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喰獣の右腕  作者: 秋紅雀
1章 漆黒の機獣
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プロローグ 《崩壊した世界から》

ひとりで森を歩いていた。もちろん他には誰の姿もない。

ただ単に行くところがなくなったから立ち入り禁止の森をひとりでふらついているだけだ。


雨が降ってないのは幸いだったろう。少年の服ではすぐに風邪をひいていたはずだ。

しかし人間というものは食べ物、飲み物がないと生きてはいけない。

少年は帰るところがないのだからその両方も当然なかった。


もちろんそんな状態で歩き続けられるわけもない。

少年は膝を折って近くの木に寄りかかる。誰かが見たら既に死んでいるんじゃないかと思うほどその姿は弱々しかった。


父親と母親はさっき死んだ。つい8時間くらい前のことか。

町へ帰ると沢山の死体で溢れており、生き残った人が親切に教えてくれた。

もうあなたは両親と会えないと。


しかし、少年の両親だけが可哀想という訳ではない。

人類が『ケルバクア』との戦いに押し負け、まともな生活が出来なくなってから六日間、世界中で多大な死者がでていた。

ケルバクアは一般的に普通の獣と同じ形をしているが、現段階では凶暴なこととどれもが人間を殺傷することができる力を持っていると確認されている。


少年の両親も『それ』に殺されたらしい。少年の目の前で殺されていなかったのが不幸中の幸いといったところか。

そんなものを見れば少年は動くことすらできなくなってしまうだろう。


どこかで短い間隔で銃の連射音が聞こえる。

ケルバクアは一応普通の銃弾で殺すこともできると言われている。

ケルバクアを見たこともない少年から見ればそんなものの真偽は到底分からない。


銃の携帯も全人類を対象として解禁されている。実際、ケルバクア討伐に賞金がかかっていたこともあった。

しかし銃を持っていても誰しもが銃を扱える訳ではない。それにケルバクアで金を稼ごうとするチャレンジャーは大方、死んでしまっている。どこかで聞いたそんな打つ手のない人類の状態を思い出す。


しかし、銃声が聞こえたということは十中八九この近くにケルバクアがいるということだ。

少年はそれに気づいていないし気づいたところで逃げる力も既になかった。


そして『それ』は姿を現した。


草むらのガサガサという音を聞いて少年は顔をあげる。

それはすぐ目の前にいた。


自分が標本で見たものよりひとまわりもふたまわり巨大な狼は既に少年を標的としてみているようだ。

少年は見たこともないのに直感した。今まで聞いただけだった存在がそこにいる。

こいつがケルバクアだ。


殺される、そう感じた。黒色の毛皮で覆われたその体には銃創どころか傷ひとつついていない。

少年は疲労と恐怖という二つの感情が渦巻いていて逃げることなど到底できない。


気づくと右腕が衝撃に襲われる。まるで痺れるような大きな衝撃に。


火傷したかのようなその痛みは自分の右腕を見るとすぐに分かった。

ケルバクアが少年の腕を噛みちぎろうとしている。


少年が気づかないほど早く、そして静かに自分から数十cmも離れていない所まで来ていたのだ。

少年は振りほどくこともできずただ弱々しい悲鳴を漏らすだけだった。

やがて痛みも頂点に達した時自分の右腕にかかる力が軽くなる。

次の瞬間少年の右腕早く既に食いちぎられた後とわかった。


「ぁ………」


少年はその事実を認めると地面に倒れ、死を覚悟する。

ケルバクアも少年の方へとよってくる。あとは食べるだけとでも言うのだろうか。

次の瞬間ケルバクアの頭から血が飛び出た。銃で撃たれたと少年が理解した時には『それ』はもう居なかった。


そこには小銃をもった十数人の人がいた。こちらも話でしか聞いたことの無い存在。

それでも分かった。ケルバクアに対抗するために設立された対ケルバクア部隊、ネイビオル。


少年、珀翼早琥はくようさくは助かったと実感するとそのまま深い眠りへと落ちていった。

ここまで読んで頂きありがとうございます。

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