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三章・1

 「さて、どこへ行きたい?」


 しばらく車を走らせて大きい道に出たところで、俺は助手席に座る美弥子に聞いた。


 「あ、ちょっと待ってください」


 三園はそう言うとカバンの中をあさり、そして一冊の小さな手帳を取り出した。


 「ここにですね、行きたいところを書いておいたのです」


 「どれ、ちょっと見せろ」


 俺は車を道路わきに寄せて停車し、三園の手帳を受け取った。


 「何だ、このファンシーな手帳は?」


 表紙にはアンパンマンの絵が描かれていた。


 「かわいいでしょう?」


 「ガキっぽい」


 ガキというか幼児か。


 「むー」


 俺が言うと、三園はほおを膨らませてうなった。

 しぐさも子供っぽい。


 「……ところで、お前いくつだ?」


 「む、胸の話ですか!?」


 三園は急いで自分の胸を両手で隠した。なんでそうなる。


 「話題にしたらかわいそうなくらいに貧相なお前の胸なんかどうでもいい」


 「ななななんですか!? その言い方!」


 三園は顔を真っ赤にして、憤慨して言った。


 「俺が聞いているのは年齢の話だ。お前、いくつだ?」


 「わたしは、今は十五歳で、今年で十六になります。……ちょうど、一か月後に」


 十六歳。普通に生活していれば高校一年生くらいになるのか。それにしては言動が幼いように感じる。病院暮らしが長くて、同い年の人間と関わりが無かったからか。


 「……十六でその大きさなら、お先真っ暗だな」


 「なんてことを!? と言うか、今はまだ十五です!」


 俺は三園の言葉を軽く無視して手帳に目を通した。


 「遊園地、動物園、水族館、映画館、美術館、図書館、旅館、山、海、神社、寺、教会……お前、思いつくもの適当に全部書いたな?」


 「いいえ、ちゃんと真剣に考えて書きました」


 「それに、○○館の最後に旅館を持ってきている時点で、笑いを取りに行っている感が出ている」


 「取りになんて行っていません!」


 取りに行っているとしたら死ぬほどすべっているがな。


 「それで、まずはどこに行きたい? とりあえずこれなら県内に全部揃っている」


 俺の地元の県は言わずと知れた田舎なのだが、しかし意外と何でもある。車さえあればどんなところにだって行ける。


 「うーんと、うーんと……どこにしましょう? わたしはこのどこへも行ったことがないのです」


 「俺に聞くなよ。行きたいところを言えばいいんだよ」


 どこへ行くにしても、ここからなら距離はさほど変わらない。


 「それじゃあ……書いてある順番に行きましょう!」


 「順番にって、え? 全部行くのか? これ」


 「え? 違うんですか?」


 「うーん……いや、せっかくだ。全部行こう。時間はある」


 毒を食らわばなんとやら、だ。

 しかし、これはどうやら、一日二日の付き合いじゃなくなりそうだ。


 俺は三園に手帳を返し、アクセルを踏んだ。


 「……そうですね。時間はまだあります。時間は、たっぷりありますね!」


 「順番にとなると、じゃあまずは遊園地か。ここからだと、だいたい一時間で行ける」


 「それじゃあ着くまでいっぱいお話しできますね」


 「寝とけ」


 「どうして!?」


 「冗談だ」


 反応が面白くて、俺はつい意味のない冗談を言ってしまった。


 「俺はお前のことをほとんど知らないからな。いろいろ話してくれ」


 「わかりました。……あの、その前に」


 「あん?」


 「お前って呼ばれるの、あんまり好きじゃないです」


 三園は何だか拗ねたようにそう言った。


 「わたしはつっきーって呼んでいるのに……」


 「それはお前が勝手に呼んでいるだけだ」


 「ほらまたお前って言いました!」


 三園は本気で怒っているようだった。


 「不公平ですよー!」


 「じゃあ、もう、いいや。好きなように呼んでやる」


 「じゃあ、みゃーちゃんで!」


 「却下」


 「言っていることが違います!」


 はあ、と三園はため息をついた。


 「じゃあ、三園か、美弥子。どっちかで呼んでください」


 「そうかよ。……じゃあ、美弥子」


 「は、はいっ!?」


 返事をする三園の、美弥子の声はなぜか裏返っていた。


 「何だ、その反応は?」


 「い、いえ、てっきり、三園って呼ばれるのかと……」


 「三園の方がいいか?」


 「いいえいいえ! み、美弥子で、お、お願いします……」


 ちらりと美弥子の方を見ると、美弥子は顔を真っ赤にしてうつむいていた。

 下の名前を呼び捨てにされただけなのに。


 「……子どもだな」

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