8話 《再戦》
装備品の確認をする。
早琥は消音器付きの拳銃だけを持ち、防具の類いは一切身に付けていない。
それに対して咲葵は同型の拳銃を携帯し、頭部を含む全身の様々な箇所にプロテクターを着けていた。
このプロテクターは直接的な攻撃から身を守るようには造られていない。
表面には電波を反射する特殊な特殊な金属が貼り付けてあり、プロテクターの素材自体も電波を遮断する金属でできている。
機動性を重視しているため関節部には装着されておらず、その形状はとても薄くできている。
その為、攻撃を直接受けると一、二撃で壊れてしまうだろう。
咲葵がどれだけ戦闘に参加できるかはあの速いケルバクアの攻撃をどれだけ避けれるかによって決まると言っても過言ではない。
このプロテクターがなければ咲葵は能力が使えないばかりか行動さえほとんど出来なくなる。
そうなった場合は即座に撤退、作戦失敗になる。
咲葵にかかる責任感は相当強いはずだ。
まあ早琥自身も咲葵がそんな責任感くらいで作戦の結果が左右するとは微塵も思っていない。
言葉は弱気になっていても実際に動くといつもと変わらずに的確に動ける。
そういうところを早琥は咲葵の大きな長所として見ていた。
「こちら、早琥ペア。準備の確認を完了。これより作戦にそって行動する」
形式上の報告を本部に済ませ移動を開始する。
今回は前回のように地上からは出ずに本部の地下を通る無数の通路の一つを利用して森の中へ出た。
時刻は午後の十時過ぎ。
目標のケルバクアがこの時間のほうが発見しやすいと推測されたのでこの作戦時間になった。
迅速に目標のケルバクアを発見して、討伐を完了するというのが今回の作戦の理想とされる展開だった。
前回は隊での移動だったが今回は二人の為、とても速く移動できる。
万が一、目標以外のケルバクアに見つかった場合は消音器を付けた拳銃で始末する。
出来るだけ消耗を抑えることがなにより大事だ。
しかし、隠密行動で一番大事なのは機動性でも装備でもなく二人の精神力だった。
常に気を張りながらペースを落とさずに移動する。
そのプレッシャーもあり早琥の足は速いままだが、緊張で歩みはどんどんと重くなっていく気がした。
前回、戦闘のあった場所に着く。ここから辺りを捜索することになる。
幸いにも他のケルバクアの姿は見えない。
「さて、どうするかね」
気を抜かずに早琥が咲葵に意見を求める。
咲葵は少し考えると、
「効率は悪いけどこの地点を中心にどんどん範囲を広げて探した方がいいと思う」
「分かった。じゃあそれで」
とは言ったものの実際にこの森にいるかすら危ういケルバクアを探すのは精神的に辛いものがあった。
しかし、今はいると信じて探すしかなかった。
それからしばらくして森に入ってから一時間程が経つ。
流石に二人とも疲労が溜まっているので適当な場所を探し、休憩をとる。
小型の水筒を飲み、早琥は本部への定時連絡を済ませる。
少しの時間を置いてすぐに捜索を開始する。
安全性を考えると分かれて捜すことも出来ないので作戦にはよくこういうことがある。
なので二人も一時間程度の捜索で集中が切れるような未熟者でもなかった。
その時、一匹のコウモリが視界の端を横切る。
早琥はいち早く拳銃の安全装置を解除し、すぐに撃てるようにする。
咲葵もそれに習う。
見失わないように気配を出来るだけ消しながら走って追う。
しかし、少し経つとそれが目標になっている大きい個体ではないことに気づく。
だからと言って見逃す理由にはならないが。
咲葵が【氷討】を起動し、コウモリの進路上に氷を発生させる。
その時、コウモリは初めて二人の存在に気づく。
だが、その時には既に早琥の照準は完了していた。
コウモリの威嚇の悲鳴が最後の鳴き声になった。
消音器により発砲音を最小限にした、拳銃の引き金を引く。
結果は見事に命中し、当たったコウモリは地面に落ちて動かなくなった。
その死体に近づこうとした瞬間、背中に風を感じた。
勘とそれに基づいた咄嗟の判断でそれを避ける。
咲葵もその襲撃者に気づき即座に回避行動をとる。
後ろを振り返り、襲撃者の姿を確認する。
「なるほど、さっきの奴がわざわざ呼んでくれたって訳か…」
そこには見間違いようのない『奴』がいた。
大方、さっきの威嚇の声を聞きつけてやってきたのだろう。
しかし早琥が散弾銃で吹き飛ばした片足はもうない。
「こちら、早琥ペア。目標と接触。これより戦闘を開始する」
落ち着きを持ち本部への連絡を済ませる。
その間に咲葵は既に能力を起動している。
どうやらプロテクターは期待通りの働きをしてくれているようだ。
【空震 〜クレアオーブ〜】
コウモリの翼の近くの部分に【空震】を発動させ、墜落させようとする。
しかしその一撃は躱される。
辺りに爆音が轟くもコウモリはまるで、怯む様子がない。
【喰獣 〜グラール〜】
早琥も能力を起動させ目標の頭部を狙う。
だがこれも躱される。
「こいつ、こんなに早いのか!」
予想と前回の戦いを上回る速さで奴は飛行していた。
ならば倒す手段は限られてくる。
早琥はもう片方の腕に拳銃を構える。
「咲葵、能力のタイミング合わせるぞ」
「うん、分かった」
能力を連携して使い、拳銃で狙えば隙はそのうち必ず生まれる。
その瞬間を待ち、必殺の一撃を放つ。
そうやって倒してきたケルバクアは今まで何体もいる。
経験が二人の結論を圧倒的な速度で導き出した。
「それじゃ、再戦開始と行くか…!」
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