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喰獣の右腕  作者: 秋紅雀
1章 漆黒の機獣
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6話 《T.G.M.project》

ケルバクア。

それは人類が直面したことない強大な脅威だった。


どこから来たのか、どうやって生まれたのかさえ分からないといわれている。

宇宙や地底から来たのではないか、突然変異の賜物ではないのかなどと人々の間では様々な仮説が飛び交った。


ネイビオルなどケルバクアへの対応が前よりしっかりしてきているものの、未だその脅威は変わらず死者も絶えない。

ケルバクアは人類にとって謎でもあり外敵でもあった。


そのケルバクアの出現から五年と少し。

少年、珀翼早琥はたった今自分の聞いたことが信じられないでいた。

ほんの数十分前に出会ったばかりの男は長年の間、不明とされたケルバクアの正体を知っていると言った。


だが早琥はすぐに正気を取り戻した。

目の前の男、神巳影縫は自分達が敗北したケルバクアの謎の攻撃の正体も知っていると言った。

なら、ここは黙って聞くべきと判断したのだ。


「……続けてくれ」


そう言い、先を促す。


「ああ、分かった。しかし中々衝撃を受けると思うぞ?」


口調は軽いが真剣な表情でこちらに確認をとる。

咲葵がこちらを見てくる。

何を話されるか分からないでそういう言葉を聞くとやはり不安になるのだろう。


「別に部屋の外にいてもいいぞ」


一応、咲葵に配慮してそう言う。


「ううん。大丈夫。続けてください」


咲葵も覚悟を決めたのか神巳に先を促す。


「………それじゃあまずケルバクアが現れる前の事から話すとするか…」


そう言い、神巳は昔話を語りだす。


今から七年ほど前、とある研究者達がいずれまた起こるであろう戦争に対して新しい兵器を作ろうと考えた。

そして多大な時間と財力と技術を使ってそれは完成した。

その名前はトルガルム。

全身の骨格以外がほとんど人工の機械細胞でできていて、もし機体が損傷しても自己修復できるようにと作られたものだった。

そしてその性能を更にあげようと考えた研究者達はトルガルムに感情と思考をつけようとした。

実戦での動きが良くなると思われ、つけられた『それ』は研究者達に結果として多大な被害をもたらした。


疑似的な感情と思考をソフト化し、トルガルムにインストールを開始した時だった。

突然、トルガルムが起動し、研究施設から脱走した。

それ以来、トルガルムの消息は不明でその研究は白紙に戻ったらしい。


これがケルバクアが現れる前に起こったT.G.M.projectと言われる計画とその結果である。


そこまで神巳の話を聞き、早琥は疑問を投げかけた。


「それが一体何の関係があるというんだ」


「まあそう焦るな。今説明する」


神巳は落ち着いた様子で答える。


「さっきそのトルガルムには人工の機械細胞が使われてると言ったな?」


いきなり神巳が聞いてくる。


「ああ、言っていたな」


早琥は思い出しながら答える。


「その細胞と……ケルバクアが持つ特殊な物質というのは同じものということが分かっている」


「……どういうことだ?」


言っている意味が分からず聞き直す。


「つまり我々はこう考えたわけだよ。トルガルムは脱走後、森などに生息する獣を攻撃し、その時に機械細胞が獣の体内に混入して大量のケルバクアを生み出した。しかし凶暴化したケルバクアにいつか自分自身が倒されてしまい最後にはケルバクアだけが残ってしまった」


それで理解できた。

しかしそのようなことが本当にあったのだとしたら、


「それは…つまり」


神巳はこちらの考えを見透かすように言う。


「そう。人類の大半を殺したケルバクアは人間自身が生み出したものだということになる」


話の筋は通っている。

トルガルムというものについては余り理解していないが充分あり得る話だ。


「つまりケルバクアとは機械の細胞を体内に持っている獣のことだ。だから私達の間だと機獣なんて呼ばれたりするが」


説明を続ける神巳を無視して思考の海を泳ぐ。

隣の咲葵も驚きながらも何かを考えているようだ。

だとしても信じられない。信じたくない。

自分の両親と右腕を奪った元凶が人間自身だなどとは。


「そして今度は別の話、昨夜の戦闘に関することだよ」


唐突に別の話を切り出してくる神巳に返事ができないほど早琥は衝撃を受けていた。

刺激的なんてもんじゃない。ハンマーで天高くまで吹っ飛ばされてもまだ足りないくらいだ。


「まず今、特殊能力を持っている人には二つの種類がある。ケルバクアから直接、その細胞を得た人。改良された細胞を人為的に得た人。私達の中では前者を原典オリジン、後者を疑似レプリカと呼んでいる。つまり君達は原典と半原典ハーフオリジンというわけだ」


「半、原典?」


咲葵は自分の事を指を差しながらそう聞き直す。


「ああ。まず君はなぜ、自分が二つ能力を保持しているか知っているか?」


咲葵は首を横に振る。早琥ももちろん知らない。

神巳が続ける。


「これは恐らくの話なんだがな。まず君は幼少期にケルバクアに襲われている。その時にケルバクアからの細胞を得たのだと思う。それでも能力を発現するには少し量が足りなかった。しかしその後、ネイビオルに所属してから受けた細胞の注射によりその二つの細胞が互いに干渉して同時に能力が発現したんだと思う」


全て仮説に過ぎない。

しかし笑い話とするにはあまりにも現実味があった。


「そしてこれは原典と疑似の細胞の違いについてだ。前者は能力が強大なものが多い。しかし管理が難しく安全性や発現のタイミングも不確定だ。そして後者。短い期間で能力が発現し、とても扱いやすい。だが性能では原典に大きく劣ると言っていい」


「大体は分かった。じゃあ、あのケルバクアの攻撃の正体はなんなんだ?」


一番肝心な所を問いかける。


「ああ。あれは攻撃じゃない。超音波を発するコウモリの習性に細胞が干渉して超音波に電波を載せて飛ばしているだけだ。だがさっきも言ったように疑似は原典に性能面では大きく劣る。結果的にその電波が体内の疑似の細胞を一時的にショートさせてしまったんだろうね」


「なら私が能力を片方だけ使えたのは…」


そういえば咲葵だけは頭痛を訴えていたが気絶はしていなかった。

あれは原典の細胞が半分を占めていたおかげということか。


「ああ。疑似の方はショートしても原典の方は機能したんだろう」


そこまでの会話を聞いて早琥は気づいた。


「俺達なら…」


神巳がその先を言う。


「そうだ。原典の細胞を持つ君達ならあのケルバクアと戦える」

ここまで読んで頂きありがとうございます。

誤字、脱字はコメント欄にてお願いします。


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