鍛冶科
「で? 何の用だ?」
「それが、ゲートへ調査に向かう事になりまして、武具の相談が出来ないかと思って来た所です」
エルトブルグさんは俺を上から下まで凝視してから顎に手を当てて呻く。
「セイジだったか。お前がゲートから持ち帰った品を改めて見せてくれねえか?」
「あ、はい」
俺はなまくら剣とアイアンピックを取り出してエルトブルグとボルトに手渡す。
ズシッと重たそうに二人をそれぞれの武器を持ち込んでテーブルに乗せた。
残りの鎧は……一応俺が運び込む。
「国の研究工房に持ち込まれた時にも確認はしたんだがよ」
エルトブルグさんはなまくら剣を重そうに両手で持って観察した後、台座に剣を置いてハンマーで軽く叩く。
鈍い金属音が響いた。
「やっぱ見た目に関しちゃふざけた代物にしか見えねえんだがなぁ……これで聖剣を切ったとかありえねぇ、と言いたい所だ。セイジ、ちょっと持って――」
エルトブルグさんが木箱に無造作に押し込まれていた剣を一本、地面に突き刺す。
「この剣の刀身になまくらの刀身を当ててみてくれ」
「あ、はい」
俺はなまくらを持って力を込める。
自然と刀身の赤い魔力の膜のような物が出現し、少し力を込めて地面に突き刺さっている剣の刀身に当てる。
スパッと段ボールをカッターで切った様な手ごたえと共に地面に突き刺した方の剣の刀身が切り取られた。
「うーむ……」
その様子を見てエルトブルグさんは呻く。
えっと……壊しちゃったけど、大丈夫なのか?
「わ、すげー……これって先生の作った物の中でもかなりの上物なのに、容易く……」
俺はなまくら剣をテーブルに置いて申し訳なく思いながら両手を合わせる。
そしてエルトブルグさんはアイアンピックを何度もハンマーで軽く小突きながら魔法らしき何かを使う。
「で? 相談ってのは具体的にどんなもんだ?」
「まずは武具で良いのを見繕えないでしょうか?」
リーゼの質問にエルトブルグさんは首を横に振る。
「出来合いの物じゃ、前回持たせたのと同じく役に立つとは思えねえな」
「……やはりそうですか」
俺も薄々は思っていた。
王様や国の推測が正しいのなら、★1の武具で★3相当の敵と渡り歩くのは無理がある。
「あの聖剣を斬り飛ばしちまう程の武器よりも良い物を作れってのは無茶な相談だ。まだ未知数な所が多すぎてな」
「うわー……見た目なまくらにしか見えないってのに、どんだけの性能があるんだろう……」
「ぶっちゃけ、気持ち悪い武器ですか?」
俺の質問に二人揃って頷かれた。
うん。俺もそう思う。
よく考えて見れば伝説の剣がひのきの棒に負ける様な物だ。
色々な意味で不気味な物体、という印象を覚える。
「とは言え、回収された聖剣の刀身も俺は調べたんだがよ。剣の威力自体はなまくらの方がそれなりに上程度だ。実質無い様なもんだな。これに加護とかが追加された結果だろう」
おお、俺のなまくら剣ってあの聖剣より、それくらいの差なんだ?
逆算で★1の上から数えた武器と★3の最低辺のなまくら……★2があるならそっちの方が強い武器もあるとかだろう。
「わかんねぇのは+5って奴だな。こんなの見た事がねぇ」
武器の+値ってこの世界には無いのか。
ゲーム的に考えるなら少しだけ強化されているって所なんだろうけど。
あれだ。今まで付与合成だけだったのかもしれない。
「で? そんな状況で俺達に何を頼みたいんだ?」
「聞かなくても何が目的なのかわかるかと思いますけど」
リーゼの返答にエルトブルグさんが頷き、溜息を漏らす。
「持ち込まれた★3の素材を使って良い武器に出来ないか、なんて相談に来たと見て良いな?」
エルトブルグさんの質問に俺もリーゼも頷く。
「それは俺も考えた。試すのは良いんだが……」
ああ、そういえばなまくらの影に隠れていたけどもう一本錆びたどうの剣があったはずだ。
アレは何処へ行ったっけ?
国に渡す際に研究に使っても良いか? という相談を受けて、渡したのは覚えているんだけど。
「国が事前に許可を取って調べた物があるんだがな。錆びたどうの剣を溶解させて作り直したらどうなるかってよ」
「なまくらでやらなかったんですね」
「混ぜ物があるのはわかっていた。わかりやすいどうの剣で実験したんだ。剣からナイフ辺りにすれば良いかもしれない、とな」
「結果は?」
エルトブルグさんは若干視線を逸らしながら溜息を漏らす。
「まず溶解させるのに苦労した。国でも最高の炉の限界温度までやってやっと溶解した……それだけならまだしも型に移し替えて完成した物を見た時は鍛冶師が総出で首を傾げたもんよ」
「な、何があったんですか?」
「何故か★が1になって、再度加熱したらアッサリと溶解、普通のどうの剣に逆戻りよ。やってらんねえな」
うーん……劣化してしまったという事か。
どういう原理なんだろう?
「アレ? でもこのなまくらを打ったのはゲート内で破棄された工房でですよ?」
俺はゲート内にあった破棄されたかまどを使ってどうの剣を適当にカンカンして作った……ぶっちゃけどうの剣に性能では劣ると思われる逸品だ。
にも関わらず出来あがったなまくら剣は+5で炎の加護と言うのが付与されていた。
★は維持されていたし……。
「ああ、その話も俺達の所に来ていた。職人同士で話し合った結果、複数の案が出て目下、セイジ。お前がサンプルを持ってくるのを待っている段階だ」
「サンプル?」
「まずはどんな案があったかを教えてもらわないと答えられませんよ?」
リーゼの返答にエルトブルグさんが頷いた。
「そりゃあそうだったな。まず出てきた案がセイジ、お前が打ったから出来たのか? だ。俺達よりも★が上だからではないかって意見がある。どうだ?」
「……わかりません」
まだ未知数な状況だから断言できない。
あの時はどうして★を落とさずに出来たのか。
その謎の解明をして行かないとゲートでの戦いを含めて装備の強化が難しくなるって事か。
考えてみれば火山のフィールドで運良く工房を見つけて鍛冶をしなきゃ武器を作れないんじゃ非効率だし、俺が作れるなら覚えて損は無いと……。
「だろうな。その実験を後でここでやってもらえばどうとでもなる。簡単な奴で良いからセイジ、お前にレクチャーしながら作るぞ」
「は、はい」
教えを請うて俺が自作……か、確かにそれはありえるし、面白そうと思ってしまった。
でもやっぱりこういうのって専門的な知識が必要だし経験も無いと良い物を作れないんだろう。
「他には?」
「他は窯の方だ。窯の★が足りなくて質が落ちたんじゃないかって意見がある。後はその複合、他にゲート内じゃないといけない、なんて推測をしている段階だ」
「じゃあ実験に職業体験としてやってみます?」
「うん。錆びてないどうの剣の★3が作れるなら良いかも」
そんな訳で鍛冶科の教師の指導の元、俺は鍛冶に挑戦する事になった。
この間に、エルトブルグさんや鍛冶科の生徒は俺が持ち込んだ鎧のチェックをしてくれる。
「随分と硬度の高い甲羅だなぁ……セイジ。これって何の甲羅なんだ?」
「橙河童という魔物ですね」
「こっちの羽毛は?」
「パープルオウルです」
「赤い毛皮は?」
「赤幼妖狐です」
とまあ毛皮一つで色々と説明してくれた。
なんか鍛冶科って装備品全般を扱っている学科で服も該当するらしい。
毛皮をガヤガヤと分析していた。
ユニーク装備とかの解析と言うか分解後の補修、ボロボロのスケイルシールドの補修もしてもらった。
で、講義の最後にもらったのがどうの剣。
『どうの剣』★ 付与効果 無し
案の定俺が作っても★は1だった。
「やはり窯が原因か?」
「どうなんでしょう?」
「とりあえずセイジが作るって条件の方はわからねえな……そういう事もあってゲートに挑む事があったらゲートから出る前に石でも何でも良いから★3の石を大量に拾って来てくれ。簡易的なかまどを作ってみる」
「わかりました」
少し面倒だけど必要になる項目だと思う。
ただ……帰る時の姿を見たらシュールな光景になりそうだなぁ。
とはいえ、それで協力が出来るなら悪く無い内容だ。




