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異空人ー碧空からの招待状ー  作者: 加賀くらま
第1章
3/5

第3項 政府戦線異常あり

「そりゃ...飛んでますし、航空機じゃないですか?国交省としての見解は?」

と、大河内が国土交通大臣・鈴井孝仁に訪ねた。

「我々どもとしては、航空機というよりも、あくまで「浮遊物体」として考えていますが」

「と、いうことらしいけど釜屋さん」

「うん....単刀直入に総理はその“浮遊物体”に、“航空法”を適用ですか?」

「まぁそういうことに、だよね鈴井君」

「総理、そこなんですが...」

と、言いつつ、事務官からでも貰ったのか、メモ用紙を懐から取り出しつつ、老眼鏡をかけて鈴井が説明し始めた。

「航空法第2条には、航空機の定義として「飛行機」・「回転翼機」・「滑空機」・「飛行船」の4項目を「航空機」として定めています。これにドローン、つまり無人航空機も合致するものとして認識されています」

「つまり、人が乗っていたり、操縦しているものなら全部そうなのか」

と大河内が納得したように言ったが、鈴井の説明は続いた。

「いえ、そういうわけでもなく、気球は除外されています」

「なんで?」と驚く大河内。

「基本的に気球が飛行、つまり「ある地点」から飛び立ち、「別な地点」まで飛行するということは考えられません。そのため、航空法において「気球」は航空機ではありません」

「でも、あれにしたってイベントとかでいろんなとこ飛んだりしているじゃないか」

「あれにしても、航空法における航空機が飛ぶ高度にまで上昇するとは考えていませんし、そもそも航空法における「航空機」よりも比較的容易に飛べるものです。気球はあくまで、短距離を低高度で浮遊、もしくは短距離移動する、誰にでも扱える簡単な飛行物体と考えているからです」

「つまり、空飛ぶ自転車、というわけか」

「まさにその通りかと」



しばしの静寂の後、大河内と鈴井の会話を黙って聞いていた佐藤が、ようやくここで口を開いた。

「それでは、汐留の浮遊物体なんとしましょうか」

「えぇ、そうです。その通りです」と鈴井が思い出したように騒いだ。

国交省ウチ官僚ニンゲン達はまず、政府として相手が航空法における航空機か否か、またこれから先扱う適用法を定めてほしいとのことでした」

「いっそ、良いんじゃないですか?「UFO」としても?」と、釜屋が口を挟む。

「しかし、政府は存在を認めてはいません」と若宮。

「どっちにしろ政府見解出さなくちゃいけないし、ついでに「UFO」も認めればいいんだよ」

「そうなると、今度は定義に関しても定めなくてはいけませんよ。そもそも、航空法適用か否かもわならないです」と鈴井が困ったような顔をして発言する。


その時、総理がポツリと呟いた。

「...官房長官、どうするか?」

「総理のご判断にお任せしますが、とりあえず一度閣議を中断し、学者達の意見を頂戴しますか。現状、自衛隊が「対領空侵犯措置」に基づく対応でなんとかなってますし。副長官の赤石君に選抜させてはあります」

「.....テレビによく出ているUFO研究家とかもかね?」

「大丈夫です。ややこしくなると思ったので、選び直させましたから」

「赤石君、呼ぼうとしたんだ」



一度閣議を中断し、『汐留不明異形浮遊体事案に関する総理レク(チャー)』と題し、総理と官房長官及び副長官、総理補佐官の矢本、そして3人の航空、飛行力学、航法分野における学者が集まったが、結局のところ「そもそも、汐留の浮遊体がどうやって浮いているのか分からないので、なんとも言えない」という結論であった。



「御用学者はいらない。もっと確実に分かる人間を読んでくれ、素性も役職も関係ない」

「なら、私の大学のサークルの先輩で航空自衛隊に入隊した人がいます。昔から飛行機とか鳥が大好きで、UFOについても知識があったはずです」

「それだ!それだよ君!」

矢本の提案にあっさりと乗る大河内。

「しかし、彼は今、硫黄島にいたはずです」

「なら防衛省と自衛隊に命じてテレビ電話だ!あと、なるべく早くこっちに来るようにしよう」



矢本の記憶は間違っていなかった。

1人の自衛官を呼ぶために大河内の命令は防衛大臣を通じて硫黄島に伝達された。

ただちに硫黄島航空基地(分屯基地)では、昨年度設置されたばかりの映像伝送装置を使って官邸との直接通信の準備がなされた。


15分後には総理執務室に設置されているテレビモニターに硫黄島航空基地内の映像が流れていた。総理執務室には総理はもちろんのこと、全ての閣僚が勢揃いしている。また、オーストラリア国防省視察から今朝帰ってきたばかりの統合幕僚長も合流した。

すると、画面内に灰色のデジタル迷彩作業服を腕捲りにした自衛官が現れ、画面内中央の椅子に腰を掛けた。

「どうも遅くなりまして...、私が航空自衛隊、硫黄島基地隊所属、小林和也三等空佐です」

彫りが深く黒く肌が焼けているその男は全く物怖じせず、しかし別段クールというわけでもなく、まるで一閣僚のような話し口調であった。

「小林君、総理の大河内だ。すでに“汐留”の話については聞いているか?」

「えぇ、もちろんです。それでご用件は?」

「単刀直入に言おう。君はこの浮遊体をなんだと思う?」

「何だと言われましても...、UFOでしょう」

うーむ、と唸って、眉間に皺を寄せて大河内は続ける。

「政府としてはそれを認めてはいません」と若宮が、自衛官相手だからか、幾分はっきりとした口調で言う。

「それなら、別に「UFO」としなくてはいいでしょう。あくまで“識別不明機”なり、“異形浮遊体”なりで通せばいいはずです。それに、呼称云々で私を呼び出したわけではないですよね」

「それはそうなんだが...」と大河内が呆気に取られたような顔をした。

「小林君、あれは航空法定義の“航空機”かね?」

「間違いなくそのはずです。と、言いますのも、航空法改正によってドローン、つまり“無人機”も航空法適用になりました。つまり、あれが有人無人に関係なく“航空機”としても問題はありません。それに、気球や風船と違って飛行原理が目下不明です。ところで、汐留の“浮遊体”の操縦方法がわかる方?」


臆すこともなく、話し続ける小林の声を聞き続けていた閣僚達は、一瞬、小林の意味がわからなかったが、理解した瞬間、間違いなく、閣僚全員が同じことを思った。


「何を言っているんだ君は」

釜屋が先陣を切って発言した。

「言葉通りの意味ですよ。もちろん、この中に操縦方法がわかる方なんているわけがありません。というか、「わかってたまるかッ!」というのが私の本心ですがね」

この時点で、もはや小林の言葉を止める者は、というか止まられる者は誰一人いなかった。

「つまり、誰も操縦方法がわからず、有人無人か不明。そして、汐留の空に浮かんでいるから航空の邪魔。航空法は適用して、警察のヘリで囲むも良し、なんかな映画みたいにヘリに電光板取り付けて通信試みるも良し、相手が通信してくるまで待つも良し。それらは全て、政府、もしくは総理のご判断次第でどうにでもなりますよ。自衛隊云々に関してもです」



「彼は何者なんだね...」と、先程より明らかに老けた顔をした大河内が呟いた。

「申し訳ありません。まさか彼がこんなにも無礼だとは」と若宮が困った顔をして弁明する。壁際に立っている統幕長はハンカチで額を拭きつつ、面目なさそうな顔をしている。

「まぁいい。良い刺激になったよ」と大河内が背もたれに深く身を預けて呟く。懐のポケットに手を突っ込むが、思い出したかのように手を組み直した。

大河内は先週から禁煙を始めたばかりだ。

「しかし、彼が全くもって見当違いを言ったわけではありません。現に警察力での対応では厳しいものがあります」と小沢が当然のような顔をして意見を具申する。

「ここはひとつ、自衛隊に出張ってきてもらいますか。緊急発進ならもうしているが」と釜屋が決まったように言う。

「現在は百里基地第302飛行隊所属のF-4EJ改戦闘機2機が対領空侵犯措置における警戒監視中です」と若宮が説明する。

「統幕長からは、命令ひとつで各部隊の移動が行われるとのことです。総理、ご決断を」

「えっ!?いまするのかねッ!!?」と若宮の言葉に大河内が驚いた。

「しかし、状況が打開できていないのも事実です。閣議を開かないと命令はできませんが、ひとまずは総理のご判断も必要です」と佐藤が引導を渡すかの如く迫る。

「し、しかしだね。うーん、災害派遣は違うのだろ?」

「総理、相手は航空機です。災害派遣のような天災ではないですから、防衛出動、もしくは治安出動等の武力事態を想定したものが当然です」と若宮。

「だが、まだ相手は撃ってきてはいない。それなのに防衛出動はマズイだろう」と大河内。

「総理」と助け舟を出すように、総理補佐官の矢本が手を挙げた。

「防衛出動の場合「武力攻撃を受けている、もしくはそれが予想される事態」に対しての出動ですから、少々厳しいものがあると思います。しかし、治安出動の場合「警察力では対応できない」という状況を想定しています。事実、警察では浮遊体を迎撃も、包囲にも限界があります。こういった点から検討すれば「治安出動」としても問題はないかと」

「防衛省としても、それが最も適当であると考えます」と若宮。

「...歴史に名前が残るな。...さて」と、大河内が少し引き締まった顔になって一同を見渡した。

「官房長官、自衛隊出動に反対する閣僚はいるか?」

「おそらくいないでしょう。それが最善です」



午前10時37分。「不明異形浮遊体」出現からおおよそ2時間。「当事態に対し、不足する警察力の補填と治安維持、及び事態急変時への対処」を目的として、戦後、そして自衛隊法施行後初の「治安出動」が発令された。

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