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18話 隔離

スィニーズが、段々外にいる時間が増えているように感じる。

以前は夜には必ず影に引っ込んでいたし、放っておくと気付けば居なくなっている時もあった。


しかし最近は、夜は寝袋に侵入してくるし、食事の時も横から勝手に奪い取って行く。

ダズは、もう二人分作ることにした。

体を拭いている時にも、じっと見つめて来た。

割と恥ずかしい。


ある日、手拭いを絞って体を拭こうとしたら、


「それを寄越せ」


と言って奪い取って行った。

思わずスィニーズに抗議しようとすると、白いお腹が見えた。


「はぅ!?」


ダズが目を剥いて見ると、スィニーズはゴスロリ衣装をあっさりと脱ぎ捨てていた。

ちゃんとパンツは穿いていた。黒だった。

ブラはしていなかった。

おっぱいは、予想よりも更に大きかった。

ダズは地面にガンガンと頭をぶつけて、邪念と戦った。


剣を振っている時もじっと見ているし、ぼーっとしている時も、同じくぼーっとこっちを見つめて来る。

最初は恥ずかしかったが、ダズも段々と慣れて来た。


トイレの時もついて来るので、土下座してお願いしたら不機嫌そうに睨まれたが、許してくれた。

影に引っ込むことなく、どっかりと座り込んで待っていたが。




数日で、新しい軍人が現れた。

正直に言うと、軍勢が来ていた。

たぶん数千は居るだろう。


ダズがぽかーんと口を開けてみている中、視界の端で停止した軍勢の中から、一人の軍人が走って来た。

始めは馬に乗ってこようとしていた様子だが、スィニーズがこちらにいるせいだろう、馬は暴れまわって一定距離以上近づこうとしなかった。

しばらくして諦めたらしい軍人が近くまで来ると、見るからに緊張でガチガチになっているのが分かった。

髭面のおっさんだったけど。


「私はダルトン・ハルビンと申す。ダズウェン・ドレスだな?」


髭面のおっさんはダルトンと言う名前らしい。

ダルトンはまず、ダズに確認を取って来た。

出来るだけ視界にスィニーズを収めないようにしているのが分かる。


「はい」


ダズが頷くと、しばらく停止していたダルトンが、意を決したようにスィニーズを見た。


「こちらが……ですな」


敬語になっていた。

見ているだけで、だらだらと額から脂汗が浮かんできている。

一方、見られているスィニーズは、ダルトンの事を一瞥もせず、いつも通り口を歪めてダズを見ていた。


「…………ニーズ殿!」


ダルトンが、五回くらい深呼吸をした後、ニーズに向かって話しかけた。

ズールがちゃんと伝えたらしく、彼女の本名は口に出さなかった。

おかげでスィニーズは完全シカト。

ピクリとも反応せず、じーっとダズを見つめている。


ダズはダルトンを見て、ダルトンはスィニーズを見る。

スィニーズはダズを見る、と言う不思議な三角形が出来上がった。

ダルトンは脂汗をだらだら流しながら、それ以上何も言わず、ひたすらに沈黙が続いた。


「…スィニーズ」


沈黙に耐えかねたのは、ダズだった。

すると、スィニーズの眉がピクリと上がり、口を更に歪めて立ち上がった。


「んん?何だ?」


スィニーズは相変わらず、ぐいぐいと顔を寄せて来る。

何故かちょっと嬉しそうだ。

傍目には邪悪に笑ってダズに詰め寄って脅しているようにか見えないだろうが。


「その、……こちらの、ダルトンさんがだね……」


ダズが首を反らして、スィニーズの顔から目を逸らしつつ、ダルトンを指し示す。

するとスィニーズは不機嫌そうに眉を寄せた。

あ、不機嫌になった、とダズは思った。

しかしスィニーズは、ようやくダルトンを見た。


不機嫌そうになって、ようやく視界に捉える。

焦点が合っているので、ちゃんとダルトン個人を見ているようだ、とダズは安心した。


「…………ひぃ!」


見られたダルトンの喉から、か細い悲鳴が漏れ出した。

しかし逃げ出しもせず、ガバッ!と頭を地面に向けてガタガタ震え出す。

逃げ出さないダルトンは立派だった。


その様子を見て、スィニーズは一層不機嫌そうな顔をした。

あ、やばいかも、とダズは感じて、いつでも飛びかかれるように少し腰を落とした。


「何だ?」


しかし、スィニーズは口を裂ける様に歪ませるだけで留まった。

ダルトンはぐびり、と唾を呑みこんで、頭を地面に擦りつけるほどまで下げて、必死に叫んだ。


「ニ、ニーズ殿に、陛下からのお言葉を伝えます!!『ニーズ殿。予は―


「黙れ。言いたいことがあるならまず我に傷を負わせてみろ」


スィニーズは、バッサリと切り捨て、むっつりと口を閉じた。

ダルトンもそれ以上は言えず、更に増したスィニーズからの圧力に、ガタガタ震えることしかできない。

残されたダズも、陛下とか予とか、凄い単語が聞こえた気がする、と呆然と立ち尽くした。


「「「………………」」」


三者三様の理由で押し黙っていたが、暫くするとスィニーズが再び口を開いた。


「失せろ」


最終通達であることは一瞬で理解できた。

そう言われた瞬間、ダルトンは弾かれた様に立ち上がり、明日に向かって全力疾走した。

スィニーズはその背中を見送ることなく、不機嫌そうな顔でジロリとダズを睨み付けて来た。


後には、何故か睨まれて立ち竦むダズだけが残された。




軍勢は去らなかった。

何だか騒がしい雰囲気を漂わせていたが、翌日になると、また別の軍人が来た。

その軍人が言ったことは実に簡単で、『ダズからニーズに伝える』

と言うことだ。

そして教えられた内容は、『この国に御加護を』と言うことだった。

軍人の前で、スィニーズに伝えてみた。


「はっ!」


鼻で笑われた。

そしてその後、ダズにそういう様に伝えた軍人を見て口が裂けた様な笑みを浮かべた。

軍人は逃げ出した。




次に、矢文がダズのテントの側に届けられた。

あれ以降、軍人が近づだけで、スィニーズが不吉な気配を振りまくので近づけなくなったのだ。

書いてあることは簡単だった。


『説得しろ』


ダズは説得しようとした。

が、「何故だ?」「意味が分からん」と突っぱねられ、最後には「んん?滅ぼせばいいのか?」と言われたので諦めた。


『無理でした』


と言う手紙を届けた。

するとすぐに、矢文が届いた。

そしてその矢文を、ダズが読んでいたのを見て興味を覚えたらしいスィニーズが見つけて、読んだ。

止める間もなかった。


二秒後に、燦々と降り注ぐ太陽が見えなくなった。

四秒後に、雷鳴と豪雨が降りだした。


そして雨の中、なぜか一滴も濡れていないスィニーズが叫んだ。


「ゴミ風情がっ!!丸ごと消滅させてやるわっ!!!」


剥き出しの殺意が遠くに居るはずの軍勢を叩き、鍛え抜かれているはずの彼らが悲鳴をあげて逃げ出した。

左目を爛々と輝かせて逃げ惑い始めた人達を見て、スィニーズが飛び立った瞬間、ダズがその白い足にしがみ付いた。


超頑張って説得した。

何か色々と約束させられた気がしたが、そんなこと気にならないくらい説得した。

おかげでスィニーズは機嫌を治し、何故か数秒で太陽が顔を覗かせていた。

ドッと疲れたダズは、テントに戻って寝た。

スィニーズも潜り込んで来たが、文句を言う気力も無かった。




翌日、また軍人が来た。

一人だった。

悲壮な顔をした軍人は、「私の命でどうかお許しを」とか言っていたが、機嫌のよさそうなスィニーズはやっぱりシカトしていた。

後で聞いたが、彼女の殺気とか雷雨は、国全土を覆ったらしい。


当然のことと言えばそれまでだが、この国はスィニーズの力を借りることは諦めたらしい。

そして今度は、気が向けば王国をあっさり滅ぼすことのできる力を恐れた。

ダズから離れないことを知ると、ダズも持て余した。

しかし不当に扱うと、また邪竜の怒りを買うかもしれない。


数日後に新たな通知が送られた。

緊急での協議の結果、ダズは故郷の領地ドレス領の最奥に送られることになった。

学校とか行ける状態でもないのは分かるが、急な変化過ぎて流石に困る。

かと言って、スィニーズがどこかに行くわけでもない。

全てを諦めきった溜め息を吐き、ダズは懐かしき故郷へと向かい始めた。


人っ子一人いない道をひたすら歩くだけだったが、ちゃんと食料とかは準備して置いてくれてあった。

一か月ほどもスィニーズを連れて歩き、(やっぱり着いて来た)必死に頼み込んで影に入って貰ってから、生家に戻った。


フラム、ネリア、アレス。

家族は悲痛な顔で、ダズを迎え入れてくれた。

が、そんな悲痛な顔をされなくとも、同じ領地に居るのだ。

何か急用が出来れば、スィニーズに頼んでは引っ込んでもらえれば会いに来ることは出来る。

ダズがそのことを伝えると、多少なりとも安心してくれた。


ただ、一つだけ心残りはある。


「兄上、お力になれず申し訳ありません」


アレスが領主として、ダズはその下で働くと、子供のころから決めていた。

こうなっては、もうその約束は果たすことは出来ないだろう。


「…構わないよ、ダズ。お前が元気でいてくれれば、それでいい」


兄は一瞬寂しそうな顔を浮かべたは、そう言ってダズの背を叩いてくれた。

気付けばもう、頭を撫でるれるほどの身長差ではなくなっていたのだ。


ダズは家族と一晩を過ごし、一人奥地へと足を運んだ。

そう時間はなかったはずなのに、両親は奥地にある古ぼけた山小屋を精一杯改築してくれたらしい。

定期的に荷物も届けてくれる。

まあそれは国が出してくれるそうだが。

獣も魔物も多いが、スィニーズが近くに居るならば寄って来ることなどあり得ない。

そう、不便な暮しにはならないだろう。


そういえば、クラスメイト達には別れを告げることもできなかった、とダズは寂しさをかみ殺して、一人歩いた。

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