苟且話
書いておいてなんですけど、これは一体何でしょうか。自分でもよくわからないですが、たまにこうやって書きたくなります。嬲り書きみたいなものです。
悲しいこと、楽しいこと、それは人それぞれ違う。何が悲しいか、何が嬉しいかを定義付けるのは人それぞれだし、感じ方もいちいち違う。
でもそれは当たり前のこと。人類皆、それを承知して生きている。まさにそれは暗黙の了解とは言わんばかりに苟且な話しをしては楽しそうに顔を歪める。
それはそれで楽しいことであるけど、きっとそれって望むものではないのだろう。そうやって自分の愆過に別れを告げてはまた、戻らない道を辿っていくのだ。
僕も同じ。自分の愆過なんて棄て去りたいと想って、戻れない道をただ虚しく見つめてる。果てしなく続いてる道を見渡して悲しそうに顔を顰める。いつもの光景。
つい先日、恋人が亡くなりました。自殺でした。
遺書もなく、僕にかけてくれた言葉もなく、ただあの人は沈黙したまま逝きました。本当に、何も言いませんでした。
僕はあの人のことが大好きで、ずっとずっと共に歩んでくれるものだと思っていました。だから僕は、あの人が僕の目の前からいなくなってとても悲しいです。
想い出をなぞるように、僕は色々なところにいきました。あの人と一緒にいった思い出の場所とか、あの人と一緒に眠った部屋とか、あの人が告白してくれた所とか。
とても懐かしい感覚が常に頭の中にあって、憔悴しきった心にそっと寄り添ってくれるような感覚に陥ります。とても素敵で甘美な人でした。その人は既に居ません。
でも僕は今、嬉しいのです。一年、また一年と時間が流れていくたびに、失われたセカイが徐々に瞼に広がって、気味の悪ささえ覚えるほどに懐かしい気持ちで心が満たされていくのです。
帰り道へと昇華していく自らの記憶たちは、僕の心を常に供給していて、常に心を洗ってくれるのです。
きっと貴方は僕の直ぐ側にいてくれている、そう想ったこともありません。貴方が今、何処にいようとも僕は貴方を愛しているし、幸せです。
貴方は、貴方という躰が死んだだけなのです。貴方自身は死んでおらず、朽ち果てた貴方の亡骸を背負っていくくらいの意思を持たせてくれたのです。貴方はきっと亡骸の意味を僕に理解させようとしているのでしょう。だから僕だけを置いて去ってしまったのだ。
それでも僕は貴方が大好きです。そばに居らずとも、そこに存在していなくても、僕は次の季節さえも貴方を探していると思います。
***
少しだけ残暑が残っている日の夜半、私は死んだ。自殺だった。
それはきっと自らの愆過と化している。頭に残っているのは鏗錚としたロープが軋む音がひとつ、それから先には何もない。
きっと何か辛いことがあったのだ。その辛いことというのは、私があの子を信用してあげられなかったという後悔の念。今から懺悔してもきっと間に合わないほど重い寂寥感だ。
別に私は辛くない。ただ、残していた者達が、冷たく脳裏で軋み揺れ動いている。悲しそうな欷歔をまたひとつと奏でて、自分のしたことを悔やんでみる。
あの子は私を許してくれるのだろうか。私はきっとこれから先も君の近くに寄り添って、逝きていきたい。そうすることを心の底から望んでいるのだ。私の自分勝手な思考で君を微睡ませてしまい、心の底から嘆きの声が湧き上がってくる。
それほどまでに私は自らの愆過について嫌なことしか承知していない。
私は心の何処かで怖かったんだ。いずれ時が進めば、君は私を拒絶するかもしれない、そこまでにならずとも君が死に逝き、私一人同じ季節に留まり続けることが、怖かったのだ。
だから私は、君に何も言わずにそっと次の季節へと駒を進めてしまった。それを悔やむように、私は君のそばに留まり続けることにした。誰よりも君が好きで、愛していた君を、亡くすことが怖かったんだ。
でも、今は自分のしてしまったことへの愚かさでいっぱいだった。君に詫びても、きっとそれは止めどなく流れていくのだろう。
だから今度は、私とともに。