あかり灯せば
この詩集最後の詩なので、初心に帰るということで散文形式に。
ちょっと特殊な連想型執筆方法を取っています。
彼は公園に一人、佇んでいた。寒い冬の日、しかし雪が降るでもない中途半端な天気模様だった。
彼の仕事は夜にしかできない。そもそも昼間に働くものではないからだ。毎日決まった時間になると、着火の道具を持った点灯員が火を点けに来る。火が点けばあとは立っているだけでいい。手当も食事も休憩もない仕事だが、彼には必要なかった。
彼は寒々しい公園に立つガス灯だった。毎日目の前の石畳の道を照らし、時間が来れば火は消される。毎日そんな暮らしをしていた彼だが、毎日楽しかった。
夕方になって、点灯員がやって来た。いつも必ず「今日もよろしく」と言って火を点けてくれる。反対に消す時は「お疲れ様です」と声をかけてくれる。
公園に立っていると色んな人が訪れる。彼はクリスマスが近いその日も寒い空気の中直立して、灯りを周りに振り撒いていた。
彼の下にはずっと一人の少年が寄りかかっている。少年は心臓を不要にどきどきと鼓動させ、振動が彼にも伝わってきていた。途中何度か深呼吸をして、決心したような目で彼の灯火を見つめるのだった。
しばらくして、一人の少女がそこへやって来た。少年が何かを呟いた。少女も呟いた。そして、お互いの想いを伝え合っていた。そしてそっと、口づけしていた。
彼はそんな二人を、目一杯暖かく照らした。この瞬間、彼に灯っていたのは火の光ではなく紛れもない「陽の光」だったろう。
またある日は、女性がずっと彼に頭を付いてうな垂れていた。お酒に酔ったのだろう、時々ぶつぶつと何かを呟く。
恋人と喧嘩したらしい。彼はそっと柔らかに陽の光を弱めた。彼女は彼に向かって話しかける。言葉なんて関係なく、彼は相談に乗ってあげた。
しばらくすると彼女は立ち上がった。酔いも覚めたような清々しい面持ちで、懐にごめんなさいの言葉をしまいこんで、去っていった。恋人の元へと行くのだろうか。
そして今日は、一人の老人が彼を見つめていた。老人もまた彼に触れ、そして微笑んだ。
彼の妻が亡くなって、ちょうど二周忌なのである。老人は過去幾度か彼に寄り添ってきたあの少年その人であった。
妻、そして妻になる前の思い出たちを、彼は陽の光に乗せて放ってあげた。言葉で伝えることも見せてやることもできない。しかし彼は今でも克明に覚えている過去の老人たちの姿を、陽の光で表していた。
点灯員の姿をした老人は、棒を彼に向けた。
ゆっくりと、時の流れのように消火する。
「今日もお疲れ様」
これにて、徒然な詩集は完結となります。
ジャンルやタグなどで色々を厳しいなろうの中、ブクマしてくださった方々や高い評価をつけてくださった方々がいること、誠に感謝しています。
この詩集はこれにて終わりとなってしまうのですが、元々は私の日々の詩筆の息抜きに始めたものでした。それがだんだん楽しくなって(皆様の声援も含めて)、ここまで続けられたんだと思います。
これからも詩を書いていきます。次の詩集は「迷想連奏歌」というタイトルで執筆していきます。こちらの詩集とは少し気色が異なるのですが、そちらもよろしくお願いします。
いつかこの詩集に残した詩も、再録したいと思います。
では、本当にありがとうございました。




