皆に話します。
「みんな、色んなお話を聞こうよ、楽しい話でだけじゃなくて、他のお話だって聞いてみて欲しい、きっといいお話は、他にもいっぱいあるよ」
彼は大きな声で、精一杯なろうの国にいる人、全部に聞こえるようにいいます。
その度に大きな声で話すスパゲッティオに大きな石を投げる人は沢山いますけど、それでもスパゲッティオはとっても頑固ですから、石が痛くても我慢します。
だって、一番悲しいことはお話を聞いてもらえない事だって知っているから、ちゃんと知ってもらえないのが一番辛いって知ってるから。
だからこんな痛みなんてへっちゃらだって、どんなに痛くても何度でも我慢しますし、石を投げる人には一生懸命、自分の思うことを話して少しでも分かってもらおうとします。
来る日も来る日もスパゲッティオがこんな話を何度もしていると、少しづつ少しづつ、スパゲッティオの言葉を聞いてくれる人が増えていって、その中の誰かがスパゲッティオの話を面白いと言ってくれます。
その人達のお陰で、うるさいだけだって思われていたスパゲッティオの話に、耳を傾けてくれる人が増え、そんな噂を聞きつけたなろうの国のラン王という王様はある日、特別に自分の前でお話を聞かせて欲しいと、お城に呼んでくれました。
ラン王のお城に呼ばれることは、なろうの国でお話を作っている人なら、とっても嬉しい事ですから、なろうの国を好きなスパゲッティオも一緒で、彼は張り切ってお話をしました。
それからと言うもの、時々、王様に呼び出されるようになり、その度、お話をしている彼に別のお話を作る人が石を投げることや、スパゲッティオの話が面白く無いと感じる人達が石を投げることもありました。
「きっと、お話を読まれなくてだから悲しくて誰かに苦しい気持ちをぶつけたくて心が痛いのかもしれない、ボクの話は少し頑固なボクの言いたいことを言っているから、楽しい話を聞きたい人は聞いてもあんまり面白く無いから、石を投げているのかもしれないな」
そんな風に考えた彼は、なるべく石を投げられるのを気にしないようにしたり、時にはどうして石を投げるの?と聞いてみたりしていました。
そうしてスパゲッティオがなろうの国に来て一年位たったある日、スパゲッティオの家にパスタの国から来たという旅人がやって来ました。
その人はなろうの国のお話が好きで、特に頑張る女の子のお話や、皆で楽しく遊んでいるお話が大好きな人で、少し変わった服装をしたパスタの国の人は、スパゲッティオに訪ねます。
「私はオルナヤス、パスタの国からやってきました、すいません今晩ここに泊めてくれませんか?」
どうやら困り顔の彼は今晩の寝る所を探しているようですが、外はお日様も沈んでしまって真っ暗で、スパゲッティオの住んでる所は田舎だから、周りにはお家はここだけしかありません。
もしも自分が断ってしまったら、お隣はかなり歩かないと駄目だし、こんな時間に外にいると危ないと、スパゲッティオは彼を家に入れてあげようと思います。
「ボクはスパゲッティオだよ。パスタの国からこんな遠くまで大変だったね、ボクの家はお話ばっかり考えてて本当になにも無い所だけど、それでよければ今晩はゆっくりしてよ」
「本当に?ありがとう!とっても助かります、泊めてくれたお礼に、私の国の料理をごちそうしますよ!」
お話を作るのが大好きなスパゲッティオですが、それと同じくらい食べることも大好きなので、なろうの国でも皆が美味しいと喜ぶパスタの国の料理を食べられると喜びます。
「本当に?じゃあさっそくご飯にしようよ!早く上がって上がって、いやー楽しみだな―、ボクはパスタの国のご飯はとっても美味しいから大好きなんだ」
ご飯と聞いて食いしん坊のスパゲッティオは、喜んでオルナヤスを自分のおうちに迎え入れました。
「そんなに喜んでくれると嬉しいです、じゃあ早速料理を作りますね、私がごちそうしたいのは国で一番食べられている長い麺を使う料理ですけど、いいですか?」
「もちろんさ!君の国といえばそれだろう?だったら鍋を用意しなきゃ!」
二人はスパゲッティオのお家の小さな台所へ向かいます、ですが、そこにはとっても大きな困ったことがあったのです。
「ああ!しまった、ボクのうちには長い麺を茹でる鍋がないんだ……、これじゃあ君の料理が食べられないよ……」
そう、長い麺を茹でるには大きな鍋が必要なのです。
「それは困りました……、私の国の長い麺は折るのは良くない事だと言われています、それは私がお母さんに教えられて守ってきた大事な約束なんですよ……」
二人は顔を合わせてしょんぼりしてしまいます、スパゲッティオは普段はなろうの国の料理ばかり食べていたので、長い麺を茹でる大きな鍋を使うことがなかったのをすっかり忘れていました。
「お母さんとの大事な約束なんだね、それはとっても大事だし守った方がいいね、残念だけど他のものを食べようか、他に何があったっけかなぁ?」
そう言いながら、スパゲッティオはごそごそと台所を探します。
「あ!これがあったぞ!これも君の国のやつだよね?コレならボクのうちの鍋でも大丈夫だよ!」
「それは私の国の短い麺!そうですよ!それなら料理できます、良かった、私は嘘つきにならずに済みました、ありがとうスパゲッティオさん!」
二人は手を繋いで大喜びして、小さな鍋にお湯を沸かして短い麺を茹でます。
「ところでどうして君の国は、長い麺を折っちゃ駄目なんだい?大きな鍋がないと食べられないのは不便じゃないのかい?」
茹でる時間にお腹が空いてしまったスパゲッティオは、グーグーなってしまいそうなお腹をさすりながら、気になったことを聞いてみます。
「そうですね、理由はいろいろありますよ、長い麺は短くしてしまうとソースが飛んだりするんです、後フォークで食べるのに食べにくくなってしまいます」
「ふんふん、それでそれで?」
自分の知らない長い麺のお話に、スパゲッティオは興味津々。
彼の話を一生懸命聞いて続きを待ちますが、短い麺を茹でながら、隣のお鍋で短い麺にかける汁、ソースを作るオルナヤスはお鍋をかき混ぜながら、ゆっくり語りかけます。
「そうやって気を使って折角長い形で作ってくれた人がいるのに、それを無視して短くするのは、とっても可愛そうでしょう?その人の優しい気持ちを折るのと一緒だって、私のお母さんは言っていました」
「確かにそうか、ボクも自分の話をつまらないっていわれて、途中で止めろなんて言われたりしたら心が痛いし、そういう気持ちはとっても大事だと思う」
自分の作ったものや、その思い台無しにされるのはとても辛い、それは石を投げられる事でスパゲッティオだって解っていますから、長い麺を折るのはきっと同じ事なのだろう、そう思って納得します。
「貴方に分かってもらえて嬉しいです、さぁ短い麺も茹で上がりましたし、すぐにご飯にしましょう!短い麺でも私の国の料理はとても美味しいですよ!」
「やったぁ、すぐ食べよう!ご飯は暖かい内に食べるのが一番だからね」
出来立ての美味しそうな匂いがする短い麺を、小さな椅子と机がある部屋に料理を持って行って二人はお話をしながら一緒に食べました。
「いただきます~」
とスパゲッティオ。
「今日の糧を与えてくれた全てのものに感謝します」
これはオルナヤス、どちらも自分の思い通りに、自分の国のやり方でご飯への感謝をして、晩御飯を食べ始めます。
「ありがとうオルナヤス凄い美味しいよ!ああ~美味しいくてしあわせだ~、君がボクのうちを選んでくれて本当に良かったよ」
一緒に作った短い麺の料理はとても美味しくて、スパゲッティオはあまりの美味しさに思わずオルナヤスが来てくれたことに感謝します。
「私もスパゲッティオさんが喜んでくれて本当に良かった!たくさん作りましたから、お腹いっぱい食べましょう」
「もちろんだよ、それと一緒に君の事やお母さん、あとパスタの国の話を聞かせてくれると嬉しいな」
「いいですよ、じゃあ何から話しましょうか……」
こうして、二人で食べる晩御飯は楽しくて、スパゲッティオはとても美味しい料理をお腹いっぱい食べましたし、新しく友達になったオルナヤスが話す、とっても遠いところにあるパスタの国の知らない話を聞いて、お腹も心もとっても満足な夕食を過ごす事が出来ました。