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アナライズリング

 それから俺はリーゼの部屋から出て、異世界を案内された。

 まず古臭い石造りの建物が学校の寮だった。

 リーゼはこの学校の講師を兼任した学生らしい。

 だから一般生徒よりも個室が大きい。

 そのお陰で俺と同室でも大丈夫……だそうだ。


 寮を出ると大きな学び舎が見えた。

 三階建ての大きな西洋建築の建物だ。

 これが何棟か建っていてその先には塀がある。

 校庭には魔法陣みたいな模様が書かれていて、空には……大きなハトやスズメみたいな動物が飛んでいた。

 目測だけど全長1、5メートルはある。


 なんだあれ!?

 やはりここは異世界なんだと内心唖然としていた。


「あれが使い魔?」

「ええ、生徒の使い魔です。中型だけど弱めの魔物ですね」

「はー……」


 俺もカテゴリーで言えば使い魔らしいが……あんなのと同じ扱いなのか。

 で、学校の塀の外は町並みが続いていて、その先には大きなお城がある。

 凄いな。何度目かわからないけど、ドッキリにしてはやりすぎだ。

 もはや疑いようもない。

 半ば感心しながらお上りさんのように俺はリーゼの紹介を受けながらドラーク学園を見て回った。

 そこで気付いたことが一つある。


「あの……」

「なんですか?」

「あの学園の門を出てまっすぐ進んだ先にある大きな凱旋門みたいなのは何?」


 そう、城と学園を繋ぐ道の先に、凱旋門みたいなのが堂々と建っていたのだ。

 なんか人が集まって出入りしている……様に見えるのだけど、なんだろう。

 都市の出入り口とかを想像したが、位置的にありえない。

 かなり都市部の中心にあって、あんな所に巨大な門を建造する理由が思いつかない。

 まあ異世界の文化だと言われたらそれまでだけどさ。


「あれはゲート……迷宮への入り口です」

「迷宮?」

「ええ」


 リーゼはそこで説明を終えてしまった。

 え? 何の不思議も無いの?

 よく考えたらそれが当たり前の人に取って迷宮というモノが何かを説明するのは難しいかもしれない。

 ほら、夜になんで星が浮かんでいるの?

 と、聞いても詳しくない人は説明できないだろ。


「ごめん。俺の世界にはああいうのは無いから、詳しく教えてくれない?」

「あ、ごめんなさい。そうですよね」


 リーゼはコホンと軽く咳をしてから答える。


「迷宮というのは、入る毎に形を変える、留まる事の出来ない不思議な場所としか言えません。あそこには様々な財宝が眠っていて、命知らずの冒険者は直接乗り込んで一攫千金を夢見るんです」

「……なんとなくだけどわかった気がする」


 つまり、RPGとかに出てくるダンジョンの入り口なんだ。

 で、そこには宝が眠っていて、あそこに居るのは冒険者と言う名のトレジャーハンターか。

 それで迷宮内はローグダンジョンのように形を変える性質を持っていて、変動すると。

 なるほどなぁ。


「入る場所や時間帯を選べば、ある程度、安全か危険かを選べるんですけどね」

「へー……」

「命が惜しかったら入らない方が良いわ」


 確かにむやみやたら入りたいとは思えない場所だ。

 興味が無いかと言われれば、あるけどさ。


「とはいえ……私達、ドラーク学園の学生はゲートへ使い魔を使わせて道具を取ってこさせるのを仕事にしているんですよ」

「使い魔を使うの?」

「ええ、使い魔の方が安全ですし、言ってはなんだけど召喚したタイプは損失も少ないし命令して操作出来るから……あ、でもセイジさんは行ってはダメですよ」

「あ、うん……」


 ダメだと言われると余計に気になるけど、リーゼが言うのだからしょうがない。

 それに逆に考えれば、そういう目的で俺を召喚したんじゃないって事がわかる。

 俺が召喚されたのは事故らしいから事情が違うのかもしれないけど。


「じゃあ次に行きましょう」


 リーゼに案内されて次に行ったのは学園内の教室だった。

 ここは大学と似た感じで階段状の席と黒板がある。

 ただ、機材は俺の知るモノとはかなり違う。

 幾何学模様の羊皮紙とか、宝石の嵌った杖とかが置いてある。

 自分でも興奮していると思う。キラキラした目で見てると思う。

 リーゼが何か楽しそうに笑う。


「ここが教室です。セイジさんは私の権限でいつでも授業を参観することが出来ますから安心してください」


 知らない学園の授業を見ていてもよくわからないだろうけど異世界の学校とか勉強に興味はある。

 やっぱり魔法とかの授業をしているんだろうか。

 リーゼが魔導学と言っていたし、他の科目もあるだろう。


「リーゼは講師で学生なんだっけ?」


 変わった経歴だと思う。

 教える側でもあって学ぶ側でもあるとか。

 日本では考えられない役職だ。


「はい。何分、この学園は新設の小さい学園なので」

「そうなんだ? てっきりその分野じゃ天才だけど他の分野も学びたいとかそんな感じかと思ってた」

「授業内容は理解していますよ。ですけど、専門の先生を招待できなかっただけなんですよ。国も小さいですし……」


 経営が怪しい学園だな。

 いや、国が小さいのか。

 思い出してみれば、確かに城が小さかった気もする。


「隣の国へ行けば、大きな学園がありますよ」

「そうなんだ」


 とはいえ、俺の立場ってリーゼに保護された異世界人でしかない。

 リーゼがそっちに行くなら俺も付いて行くことになるのかもしれないけど、自分から行くことは無いんじゃないかな。

 それこそリーゼが突然豹変して俺が追い出される、とか現状想像も付かない不測の事態にならないと、そこまでアクティブに動こうとは思わないはずだ。


「私、小さい頃から魔導学に興味があって、親も資料を沢山持っていたから、自然と覚えてしまいまして」


 あー、そういうのあるよな。

 親が珍しい職業だと子供もそれに興味持ったりとかさ。

 それに見た所、魔法なんかの文化以外は日本と比べて文化水準は劣っている。

 日本みたいな、ある程度自由な風潮が無いと、親の仕事を子供が受け継ぐ、とか自然だろうし。


「なるほど、魔法とはどう違うの?」

「魔導学は魔法学と錬金学の間みたいな学問……ですかね」


 それがよくわからないんだが……錬金という言葉には覚えがあった。


「錬金って鉛を金に変えるって奴だよね? もしくはいろんな道具を作る学問?」

「詳しいですね。そうです。元々はそういう考えを元にしています。金よりも希少な鉱石もありますけど」

「なるほど。魔導学はどう違うの?」

「元々は錬金学から派生した。道具を魔法で更に強化出来ないかと研究する学問です」

「じゃあ総合? 専門? どっちなんだかわからないけど頭良いんだね」

「どっちつかずになりやすいんですよ。私もそんなどっちつかずの講師ですから」


 と言いながらリーゼは教室の隅に置いてある機材を持ってくる。

 何だろう?

 試験管とかが色々と付いたエンジンのようなモノだ。かなり重そうだな。

 台車で運んでくる。


「これは?」

「魔導推進装置の試作品です。飛行魔法の出力を上げて大多数の人間が移動できるようにするものですよ」

「えっと……ホウキで空を飛ぶ、みたいな感じかな?」

「はい。もっと大人数で……絨毯みたいにするのを目標にしていますよ」


 空飛ぶ絨毯に設置する為の道具という事か。

 つまり、魔導学とは魔法の道具をより使いやすくする為の学問、もしくは使える人間を育てる学問なんだ。

 車に例えると免許を得るための常識を学ぶみたいな側面があるのかもしれない。

 ただ、リーゼの持ってきた機材は……なんか試作品な匂いがする。


「では見ていてくださいね」

「うん」


 リーゼが機材に手をかざし、魔法を唱える。

 すると、機材は台車ごと浮かび上がった。


「おお!」

「ただ、現在はこれが限界なんですよ」


 床を50センチ浮かんだ所で、台車は留まっている。

 ブルンブルンと音が聞こえる。

 ゴポゴポと音を立てて、試験管内の薬品が沸騰していた。


「媒体になる鉱石に問題があるのはわかっているのですけど……」

「……へー」


 俺的にはこれだけでも結構凄いんだけどなぁ。


「リーゼが作ったの?」

「学校の研究者と共同開発ですよ」

「錬金学とはどう違うのか教えて欲しいな」

「どちらかと言うと錬金学は素材の持ち味を重視する傾向があって、薬とかが盛んですね。逆に魔導学は空飛ぶ道具とか意志を持った剣の研究です。昔は同じ学問、錬金魔導だったのですけど、学ぶ範囲の多さから錬金と魔導に別れました」


 いまいちピンとこないけど、何を伝えようとしているのかわかった。

 科学と化学みたいな差だと思って納得すると良いのかもしれない。

 元々は科学みたいに大きな範囲での分野だったのだけど、分野が広すぎて学びきれない。だから小分けにした。

 みたいな感じだ。


 もっとわかりやすく言うなら病院に例えると楽かもしれない。

 内科と外科みたいな感じだ。

 内科が錬金で外科が魔導なんだと思う。

 こうでもしないと頭の中で混ざりそう。似てるし。

 多分、リーゼの中じゃ全く違うんだろうけど。


「他に合成学がありますが、これはまたちょっと違うので後回しにしますね」

「うん」


 合成学……なんだろう。そこはかとなくロマンを感じるネームだ。


「そして……錬金魔導学の大発明と言われているのがこれです」


 と、リーゼは棚から一つの腕輪を俺に見せた。

 真ん中の宝石は透明なエメラルドみたいな輝きを宿し、腕輪の部分は金色。


「何これ?」

「アナライズリングです。手を出してみてください」

「う、うん」


 言われるまま俺は手を前に出す。

 するとリーゼは腕輪を俺の腕に通した。


「後は宝石の部分に手をかざしてみてください」

「こう?」


 言われるまま、宝石の部分に手をかざす。

 するとシュンと音を立ててホログラフみたいな物が浮かび上がった。

 そこには俺にも読める文字でこう書いてあった。


 Lv1

 そしていろんな項目が浮かびあがっている様に見える。


「な、なんだ?」


 Lv1?

 これはあれか?

 ゲームとかに登場するLvであっているのか?


「これがセイジさんの能力という事になります。あ、ちなみに見せるように設定しないと私には読めませんよ」

「そうなの? というかこれ何?」

「ですからアナライズリングと言います。冒険者は元より、世界中の人々が愛用している道具ですよ」

「へー……結構高そうだけど大丈夫なの?」

「あくまで一般庶民でも自らの能力を見ることのできる魔法を道具が代用してくれているだけなので、原価もそこまで高くはありません」


 なんか格好良いけど、貴重品じゃないのか。


「解析の魔法が使えるならこれはなくても問題ないですし」

「補助具みたいな感じ?」

「はい。魔導学はこのように、魔法が苦手な人が魔法を使えるように、魔法が得意な人はより高度な魔法が使えるようになる為の学問なんです」

「とりあえずわかったよ」


 君が凄い研究者で学生なんだって事を。


「じゃあリーゼは魔導学の講師をしつつ、錬金や魔法を学んでいるとかそんな感じ?」

「はい! 一ジャンルだけを極めているよりも総合的に学んで技術を身につけようとしているんです」


 すごく真面目な子なんだな……俺は真面目に大学の授業を受けていただろうか。

 ……就職の足がかり程度にしか考えてなかったかもな。


「なるほど……それでなんで使い魔が必要なの? 見た感じだとリーゼの専門には不必要に見えるけど」

「これは授業中の事なんですけど――」


 リーゼは俺が召喚される時のことを話し始めた。


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