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合成科

「毛皮を加工した場合はどうなりました?」

「硬くて針が通り辛くてな……胸当てをどうやってお前は加工したんだ?」

「破損した銀の胸当てに甲羅に穴を開けて強引に通したんですけど」

「ふむ……まあいい。とりあえず出来たから見てくれ」


 と、毛皮で簡単なポーチを作ってもらった。


 毛皮のポーチ ★★★ 付与効果 頑丈


「あ、これは★が減ってませんね」

「毛皮を結って糸にして作った。ただ、これ以上の物を作ろうとしたら失敗した……どうも他にも法則があると見て良いだろう。そもそも……これの成功率がどんなものだったか知りたいか?」


 あ、作ってくれた生徒が愚痴を見せてる。

 ずらっと横に失敗したと思わしきポーチが並んでるなぁ。

 持ってきた毛皮は全滅したか。


「3割以下だよ。栄えあるドラーク学園の鍛冶科の名が廃るぜ……簡単なポーチでこれだ……しかも物凄く力が必要になる。失敗の原因は力が必要過ぎるんだ」


 背中が煤けてるよ……。

 うーん……まだ謎が多い。

 始まったばかりのゲームをやっている様な装備の揃わなさを感じてきたぞ。


「とりあえず簡単な物ならどうにか★を落とさずに加工できる。だが、少しでも難しい物だと★が落ちるのがわかった」


 リーゼに白銀の剣と胸当てを買ってもらった時はいきなり良い装備だとテンションが上がっていたけど、思う通りには行かないか。


「こりゃあ錬金科や魔導科も似た事になりそうだな」

「でしょうね……とはいえ、錬金科はセイジさんに薬草等の素材を調達してもらってから試す事になります。魔導科の方はパーツ単位で作る事になりそうですね……」

「どっちにしても、俺達には現状はお手上げの状況になっちまってる。あんまり役に立ちそうにない」

「いえいえ、こっちも無理を承知でお願いしたわけですし」


 俺とリーゼが揃って頭を下げるとエルトブルグさんが手を振る。


「気にすんな。未知への挑戦って好奇心をこっちは満たせているんだ。まだ遥かに高みがあるのを知る事が出来たんだからよ。むしろ感謝したい位だ」


 気前の良い返事にこっちも嬉しくなる。


「ただなぁ……万全の準備でゲートに挑む為の装備ってなると応えられねえのが悔しい所だぜ」

「やっぱそうなりますよね。あの格好でまたゲートに挑む事になるのか」


 言ってて悲しくなる格好で俺は武装していた。

 地味にあの装備で性能が上がるのが判明している手前、ファッションで装備の質を落とすのは避けたい。

 せめて統一感が欲しかったなぁ。


「ま、その辺りはローブを羽織ったりして誤魔化せ」

「あ、はい……」

「後は……装備周りなら合成科辺りにでも言って試すしかないな」


 ビクッとリーゼが何故か合成科の話を聞いて冷や汗を流すのを俺は見た。

 微妙な反応だ。


「何かあるの?」

「うーん……あると言えばありますし、無いと言えば無いですね。おそらく同じ結果には……」

「ならねえと思うぜ? ただ、上手く行けば鍛冶科で出来た武器を更なる高みへ行かせるのも合成科だ。避けていい問題じゃねえ」


 エルトブルグさんがそう言うとリーゼは溜息を漏らして頷く。

 どうやらそういう事らしい。

 まあ合成って位だし、色々と複雑なのかもしれない。


「そうなるでしょうね。むしろセイジさんが持ってきた武具を一番強化出来そうなのは合成科であるのもまた事実、行くしかないですね」

「そんなにやばい所なの?」


 確か合成科って学園内を通る小川沿いにある水車小屋だ。

 あそこって何か変な事やっていたっけ?

 というか合成科ってすごく静かと言うか、どんな授業をしてるのか知らない。


「ドラーク学園で合成科の生徒は一人しかいねえよ。教師で生徒、研究者だ」

「へー……」

「セイジさんも知っている人ですよ」

「え? そうなの?」

「ええ、自己紹介をしたじゃないですか」


 学園の人は殆ど紹介したと思うけど……誰だっけ?

 顔を見ればわかると思うんだけど、如何せん科目だけじゃわからない。

 そんな感じで俺達は鍛冶科の人達と別れて学園の水車小屋に行った。


 あ、★1のどうの剣はもらった。

 初めて上手く出来た装備品だから何処かに飾っておきたい。

 ゲートに持って行ったら一発で折れそうだけどさ。

 まあ、邪魔になるまで記念品として保管しておこう。


「セイジさん?」

「ん? なんでもない」


 ブンブンとどうの剣を振ってカッコつけていたらリーゼに疑問符を浮かべられてしまった。

 こ、この気持ちは男の子にしかわからないと思う。

 でも恥かしいのでリーゼの前ではやらない様に気を付けよう。


 改めて水車小屋……かなり大きい水車付きの家の前に付いた。

 なんだ? 水車の動力を利用しているのかよくわからないけど何かをドンドンと粉を引いている様な物が窓から見える。

 小麦を引いてる訳では無さそうで……部屋の奥には樽……その上に漬物石が置かれていた。


 なんだろう?

 で、少し離れた所には何か檻? 確か飼育魔科だったかが世話している魔物っぽいのが檻に入っている。

 リーゼが一度深呼吸をしてからコンコンと水車小屋の扉をたたく。

 ……ドスドスと水車小屋の中から物音が聞こえてきた。

 そしてガチャッと扉が開く。


「ムウ?」


 そこにはクマのようなハムスターのようなそれでいてピンク色の不思議な生き物が扉を器用に開けて出迎えてくれた。

 この生物は確か……そうそうフェーリカだ。

 みんなが連れていた使い魔や飼育魔の中で一番印象に残っている。


 主の名前は確か……レイオンだった気がする。

 あの妙に顔の良い美少年だ。


「あ、フェーリカさん。こんにちは」

「ムウ!」


 ネコのようなそれでありながらもフレンドリーな様子でフェーリカが手を開いて応じる。

 ホントなんだろう? この生物。

 魔物なのはわかるけど。


「レイオンさんはいますか?」


 よし、間違ってなかった。


「ムウ!」


 コクリとフェーリカは頷いて水車小屋に入る様に案内する。

 俺達はそのまま水車小屋の中に入る。

 ゴンゴンと粉を引く様な音が定期的に響いている。

 職人の小屋って感じだろうか?


 そのままフェーリカが案内するまま、小屋の居住スペースっぽい所を通って案内されると……レイオンが何か風呂に入浴して、書物を読んでいる最中だった。

 何かハーブっぽい物を浮かべた風呂で、凄くゆったりとしてる。

 野郎の入浴シーンと嫌悪する事は簡単じゃない。


 女と見間違える幼い美少年の入浴なのだ。

 欲情はしないが嫌悪の感情も湧かない。

 むしろわからない。なんで入浴中?

 どうしたら良いんだよ!


「おかえりフェーリカ。あ、リーゼとセイジ! 僕に何か用?」


 俺が無言でレイオンを指差すとリーゼがコクリと頷く。


「えっと、レイオンは合成科って所の生徒なのか?」

「うん。僕は合成科の研究生だよ? それで何の用?」

「その合成について色々と聞いて良いか?」

「良いけど?」


 当たり前の様に首を傾げるレイオンに俺は準を追って尋ねたい事を考える。


「入浴中?」

「うん。これも仕事でね」

「仕事?」


 合成科とやらは水浴びが仕事なのか?

 一体どんな事をする学問なんだろうか?


「ええ……合成には術師の魔力を液体に溶かす必要がありまして、その為にレイオンさんは薬草を入れた風呂に浸かっているんだと思います」

「魔法科とも錬金科とも合成科は違うからね。魔力液を作ってる最中なんだ」


 美少年の入った水で何を合成するんだ!?

 この学園に来てしばらく経ったけど初めて知ったぞ。

 差別などをするつもりはないが、変な想像をしてしまう。


「リーゼの魔導具の燃料みたいな感じ? 魔結晶を使うみたいに」

「例え方に色々と指摘したいですが似た様な物ですかね」

「自分の魔力なら細かな調整が出来るからね。成功率が格段に引き上がるんだ」

「何をする訳?」

「合成だけど?」


 一応、説明に一貫性はあるが、どうも俺の想像が追いつかない。

 察しろと言うのは難しい。

 どうしても俺の持っている常識とは懸け離れている印象を受ける。


「じゃあ合成ってどんな学問なのか教えてほしい」

「んー……そう言われると少し難しいかな。セイジは錬金科とか見た事あるよね」

「まあ」


 ぶっちゃけると科学の前段階……に魔法要素が混ざって発展した学問って感じだった。

 リーゼもその辺りの造詣は深いから聞けばある程度は教えてくれる。

 薬草を二つ練り合わせて薬にしたり、魔法の補助をする火薬みたいな粉を作ったり……鍛冶科と協力して合金を作るイメージだ。


「同じ組み合わせで別の結果が出るのが合成科だよ」


チュートリアルが終了すると突然出来る事が増えるRPGの図。

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