研究と探索
「リーゼくんや学園の者は些かセイジくんを過保護に心配し過ぎだと私も思ってね。もちろん、セイジくんがゲートに行きたくないなら行かなくていい」
王様はリーゼの肩にポンを手を乗せてから俺に近づく。
今度は俺に耳打ち?
「ゲートに挑んで一攫千金出来ればリーゼくんを初め学園の人達への恩返しも出来ると思う」
あー……うん。
意味はわかる。
俺は持ってきた物は新発見の塊らしいし、大金持ちにはなれるかもしれない。
「ゲートの仕組みの解明というのは安全の模索でもある。その研究をリーゼくんとセイジくんにしてもらいたい訳だよ」
多分、いろんな陰謀が渦巻いているのを王様はそれとなく俺達に教えてくれているんだろうなぁ。
立場的に面と向かって真実は言えないって所だろうか。
「はぁ……つまりどういう事ですか?」
「国からすれば出来ればセイジくんの品々を研究したいのだよ。その為の恩賞は出す事も決まっている。君達さえその気になれば国は出来る限りのサポートをしよう」
完全にバックアップはしてくれる保証か。
うーん……。
「なに、危険と言ってもセイジくんは既に脱出用の道具を確保している。最低でも三回は使用可能なのだから挑戦をしない手は無いと思うよ」
「え? あのオイルタイマーって三回も使用出来るんだ?」
「はい。そしてゲート内の次の階層へ行く出口に行くと補充できます」
となると前回みたいな危険な行動をしなくても良いって事になるのか。
それなら……。
「……わかりました」
「リーゼ?」
反対を表明していたリーゼが非常に受け入れ難いと言う態度で了承する。
「全てはセイジさんの自由です。もちろん行くなら、念には念をと行きますけどね」
ゲートに挑んだ日を思い出す。
リーゼは万全の準備に加えて冒険者を雇ってまで俺にゲートを挑むようにしてくれた。
帰還の方法が簡単に見つかったら苦労なんてしない。
まあ……帰りたいという願望はちょっと薄い。
単に好奇心で行きたかったに過ぎなかった。
けど、何かあった時にリーゼ達を守れなかったら嫌だ。
言ってはなんだがゲート内の感覚ってローグ系のゲームに似た雰囲気があった。
不思議の迷宮と言えばわかる人がいるかもしれない。
最低でも三回は安全に帰還が可能なら、やってみても良いか。
「……リーゼはどうして欲しい?」
「何故私に尋ねるんですか?」
「俺はリーゼに召喚された訳だし、命を助けてもらった。この前はワガママを言って迷惑を掛けてしまったからこそ、リーゼの考えを聞きたい」
俺の返答にリーゼは考える。
結果的にとはいえ、リーゼの考えは正しかった。
それに保守的と言われているけど、リーゼは安全策を取るタイプだ。
確かに大きく成功する可能性は減るけど、失敗する可能性も少なくなる。
だからリーゼの考えなら信用出来る。
「セイジさん……そう、ですね。私達は学生であると同時に研究者です。ゲートに新技術が見つかったのならば目の色を変えて挑み、謎を探求し、人々の生活を助ける義務があります」
リーゼは俺の問いに元気よく頷いて答える。
俺はリーゼの言葉に嬉しく思った。
短い付き合いだけど、それでこそリーゼだと思う。
「ゲートの中は危険だとセイジくんは思っているかもしれないが、むしろゲートの外も危険なのは変わらない。ノレイトークの件で君達は身に染みてわかっているね」
「はい」
「セイジくん、君はゲートの謎に挑む資格がある。そうと決まれば、帰還の方法の模索を含めて挑戦してみてくれ」
がんばろうと思えてきた。
例え陰謀が渦巻いているとして、こういう時に距離を置いて良い結末になる物語があっただろうか?
正面から挑んで行く事に意味がある。乗り越えられる可能性が見えてくる。
「やってみます」
俺はゲートに挑む決心をしたのだった。
「出発の日取りが出来たらいつでも教えてくれ、国の騎士を同行させよう」
「ありがとうございます」
こうして俺達は城に帰る王様を見送って手を振った。
王様を乗せた馬車が小さくなった頃にリーゼが手を振るのをやめて俺の方を見る。
「これから本格的にゲートの研究と探索をする事になりますね」
「そうだね」
「さしあたって……まずはゲートに入る前に何が出来るかの整頓をしましょう」
「入る前の準備ね。まずは装備品?」
俺は王様から返却されたアナライズリングとオイルタイマーを持つ。
この二つは当然として、武器や防具、他にも色々必要な物があるはずだ。
リーゼやロザリーではないが、準備し過ぎて困る物ではないだろう。
「そうですね。後は簡易的な傷や毒を治す薬の類……強力な武器の作成やゲート内で得られる物のリスト化、便利な道具の持ち込み等、キリが無くなりますが、整理して行きましょう」
「うん」
前回はリーゼが持っていたから使えなかったが、オレが持っていけば使えるはず。
またオレだけ別の場所に飛ばされる可能性は高いので、そこの所を考えていかないといけない。
「では一度説明していますが、復習も兼ねて学園の施設の説明をして行きましょう」
リーゼの案内の元、俺は毎日清掃していた学園内を歩き回る。
ここでの生活も慣れてきた事もあり、どこがどこなのか大分わかる様になってきた。
「まずは重要なのは……セイジさんからすると武具ですよね?」
「うん。魔法をリーゼから教わるのも悪くは無いけど、時間が掛りそうだから後回しにしよう」
「わかりました。魔法を一から教えていたら時間が幾らあっても終わりそうにありませんし、暇を見て覚えるのが良いと思います」
何だかんだで教師をしているリーゼだもんなぁ。
授業をボーっと見ている限りじゃ面白そうだったけど、実際に覚えられるか少し不安だ。
魔法の資質がありませんとかオチがありそう。
って今は後回し後回し。
そんな感じでリーゼが俺を案内したのは鍛冶科の工房に案内した。
こう……金属を溶かす炉が設置され、様々な器具とハンマーが壁に立てかけられている。
炉には年中火が入れられて、毎日カンカンと鍛冶科の生徒が武具の製作をしているのを俺は見ていた。
「ここは鍛冶科ですね。生徒や冒険者に使ってもらう武器を作っている所です」
工房の掃除って鍛冶科の人達がする事になっている。
やっぱ暑い。
「うん。遠目でしか見てなかったけど、一番に頼るのはここが良いよね」
「ん?」
工房を覗くと、鍛冶科の生徒が俺達に気づいて顔を向ける。
リーゼが手を上げて挨拶をすると一礼しながら俺達の方へと生徒がやって来た。
鍛冶をしているからか、肌が色黒に焼けていて筋肉質の生徒と、講師の鍛冶師であるドワーフみたいなおっさんが居る。
リーゼは魔法系に属する教師だからその使い魔と言う俺とは接点が薄い学科だ。
「えー……っと鍛冶科の教師をしている方はエルトブルグさんで、生徒……弟子の方はボルトさんですね。セイジさん覚えていますか?」
「うん」
「前に自己紹介をしたな。鍛冶科に何の用だ?」
そういえばリーゼに最初に学園を案内された時に挨拶はしたんだっけ。
忘れていた訳じゃないし、顔も知ってるけど、相談に来た手前……少し気恥ずかしい。
「エルトブルグさんのコネで初めてゲートに向かう時に注文した武具を取り寄せたんですよ」
「……ふん」
あれ? なんか少し機嫌が悪い?
……あ、あれか。
「……すいません。せっかく用意して頂いた物を壊してしまいまして」
白銀の剣と胸当てか。
性能はとても良い分類の武器だったんだろうけど、壊れちゃったんだった。
リーゼが用意してくれたモノって印象があったけど、そりゃあ学園の知り合いから普通は注文するよね。
「気にすんな。俺も国の研究に一枚噛んでいるから状況がわからねえ訳じゃねえ」
俺が謝るとエルトブルグさんはそう言った。
機嫌は悪いが理解はしてくれているらしい。
「……ありがとうございます。言い訳みたいになりますが、あれが無かったら俺は死んでいたと思います」
お世辞でもなんでもなく、本心だ。
途中で壊れて武器を代えたとはいえ、俺が素手で迷宮の魔物を倒せたとは思えない。
胸当ての方も俺の命を守ってくれた代わりに壊れたんだ。
作ってくれた人に感謝しないとバチが当る。
「そうか?」
「はい。本当にありがとうございます」
「お、おう」
エルトブルグさんは俺が何度も感謝の言葉を告げると表情を和らげた。
これで俺の気持ちが伝われば良いんだけど。




