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喰獣の右腕  作者: 秋紅雀
1章 漆黒の機獣
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3話 《彼女の覚悟と決意を少年は聞いた》

その日の正午を回らない内に支給戦闘要員はネイビオルの本部に集められた。


内容は簡単な状況報告、戦死者への黙祷、第二作戦のメンバー選出。


そこには珀翼、狩氷ペアの名もあった。のちに再度本部に戻るようにと通達があった。


誰しもが不安な表情を浮かべている。仲間が死んだ事への恐怖も少なからずあるだろうが恐らく別の理由で不安を感じている者のほうが多い。

その理由とは九人の隊が全滅するといった大きな事態があったにもかかわらず原因が全く不明ということだ。

先ほどの収集の時にそのような質問をした者に対し、ネイビオル本部は現在調査中とはっきり言った。


多分ほとんどの人間が気づいているだろう。本部が不確定な答えをだす場合の時、事実は二通りだ。

一つ、それが本当の場合。もう一つ、事実が大勢の人間に開示できないような極めて異常な事態ということ。

もしその事実が後者だった時のことを考えてみんな不安がっているのだ。

今回のような事が滅多に起きない事というのも原因の一つだと思うが。


早琥は自室に戻り、考える。だがそう考える事もない。

そもそもどんなケルバクアを討伐する作戦だったかさえ、まだ発表されていない。

これではどんなに考えたとしてもただの推測と同じだ。


今は体を休めることを優先したほうがいいだろう。

その時、部屋の扉がノックされる。


「私」


声の主はそれだけ言うとこちらの返答をじっと待っている。


「ああ、どうぞ」


許可を示す返答をすると咲葵が扉を開けて入ってきた。


「ちょっと落ち着かなくて。少し話とかいい?」


「ああ、どうせ暇だし。」


そう返すと咲葵はベッドのへりに座る。

しかし話すと言ってもさっきケルバクアについては早琥の中では結論が出たばかりである。

関係のない雑談でもしようというのか。


「ねぇ、今度は私達も作戦に参加するんだよね。」


「ああ、多分そうだろうな」


「やっぱり誰かが死んじゃうのかな?」


咲葵はこちらを見て真剣な表情で聞いてくる。

早琥はそれに対し、自分の心の中を嘘偽りなく答えた。


「死者がでてもおかしくない…とは思う」


ここまで情報が少ないとその考えにはどうしてもたどり着く。誰かが死ぬ、なんて甘い現実はなく二度目の全滅だって充分あり得る。

そんなことになれば自分は当然この世にはいない。

今日でこの部屋とお別れだってあり得る。そんなことを言ったら咲葵は怒ると思うが。


「そうだよね。全滅だってあり得るよね。」


一瞬心を見透かされたのかと思った。

しかし目の前にいる人は自分のペアでありいくつもの作戦を共にしている仲間なのだ。そんな彼女が今更甘い現実を見ていると思った早琥は自分を恥じる。


早琥は自身の能力の強力さも、それを利用するペアの重要性と責任を充分に感じているつもりだった。

しかしそれは彼のペアである咲葵も同じことなのだ。


しばらくそうして話していると早琥は既に時間が正午を回っていることに気づいた。


「そろそろ飯でも食うか。」


「え?」


「え?」


早琥の提案に咲葵は疑問の言葉を返してくる。

一体なんだというのか。もう飯時である事は間違いないはず。


「食欲あるの?」


「あんまない。」


投げかけられた疑問にさも当然のように返す。

だって朝にカレー食った後にあんな事あったし。そりゃ普通はないな。


「なのに食べにいくの?」


ん?待て待て何かがおかしい。


「お前も来るんだよ?」


「えっ」


「いや、この後作戦会議だし力尽きるぞ。」


「いや、それでも…」


なぜご飯を食べる事をここまで渋るのか。そんな満腹なのか。

彼女の胃はヘビ並みに消化が遅いのか。


「とりあえず食っとけって。後で後悔するぞ」


「まあ、そこまで言うなら…」


実は咲葵の言いたい事も少しは分かる。仲間が死んでいるこの状況でなんでご飯が食べられるの?、つまりはそういう事なのだ。

しかし、死んだ人の事ばかり意識していては大事な事を見落とす。自分自身の事さえも。

そうして少年の右腕はなくなったのだから。


「気にすんなとは言わないけどそこまで引きずるなよ」


「え?」


「………お前に死なれたらペアの俺が困るっていってんの。」


そういうと咲葵は視線を落とし考え込んでしまう。

やばい、流石に言い過ぎか。そう考えていると、


「分かった。」


「ぅえ?」


「自分の事に集中しろってことでしょ?うん。分かったよ。」


そう言って勝手に解決してしまう。

やはりこいつが隣にいると妙な心強さがある。早琥は心の中でそっと思った。

そして食堂につく。早琥はそこでおにぎりを頼む。


「そんなものでいいの?」


咲葵が聞いてくる。


「ああ。実は名前は少し違うけどおむすびってあるだろ?」


「うん。」


「あれはいい結果に結びつけるって縁起のいい意味をもってるんだ。」


「………運だより?」


致命的な咲葵の問いを早琥は綺麗にスルーする。

咲葵もペアの扱いに慣れている。スルーされたらそのままにしておく。


「じゃあ私も。」


二人で特大のおにぎり、否、おむすびをゆっくり食べる。

これでは運気は問題ない。後は努力すればうまくいく……筈だ。


「それじゃ行きますか。」


小走りで本部へと向かう。

開始時間より結構早く着いたが、他の人も来るのが早かった為、作戦会議の予定開始時刻より早く始まった。

作戦の内容を頭に入れていく。そうして作戦会議も終盤に近づく頃、


「そろそろいいか」


作戦を説明する本部の人間がそう言う。


「諸君も気になっていると思う。ケルバクアの正体について。」


メンバー内にどよめきがうまれる。

皆が気になっていたのになかなか言い出せなかったことだ。


「ケルバクアの正体は……」


作戦会議が終了して10分後。

4時間後に行うと発表された作戦開始に備えて各自が準備に取り掛かっている。

自分達も装備を整えなくてはいけない。

横を見ると咲葵と目が合う。そのままこちらを見て咲葵が言う。


「私はまたここにみんなで帰ってきてみせる。だから早琥も手伝ってね。」


彼女が笑いながら言ったそれは、紛れもない覚悟であり決意だった。

ここまで読んで頂きありがとうございます。

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