転送事故
翌日からはリーゼの徹底したゲート内で生き残る為の講義を聞く。
「じゃあ木刀で練習相手と稽古してくださいね。その前に前知識ですよ」
「うん。色々と教えて欲しい」
「まず、前に渡したアナライズリングで自分の能力を確認してくださいね」
俺は腕輪の宝石の部分を指でなぞって、リーゼの言う通りに確認する。
ここだけ見るとゲームみたいだ。
ゲームはかなりやり込んでいたからある程度わかる。
「ゲート……この世界でもそうですが、魔物を倒すと経験値とか入るります。その経験値が一定値を超えるとLvアップします。するとその分魔法的加護で強くなれます」
おお。ゲームッぽいと思ったらその通りなのか。
努力が数値化するならわかりやすい。
例え弱くても、少しずつがんばれば強くなれるって事だからね。
「それでゲートのことですが、ゲート内は一度入ると入口が無くなります」
「えっと、迷宮内の何処かに飛ばされる感じ?」
「はい。迷宮内の何処かに入った場所に戻る出口が存在しますので、まずはそこを探してください。そこに辿り着くと更に進むかどうかを選択できます」
んー……やっぱりローグ系のダンジョンみたいに感じる。
「後はとても大事な事なんですが、危険を感じたらすぐにでもこの道具を使って帰ってきてくださいね」
と、リーゼが渡したのは、丸い水晶玉?
中にはオイルタイマーのように中の何かが上下している。
「これは?」
「迷宮内で掲げると、すぐに抜け出せる緊急脱出アイテムのオイルタイマーです」
ああ、あるよね。そういうアイテム。
でもこういうアイテムってゲームだと結構安いけど、実際に命のやり取りをする場合どうなんだろう。
俺が価格を設定するとしたら、結構高く設定するな。
というか名称は想像通りなのか。
「高そうだね」
「命には代えられません。使うと中の燃料を消費します。補充する方法もありますけど……それは後で教えますね」
やっぱり高いんだ。
その後、リーゼの講習を受けた後、木刀で稽古を数日し、俺は晴れてゲート行きを許可された。
数日後。
ゲート前。
俺とリーゼはロザリーが斡旋してくれた冒険者を待っていた。
ゲートの下には、何個か扉のような小さなゲートがあった。
七色の光が波打ったカーテンのようなモノがある。
あそこを潜ると迷宮らしい。
何個かあるのは色々と出る場所が変わるとか。
稽古と言っても覚えたのは付け焼刃的な剣の使い方だけだけどさ。
お世辞かもしれないが、教えてくれた人は中々筋が良いと褒めてくれた。
魔法に関しては全然わからない。
リーゼが丁寧に教えてくれたけど、習得するまでの時間を考えると、迷惑が掛る。
それで、リーゼのポケットマネーで俺に高めの剣と鎧を購入してくれた。
ゲートに挑むのだってリーゼに迷惑を掛けて……自分が情けない。
これだけの事をしてもらったんだ。結果を残したい。
「本当は武術で相当の腕前になって、魔法も上位まで覚えてから行かせたいんですけど……近隣の魔物は少し強いですし、弱い魔物はゲートに行った方が早いとは……嫌な感じです」
石橋を叩いて渡る入念さをリーゼは言い放つ。
「いや、そこまで強いなら別の仕事が出来ちゃって、リーゼも少しはセイジの事を見守りなさいよ」
目的はゲートの探索なんだ。
一攫千金、出来れば養ってもらっている生活から抜け出したい。
自分から帰る手段の探求をしたいんだ。
帰るかどうかは手段が見つかった後で良い。
それに帰還方法だけではなく、迷宮内の道具でリーゼ達が欲しがる物もあるかもしれない。
そういった物を手に入れて恩を返せればいいかな。
なんて考えている。
「……」
「大丈夫だって、それにリーゼがゲートの外から俺に色々と教えてくれるんだろ? 今回は同行までしてくれるし」
「はい。使い魔と召喚者の能力で、サポートはします。初陣こそ危険なので、着いて行きますよ」
ロザリーが三名の冒険者を連れて来くる。
「じゃ、知り合いの冒険者を紹介するわね。この人はハイトイン。今回のパーティーのリーダーをしている人よ」
鎧を着込んだ好青年が俺に握手を求める。
「君が人間の使い魔となってしまったセイジさんですか。よろしくお願いします」
「実績もそれなりにあるから頼りになるはずよ」
「何もかもが初めてなんで、ご享受をお願いします」
「そう硬くならないで、あまり根を詰めると命を落とすから」
気さくな様子でハイトインさんは俺の肩を親しげに叩く。
「大丈夫。慣れるまで俺達がサポートするから、セイジは大船に乗ったつもりで付いて来てくれ」
「は、はい」
それから一人一人、ハイトインさんの仲間を紹介された。
みんな親しげに慣れた様子で挨拶をしてくれる。
その中で一人、なんか目つきが悪い奴がいた。。
「よろしく」
「よろしく」
「足手まといにならないようにな」
見た感じ、俺と同じくらいの男だ。
なんかヒョロっとしている。目つきがあんまり良くない。
一言で言えばチンピラっぽい。黒髪の青年だ。髪型はショートボブ。
俺よりも肌が白い。身長は……俺よりもやや低めかな?
「死なない様に気を付けて」
ただ、物腰は悪くないかな?
「じゃあメンバー登録をしようか」
そうそう、アナライズリングには便利な能力がかなりある。
その一つがメンバー登録。
これは……ネットゲームとかを知っている人ならわかるんじゃないだろうか?
パーティーの加入脱退に使うシステムだ。
事前にリーゼから聞いていたので、俺はアナライズリングを前に出し、ハイトインさんのアナライズリングと合わせる。
ピーンと甲高い音がして、アナライズリングにメンバー登録完了の文字が浮かんだ。
俺の後はリーゼ、ロザリーも続く。
「注意してくださいね。ゲートでは注意一秒怪我一生ですよ」
なんだかんだで少しワクワクしている自分が恥ずかしい。
「じゃあ登録も済んだし、学園の生徒さん達をゲートで案内しますか」
「よろしくお願いしますね」
「生徒さん達は使い魔で結構迷宮内は詳しいんじゃないかな?」
「まあ……実際に入った事は数回しかないです」
「じゃあ俺達よりも深い所に行ったことがあるんじゃないかな?」
「そんな……使い魔に無茶をさせているだけですよ」
「とにかく、学園の生徒にカッコいい所を見せてあげられたら良いな。むしろ助けられちゃったりして」
「そんな事無いわよ。ハイトイン」
うん。そこまで難しい事じゃない気がした。
「では、ゲートに入りますよ。時間は……うん。大丈夫なはずです」
リーゼが手を伸ばして俺の手を握る。
そして俺のアナライズリングに触れる。
「セイジさん」
「何?」
「これを」
リーゼはそう言うと数日前に宝石店みたいな所で受け取った箱からガラス片を取り出す。
「うわ! リーゼ! 奮発したわねー」
「こんな事になるんじゃないかと思って、注文していたんですよ。全てはセイジさんの為です」
「え? 何それ?」
どうやら物凄く高価な物らしい。
ロザリーの反応的に相当良い物なのかも。
「念には念を、これを」
リーゼが俺のアナライズリングにそのガラス片みたいな物を付ける。
カチっと音がして何かリングに嵌った。
俺が首を傾げているとリーゼが指を立てて応える。
「早くしないと遅れるわよー」
「はーい。セイジさん。ゲートを抜けてから教えますね」
「あ、うん……」
何だろう? 何から何までリーゼに出来る限りの事をさせてもらっている気がする。
俺はこの恩に応える事が出来るのだろうか?
先頭はハイトイン達、冒険者。次にロザリーが続く。
俺はリーゼと一緒に、光が波を打つ門……ゲートを潜った。
ウッと……エレベーターに乗ったような重圧のようなモノを感じる。
その時!
「え!?」
リーゼと繋いでいた手が空を切り、辺りが真っ暗になる。
そして強風に吹きさらされるような錯覚を覚え、俺は宙を舞う感覚を覚えた。
な、なんだ?
『セイジさん!? 何処へ行ったんですか!? 応答してください! セイジさん!? セイ――』
声を出すよりも先に俺の意識は遠くなっていった……。
『何故、セイジさんの探索が行えないのですか!』
リーゼの声が聞こえる。
ぼんやりと目を開けると、俺は何処かの木にぶら下がっていた。
『では……どうすればいいのかね?』
何度か瞬きをすると、目を閉じた瞬間だけ、別の視界が浮かぶ。
その視界には学園の講師達が集まっている席のようだった。
リーゼの声が耳に入る。
これ……もしかしてリーゼの視線か?
使い魔としての技能で視覚の共有が出来ていると見ていい。
「リーゼ?」
話しかけることが出来ないかと思って声を出す。
だが、リーゼには全く届いていない様だ。
何を話しているんだろう?
先ほどの言葉から俺を探そうとしている?
リーゼが再度、意見を述べる。
『話は戻るが、状況の確認だ。リーゼ君以外の者からの証言もあるのかね?』
『はい。セイジ殿は一緒にゲートを潜った者たち全員の前で忽然と消え去ったそうです』
『ふむ……リーゼ君。可能性の示唆は君なら出来ると思うが?』
『……セイジさんが使い魔、もしくは異世界人であるからと言う可能性が高いでしょう』
『次に、リーゼ君。君もわかっているだろうが使い魔が何処に居るかは契約した召喚者が一番わかっているはず。具体的に何処に飛んでしまったのか答えられるはずだと思うが?』
リーゼは視線を下に向け、強く目を瞑っているようだった。
『……わかりません。最低でも私の目の届かない、中階層以上の場所と推察されます……』
『我が国の者にそこまで深く潜れるものが居たかね?』
『あいにくと……』
『残念だが、精々救助依頼を出す程度しか出来ない』
ドスンとリーゼは強く床を踏みつけた。
『こちらも申し訳ないと思っている。だが、セイジ君を助けるために、多大な犠牲を払う訳にはいかないのもまた事実なのだ。二次遭難は、避けねばならない』
冷酷な決断に、俺は背筋にひんやりとした物が通り過ぎるのを感じていた。
つまり救助を出す事は出来ないと、要請を出したリーゼに国は言い放ったのだ。
『出来れば、力になりたいが……本当に申し訳ないと思っている』
国の重鎮の声が重い……俺の知る漫画やアニメのように悪意や無関心で言っているわけでは無く、本当に、危険すぎて断るしか出来ないと言うニュアンスだった。
たった一人を助けるために軍隊を使うなんて……無理な話だ。
もちろん、創作物語なら出来るのかもしれないけど。
『……わかりました』
唇を噛みながらリーゼは引きさがり、会議室の様な部屋から出た。
するとロザリーが心配そうな表情でリーゼに声を掛ける。
『どうだった?』
『……』
リーゼは無言で首を横に振る。
『私が悪かったの! 安易な気持ちでセイジを迷宮へ案内しようだなんてリーゼに言わなければ!』
両手を顔に当てて、ロザリーが嗚咽を漏らす。
……うん。リーゼの視界、耳を媒介にして、俺に届いている。
手伝うつもりが迷惑を掛けている……。
こんな事が起こるなんて想像もしなかった。
『諦めません!』
「リーゼ?」
『リー……ゼ?』
俺とロザリーが同時に、リーゼに疑問符を出す。
『奇跡に等しいかもしれませんが、手段が無い訳じゃないんです。ロザリーも協力してください』
『何をするの?』
『私は、セイジさんを呼びだせないか、ゲート内に居る人を呼びだす召喚を行います。ロザリーは冒険者に救助へ行けないか頼みこんできて!』
『!? そうね。わかったわ! 何があっても、セイジを助けるのよ! 私達にしか出来ない事なんだから!』
ロザリーが駆け出し、リーゼは召喚に必要な機材を集め始めた。
……俺も、現状を乗り越えるために少しでも努力すべきだ。
大きく目を開いて、周りを見渡す。
俺が引っかかっていたのはかなり大きな木の枝みたいだ。
布団みたいにぶら下がっているだけなので、起き上がる事は出来そう。
木の枝に引っかかっているだけだから、もう少し辺りを確認してみる。
丘の上にある大きな木……なのかな?
周りは草原で、背の高い草が生えていて、迷路のようだ。
上をみると青空。迷宮とは似合わない場所に見える……。
ここが……迷宮なのか?
アナライズリングで自分のステータスを確認する。
ゲーム的に言うなら状態異常とかの確認だ。
うん。問題ない。
次は所持品。
これもアナライズリングが解析してくれている。
ただ……リーゼの話と異なる事があったんだった。
俺の詳しいステータスが分からず、棒グラフみたいなんだよな。
一応、どう言う能力をしているかの予測は出来るけど、細かな数字が分からない。
こんな物なのか?
腰に差したリーゼから買ってもらった剣と、鎧。後、鎧の内ポケットに入れておいた脱出用のオイルタイマーがあった。
これは幸運。
確か、掲げれば良いんだっけ?
俺はオイルタイマーを取り出して掲げる。
……何も起こらない。
ん? アナライズリングに項目が出現した。
階層が深くて使用できません。
脱出アイテムの条件が満たせない!
こうなったら、一か八かで木から降りて探索しながら帰る為の出口へ向かうしかない。
中階層とか言っていた気がする。
強力な魔物と遭遇したら一巻の終わりだ。
だけど、ここでリーゼが召喚できるかもしれないと奇跡を信じて居るよりは良いかも。
だって、木を登れる魔物がいないとも限らないし、空を飛ぶ魔物だっているだろう。
そんな奴に目を付けられたら終わりだ。
せめて隠れる場所を探すべきだ。
こうして俺は恐る恐る、木から降りるのだった。
目を強く瞑る。
リーゼが召喚を行っている光景が見えてくる。
だが、召喚が成功する気配は無い。
「よし!」
腰に付けた剣を鞘から抜いて、周りを警戒しながら俺は歩き出した。
背の高い草に近づいて音を確認する。
……どうやら草の密度が高く、無理に入り込むのは難しい。
出来なくは無いが、物音を立ててしまうから道なりに進むべきだな。
ここで所持品を再チェックしよう。
『白銀の剣』★ 付与効果、重量軽減
『銀の胸当て』★ 付与効果、重量軽減 防御力アップ
リーゼが俺の為にと扱いやすい装備を見繕ってくれたのだ。
そのお陰か、この二つはとても軽くて動きやすい。
かなり値が張るのは、わかっていた。
何せ、銅の剣とか鉄の剣や鋼の剣とかじゃなくいきなり白銀の剣だ。
しかも防具も銀! RPGとかじゃ中盤に使いそうな装備だ。
ロザリーから聞いた話だとかなり奮発してくれている。
リーゼの真心が目に染みるよホント……。
まあ、かなり深い所に飛ばされてしまったらしいから、この装備で大丈夫かは不安だけどね。
むしろ初陣でこんな事故に巻き込まれるって俺は運が無いなぁ。
考えてもみれば車に轢き逃げされて、異世界だもんな。
今まで自分を不幸だと思った事はないが、もしかしたら不幸体質なんだろうか。
リーゼもかなり焦っているようだったから、もしかしたら俺だけ特別にこんな状況に陥ってしまっているのかもしれない。
とにかく……警戒して進もう。
恐る恐る道なりに歩く。
すると無造作に盾が落ちているのを発見した。
……魔物の擬態とかか?
まだ魔物に遭遇した事は無い。
魔物と呼べるような化け物と言ったら、学園の使い魔や使役魔、飼育魔だっけ? くらいしか見たことが無い。
RPGに出てくる擬態する魔物と言うとミミックだが、武器や防具に擬態する魔物がいてもおかしくはない。
恐る恐る、床に転がっている盾を白銀の剣で突く。
……特に変わった様子は無い。
カンカンと金属同士がぶつかり合う音が響くだけだ。
盾は……なんだろうか? 蛇腹のような模様と鱗が施されている。
多分、盾。
そんな感じのお盆みたいな物だ。
試しに剣を使って引っくり返すと持つ手が見える。
うん。多分、本物だ。間違っても魔物じゃないだろう。
インテリジェンスウェポンとかの可能性が無い訳じゃないけど、持ってみるしかない。
俺は取っ手を掴んで持ち上げてみた。
思ったよりも重いな。
アナライズリングが反応する。
『スケイルシールド』★★★ 付与効果、マヒ耐性
星三つ?
なんかイヤな予感がしてきた。




