表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/35

14話 その後

ようやく、一話の後

目を覚ますと森の中だった。


「えっと…?あれ?」


ダズは慌てて体を起こした。

そして記憶をほじくり返す。


確か、邪竜ニーズと戦ったはず。

戦ったといっていい物か、あちらが遊んでいる最中に思いっきり不意打ちした様なものだったが。

いやそれよりも、致命傷を負ったはずだ。


痛みすら感じず、世界が揺れるように感じる程に視界が揺れていた。

血反吐もぶちまけたはずだ。


ダズは慌てて自分の周囲を確認した。

あった。

血の跡はくっきりとあった。

顔にも服にも地面にも、べったりだ。


「あれぇ?」


その割に、体は何ともない。

ペタペタと自分の体を触ってみるが、痛いところも無い。


「……?」


自分の体が無事なことは取りあえず後で考えることにして今度は周囲を見回した。

周りも見るも無残なことになっている。

森の中に居たはずなのに、まるで道を作ったかなの様に、綺麗に地面が抉れている箇所がある。

邪竜の吐いた、アレの効果だろう。

ダズの足元には、へし折れた剣も落ちていた。


「……」


折れているとはいえ、無手は精神的に落ち着かない。

折れた剣を拾い、ひん曲がっているのか苦労したが、何とか鞘に納めた。


しかし最後の記憶が曖昧だ。

夢うつつに、少女を見た気がした。

顔は正直、あんまり覚えていないが、とりあえずおっぱいでかかったことだけは覚えている。


「…」


ダズはとにかく、歩き始めた。




半日も歩いただろうか。

そこには、ダズと同じ学校の生徒達が疲労と恐怖に塗れた顔でへたり込んでいた。

ダズが現れると、ビクリ!と体を震わせて恐怖に塗れた顔でこっちを見つめて来て、ダズの姿をまじまじと確認した後、はぁー、と安堵の息を吐いている。

ニーズを恐れているのだろう。


とにかく知り合いを探そうと歩き回った。

全員ここまで全力疾走して来たのだろう、誰も彼もが座り込んでいた。


「ダズぅぅぅぅぅぅううう!!」


「どわぁぁあ!!」


突然横から不意打ちで行われた巨体のタックルに、ダズはあっさりと押し潰された。

ダズを押し倒したそいつは者すんごい力でダズを締め付けて来た。


「おまっ!!おまっ!!いぎでっ!!いぎでだんだなぁぁぁぁああ!!!」


「いだだだだだだだだだだ!!」


グラだった。

グラはダズに言われて逃げ出した後、周囲にダズの姿が無いことに気付いた。

ダズとグラは近くに居たはずだ。

そして、二人の走る速度は同じくらい。

見失うはずがないのに、見失っていたのだ。

そこからグラはダズの事を探して、へたり込む集団の中を探し回っていた。

流石にニーズの居た方向に探しに行く度胸は無かったが。


おいおいと泣くグラの拘束をほどくことは諦め、涙と鼻水でぐちゃぐちゃにされながら、グラが落ち着くのを待った。


「お前、何処に居たんだよ!!」


泣き止んだグラは、今度は噛み付いて来た。

しかしダズを心配していたことはよく理解できた。

とても邪険には出来なかったので、正直に答えた。


「ちょっとニーズの足止めを」


グラばかりか、周囲に座り込んでいた生徒達全員が能面のような顔をしてこちらを見つめて来た。


「…………本当か?」


全員が息をひそめ、ダズを見つめる中で、代表してグラが質問した。

代表というより、見られていることに気付いていないだけだったが。


「うん。ほら」


ダズは鞘から剣を引き抜いた。

そのへし折れた剣を見て、グラも思い出す。

少なくともニーズが現れるまでは、この剣は折れていなかった。

というか剣をへし折る魔物何て、そうはいまい。


「…………なんで生きてんだ?」


グラは心底不思議そうに、とても失礼なことを聞いて来た。

本心ではあったが、もうちょっとオブラードに包んでほしい。


「本当に不思議だよね。尻尾叩き付けられてさ。私も死んだと思ったんだけど…」


聞かれたダズも、不思議そうに首を傾げていた。


「「「………………」」」


全員が呆然とした顔でダズを見つめた。




暫くすると、先生が走って来た。

ダズが名前は知らない先生だったので、5年か6年の先生だろう。


「どうなってるんだ?邪竜と戦ったと聞いたのだが…」


まさかな、と言う風な顔だ。


「えっと、多分、戦いました」


ダズは正直に答えた。


「多分とは、どういうことだ?」


先生がダズの体に付着する血を見て、厳しい顔で問い詰めて来た。


ダズは洗いざらい吐いた。

戦って、返り討ちにあったけど何故か生きている。

何故生きているかは分からない、と。


「つまりなんだ。お前はやはり邪竜と戦ったと」


「たぶん」


ダズは頷く。


「で、一度やられたと」


「こうなってますからね」


折れた剣や、血を見ながら呟く。


「でもなぜか生きている、と」


「不思議ですねぇ」


ダズは心底不思議そうに頷いた。

それを疑わしそうに見ていた先生は、溜め息を吐いた。


「まあいい。取りあえず、医者だな」


ダズは平気な顔だが、流石に血塗れのままでは完全に無傷か分からない。

ダズの話は置いておいて、まずは医者を呼ぼうとした。


「はい。あ、あの後ニーズはどこかに行ったんでしょうか?」


ダズはそこで、一番気になる質問を投げかけた。

しかし先生は難しい顔をして首を横に振った。


「……分からん」


どこかに飛び立ったならそれで良いのだが、まだ近くに居るとなるとここもまだ危険かもしれない。

そうはいっても、生徒達は疲労に塗れてそう簡単に動けそうにはないのだが。


「ここに居るぞ」


突然、声が聞こえた。

幼い、しかしどこか達観したかのような声だ。


「ッ?!?!?!?!」


ダズも先生も、周りに居た生徒達も仰天して、声のした方向を見ながら飛び離れた。

声は、足元から発せられていた。

しかしそこには、何もなかった。

皆が疑問に思った瞬間、突然ダズの足元からするすると少女が現れた。

白い肌の、黒いゴシック衣装を着た様な少女だった。

美貌と言うのも愚かしい、整いすぎた容姿の少女だった。

しかし口元はニヤニヤと歪んでおり、その瞳はただ只管にダズを捕えていた。


「…君は」


ダズには、その少女の記憶があった。

そういえばこんな顔だった。

それにこのおっぱいに間違いはあるまい。


「我を探しておったのだろう?んん?」


少女はそう言いながら、気負いなくダズに顔を寄せてニタリと口を歪めた。


「う、うん。…どこに居たのかな」


顔を寄せて来る少女に対し、ダズは顔を仰け反らせながら問いかけた。


「んん?くくく。ここだここ。貴様の影の中だ」


少女は笑ったまま、足でトントンとダズの影を踏んだ。

ダズは自分の影を見て、訝しげに眉を歪めた。

そして次に、周囲の違和感に気付いた。


ダズ以外のみんなは、死人の様に顔を真っ白にしてガタガタと震えてこちらを見ていた。

こちらと言うより、少女を。

涙を流し、へたり込む者までいるくらいだ。

だと言うのに、誰一人動こうともしない、物音ひとつ発さない。


「……何で皆固まってるの?」


ダズは思わず呟いた。

が、周りの誰もそれに反応しなかった。

反応したのはただ一人。

目の前の少女だった。

少女は楽しそうに禍々しく口を歪めた。


「我が恐ろしいのだろうよ」


そう言われると、ダズにも思い当たる節がある。

始めてニーズを見た時、とんでもなく恐ろしかった。

恐ろしいとかそんなレベルじゃない。

一人だったら、まず間違いなく背中を向けて走っていたレベルだ。

目の前の少女は、ニーズだと言う。

なるほど、同じ気配を感じているなら、納得の反応だ。


しかし、ダズは、あの時感じた恐怖はとんと感じなくなっている。


「…なんで、私は平気なのかな」


思わず、少女に、ニーズに問いかけてしまった。


「さて、何故だろうなぁ?」


ニーズは、さも楽しげに、クックックックといかにも邪悪な笑みを浮かべながら首を傾げた。


「気になるか?んん?」


更に顔を寄せて、指まで伸ばしてダズの胸を突いて来る。

ダズが反応に困っていると、流石はと言うべきか、ダズと話していた先生が、辛うじて口を開いた。


「あ…、あ、あ、の…」


滅茶苦茶震える声だったが、そもそも声を出せただけでも凄いことだ。

先生はニーズに何事かを言おうとしたのだろうが、ニーズは先生の方を見もせずに、完全に無視した。


「…………」


そして押し黙っているダズの胸をつんつんぐりぐりと突きながら続けて来る。


「どうだ貴様?知りたいと思わんのか?」


ダズは、ちらりと先生の方を見た。

先ほどがなけなしの勇気だったのだろう、最早何も言うことなく立ち竦んで震えている。


「……いや、知りたいけど」


ダズはニーズに向き直って、呟いた。


「くっくっく!さてどうしようか!教えてやろうかなぁ?」


するとニーズは実に楽しそうに笑い、意地悪そうに首を傾げた。

散々聞いておいて、教える気無いんかい。


「……面倒くさっ」


ダズは思わず呟いてしまった。


「「「ッ!!!!」」」


ダズのその発言を聞いて、周りのみんなは心臓が停止した様な凄い顔をした。

しかし、ニーズは一瞬キョトンとした後。


「クッ!!クハハハハハハ!!クハハハハハハハハハハハ!!」


腹を抱えて体を九の字におり、大爆笑した。


ニーズは楽しかった。

生まれてどれだけ生きたかも覚えていないが、自分にこんな口を利く馬鹿は初めてだった。

当然そこらのゴミが同じことを言えば即消滅させてやるが、ダズは自分に傷を負わせたのだ。

ニーズにとってダズは、初めて興味を持った生き物だったのだ。


暫く笑い転げたニーズは、目に涙を溜めながら、半眼でこちらを見やるダズを見て言い放った。


「…分かった分かった、教えようてやろう。実に簡単な話だ。我達の血肉を喰らえば強くなるのだ。まして貴様は我の瞳を喰らった。我の側に立つくらいはできて当然ということよ」


ニーズは自らの右目を指差しながらニヤニヤ笑ってダズを見た。

さてこの馬鹿はどんな反応をするのかどうか。

そんな目だ。


「瞳って、目?!おえぇっ!!」


そういえば、最後の瞬間に何かを呑みこんだよな記憶がある様な無い様な。

ダズは目を剥き、口を押さえた。


ニーズは更に愉快そうに口を歪めた。

強くなって喜ぶのかと思っていたが、こんなに嫌がるとは。

意地悪したくなってくる。


「つれない奴だ。お主が奪ったのだぞ?んん?」


また顔を寄せ間近でダズの顔を見つめるニーズ。

ダズは口を引き攣らせて、ニーズの右目を見た。


「で、でも、目って!」


ちゃんと嵌まっている。

傷一つ見受けられない。


「んん?これか?」


しかし良く見ると、左目と違う。

色は同じだが、何か違和感を感じる。

じっと見つめてみて、気付いた。


「……」


光が無い。


「そう、義眼だとも。本物の目を三つも四つも作るの気持ち悪いだろう?」


ニーズは、作ろうとすれば作れる、と言わんばかりだ。

実際に作れるのだが。


「……言われてみれば、そうだけど」


ダズも、自分の目がいくつもあることを想像して、気持ち悪くなってきて想像を止めた。


「んん?少し待て」


ニーズは唐突に、虚空を見つめて、しばらく停止した。


「……?」


ダズが訝しげにニーズを見つめていると、しばらく虚空を見つめていたニーズが面倒くさそうに溜め息を吐いて、ダズを見直した。


「無粋な奴らめ。で、他に何か聞きたいことはあるか?」


また顔を寄せて話しかけて来る。

近い近い。


「…何で影の中に居たの?」


ダズはまた顔を背けながら問いかけた。

すると、よくぞ聞いてくれました!とニーズは瞳を輝かせた。

ダズはその瞳を見て、墓穴掘ったかも、と考えたが。


「我は神も喰ったし邪神も喰った。同族とも戦った」


ダズは目を見開いた。

本当に神食い殺していたんだ、と。


「しかし我に傷を負わせたのは貴様が初めてなのだ」


確かに、普通の手段では無理そうだ。

あの時も油断しまくっていたからどうにかなっただけである。


「貴様は何やら面白いこともするしなぁ?だから、しばらく貴様を見ていることにした。それだけだとも」


ニーズはニヤニヤ笑いながら、ノリノリの様子で身振り手振りを交えてすらすらと並びたてた。


「……」


楽しそうだから近くに居る。

そういうことだろう。


「精々楽しませてくれよ?」


期待に瞳を輝かせるニーズを見て、ダズは溜め息を吐いた。

ノリノリババア

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ