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挑戦心

「どう説明するべきか……Lv差、もしくは片方だけ速度上昇の魔法が掛っている状況……でしょうか」

「わかりはしたんですが、一応魔法とかLv差とか詳しく聞いても良いですか?」

「失敬、そういえばセイジ殿は魔法が無い世界から来たとの話でしたね」


 俺は騎士の説明に頷く。


「わかりやすく説明すると動きを見切る事は出来ただけと言いましょうか。早さでは完全にこちらは対処できていないのですよ」

「見切られていたのはわかりましたけど、早さ?」


 俺は別段、早さなんて無い。

 ゆっくりと組み手をしてくれていた様にしか見えなかったけど、どうも俺の認識の齟齬があるっぽい。


「王様、セイジ殿に私から説明してもよろしいでしょうか?」

「一緒に教えるべきだろうね。まずは君の意見をどうぞ」

「ありがとうございます。簡潔に述べますとセイジ殿は私よりも何倍か早く動き、そして力強い一撃を放てるのです」


 ……え?

 いや、その感覚は確かにあったけ……。


「先ほど、セイジ殿は私がゆっくりと動いている様に見えたと言いましたが、こちらは別段、そのつもりはありません。単純にセイジ殿よりも私が遅かったのですよ」

「だろうね。傍観していたこっちも一目でわかる事だったよ。リーゼくんの報告は確かだね」

「それって……」

「セイジさん。戦闘中、騎士さんの一秒がセイジさんにとって三秒あるという事だと思ってください」


 うーん……そう説明されるとしっくり来るような気がする。


「これもLvの影響?」


 何だかんだでゲートに潜ってLvが上がったんだからそれくらいあっても問題は無いと思う。


「もちろん、それも理由として存在するのは確かでしょうね」

「だけどそれだけで説明するにはセイジくんのLvを含めて色々と足りない。今戦った彼は国の騎士の中でも実力のある者なんだ。その彼が防戦一方になるのはセイジくんの経験不足を入れても難しい。少なくとも彼が同じ武器でノレイトークと戦ったら一本取れるだろう腕前なのだよ」

「はぁ……つまり、どういう事なんですか?」


 今一つピンとこない。

 なんとなく俺のLv、もしくは何かしらの要因で戦闘時に速度に差があって騎士相手に善戦で来ているというのはわかる。

 これがLv差による強さの差……なのか?

 相手が凄くゆっくりしている様にしか見えず、こちらは普通に戦っているつもりなだけでしかない。


「Lvは彼の方が上、セイジくんは特に体を鍛えているわけでもない。にもかかわらずセイジくんの方が早さにおいて勝っているという点を考えて、更にゲートから持ってきた品々を考慮すると導かれる結論はそんなにないだろ?」

「……はい」

「国の重鎮もそう推測をしている。手合わせを診させてもらったからこっちも頷かざるを得ない。単刀直入に言うならセイジくん。どうやらこの世界の者は★1で君は少なくとも★3相当に強さの差があるのではないか? という事さ」

「やはりそうですか」


 昔、海外の映画で見た事がある。

 重力のとても重たい星出身の宇宙人が地球にやって来て超人的な活躍をする話を。

 一見するととんでもない強さに、と思った。


 アニメにも似た様な物があった気がする。

 どらやきが好きなキャラクターの映画だ。

 それが今の俺の状況に置かれていると見て、不思議には思えない。

 単純に技術が伴わないから手合わせした騎士に受け流されてしまったが、同等の技術を俺が所持していたらどうなっていた?


 間違いなく俺の圧勝する結果になるだろう。

 逆の状況で考えれば……嫌だな。

 俺が一歩動く時に相手は三歩動いているんだ。

 勝負にならない。


 むしろそんな相手と戦って受け流すなんて出来る方が化け物だ。

 というか、それだけのハンデがあって一本取れなかった俺がどんだけ技術がないのか、惨めな気持ちになりそう。


「あの……じゃあ俺はどうしたら良いんですか?」


 単純に何もしなくてもそれなりに強いという事を説明された様な物だ。

 自惚れるつもりは無い。

 この理屈に当てはめるとゲート内で俺が挑んだ場所は俺に適合する危険な区域であるとも言えるのだから。

 この世界の人達に大きなアドバンテージがあっても、ゲートに挑む時には関係無い要素だ。


「その件で、国から協力を要請したいんだ」

「なんでしょう?」

「二人にはゲートの調査を依頼したい」

「何を言っているんですか!」


 リーゼが眉を寄せて怒りを露わにする。

 そりゃあそうだ。

 やっとのこと、ゲートから戻って来たのに、またも行かなきゃいけない理由が思い当たらない。

 だが、王様もそこは引くつもりは無いと言うかのように、それでありながら敵意が無いとばかりに両手を上げる。


「セイジさんを使って、未知のゲートの調査させるために、王様は来たんですか!?」

「そういう訳じゃない。あくまで二人の意見は尊重するよ。行きたくないなら行かなくて良い」

「……」


 うーん……?


「ただ、セイジくんもこのまま学園の清掃員としての職務で我慢できるのか? という所だね」

「あー……まあ、多少は不満ですが危険すぎる所に行くよりは良いかもしれません」

「二人とも割と保守的な思考の持ち主の様だね」


 王様がため息交じりに答える。

 保守的……。


「リーゼくん。ゲートに挑む者の初心は何かね?」


 ハッとリーゼが我に返るかのように王様を見つめる。


「未知への冒険心、一攫千金の野心、強さへの渇望! 夢を掴むと言うのはそういう事ではないかね?」


 何か力強く宣言されてしまった!?

 そりゃあ夢はあると思うけどこの人は何を言ってるんだろ!?

 俺も好奇心からリーゼに行ってみたいと頼んだ手前、これは否定できない。

 しかし、その好奇心の所為で迷惑を掛けてしまった訳で。

 事故が起こってしまった以上、結果的にはリーゼが正しかった、という事なんだ。


「我が国の学園に席を置く者はそんな発想で良いのかね? これだからドラーク学園の者は使い魔にだけ行かせる卑怯者と罵られるのだと思うぞ」

「そ、それは……」

「安全を取る事を悪とは言わない。そうして我が国は財を成している以上、否定はしない。だが、それで良いのかね?」


 なんだろう。

 空気に飲まれてきた自覚があるぞ。

 これが王の口車か!?


「セイジくんはわからないだろうが、ゲートに挑む冒険者には一に安全、二に安全、念には念を入れてコツコツと進み、時には大胆に進むべしという信念があるのだよ」

「まあ……危険な場所でしたしね」

「そうだ。その危険な場所に挑むからこそ、ゲートへの挑戦者は財を得る事が出来る」


 一攫千金の夢は確かに詰まっているとは思う。

 こう……とんとん拍子に行って帰ってこれたという点だけで言えば楽しくはあったと思うからだ。


「正直に言って、今の世の中は金も名誉も、既に持っている者の所へ集まる様に出来ている。しかし、ゲートはそれを引っくり返す可能性を持った場所だ。今回の事で大きく証明されたと言っても過言ではない」


 それはわかる。

 現代の日本でも似た様な状況だ。

 生憎と日本にゲートなんて場所はなかったけど。


「セイジくんが持ってきた問題が山のようにある訳ではあるが……これが宝の山なのは言うまでもない。今はその未知に挑むべきではないかと私は思うのだ」

「うーん……」


 言っている事に賛同したい様な気もするが、納得しがたい感覚もある。

 どうしたものか。


「……セイジさんが元の世界へ戻る為の手掛かりはゲートにしかない可能性が高い……」


 リーゼも迷う様にポツリと呟く。


「そうだけど……俺はただリーゼのヒモにはなりたくないだけで別の仕事があるならそれでもいいと思うよ」

「セイジさん……」


 帰還に関してだけ言えばそこまでの渇望は無い。

 なんだかんだで日本よりも息苦しさは無いし、こっちの人はみんな親切だし。

 ただ、助けてもらったリーゼ達に何か恩を返したいと思っている。力になりたいんだ。


「リーゼくん、ちょっと耳を貸してくれないか?」

「え? はい」


 リーゼは王様に近づき、王様が何やらリーゼの耳元で囁く。

 するとリーゼがさらに険しい表情になった。

 何を言ってるんだろう? そっと使い魔の技能の部分を意識して目を閉じて見る。


「――という訳でもある。出来れば強くなって欲しい」


 と、王様は話を終えてしまった。

 大事な所を聞き逃した!?


「あの……何かあるんですか?」

「あえて言うなら保険だね。何か悪い事が起きた時、いつでも対処できるように強くなっていてほしい。これは悪い事かい?」

「あー……」


 なんとなく察した。

 ノレイトークのような奴が他にいないとも限らないし、学園を狙ってくるかもしれない。

 何処かの国に狙われるかもしれない。

 その材料を結果的に俺は持ち帰ってしまった。


 そんな時に、幾ら他の人よりも早く動けるとしても、今の強さでどうにか出来るかは未知数だ。

 所謂言葉には出来ない話……マンガとかで出てくる敵の組織とか国とか、そういうのを懸念しているのかもしれない。

 王様ならそういうのを心配するだろうし。


 だから王様はゲート行きを勧めているんだ。

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