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12話 誤解と先輩

ダズは2年生になっていた。

14歳にもなると段々と体格も引き締まって来る。

ダズは、日に日に重くなっていく自分の剣筋を確認し、嬉しそうに一層集中した。




ある日、学園内で出し物をすると先生に言われた。

数年に一回だが行われる行事で、学部が違えばほとんどつながりの無い生徒たちの交流が主とした目的らしい。


二年目になると、クラスメイト達も皆慣れたもので、何をするかの話し合いは実に白熱した。

しかし、ダズ達の学部は器用な方ではない。

武器を振ってばかりの学部だからそれは仕方ない。

では剣舞にでもするか?と言う話にもなったが、先輩方が既にやる予定らしい。

散々もめにもめたせいだろう。


「女装でもするか?」


誰かの放ったこの発言が、採用されてしまった。




皆間違ったテンションで、では誰に剣舞をさせるかと話し合った。

まず社交的なラーズが捕まった。

決まった瞬間、必死に逃げ出そうとしたラーズは、しかし数の暴力には勝てずにとっ捕まり、剥かれて着せられて、ノリノリの女子たちに化粧までさせられた。

そして疲れ果てた顔で立ち竦むラーズを見て、全員が笑った。


「あははははは!!」


「ラーズ君、似合うー!!」


「ぎゃっはっはっはっは!!ラーズおまっ!ぶはははは!!」


グラなど腹を抱えて大爆笑だ。

四方八方からヤジが飛んでくると、ラーズはニヤリと暗い笑みを浮かべた。


「……あと数人は必要だよね」


『地獄に道ずれだ』

ラーズの瞳が、腹を抱えて転げまわるグラを注視した。

その瞬間、女装したくない男子たちが一斉に生贄に群がった。


「うおおおおお!?止めろっ!俺は着ねぇぞぉぉぉぉぉぉ!」


グラの叫びも虚しく数の暴力に犯されたグラは可愛らしい服を着せられて、魂が抜けたような顔で座り込んでいた。


「グラ、きもーい!!」


「きゃははははは!!」


飛ばされるヤジも少ない。

それもそのはず、生贄はまだ数人必要なのだ。

巻き込まれることを恐れた男子たちは野次を飛ばさず、女子だけが面白おかしく野次を飛ばしているのだ。


「グラー、次はだれにするのー?」


女子の一人がそう声をかけると、虚空を見ていたグラの瞳に暗い炎が止まり、クラスメイト達を睥睨した。

そしてダズを捕えた時、停止した。


「ッ!?」


ダズは全力で脱走を図ろうとしたが、抵抗空しく数の暴力に屈した。


「う、うわあああああああ!!」


可愛らしい服を着せられたダズが、人形の様に空虚な瞳で立ち尽くしていた。

しかし、母親の遺伝子が強すぎたのだろうか。

実に似合っていた。


「ちょ、これは……」


「やだ、綺麗…」


女子は目を輝かせており、新たな化粧道具を取りに寮に走ったりする子まで居た程だ。


「不味くないかこれ?」


「……」


男子は何故か頬を染めて目を逸らした。

前かがみになっている少年までいる。

散々も暴れた結果、かなり着くずれしてしまっていたのだ。


「ダズー、次はだれー?」


死刑執行の続きが始まる。

ダズの暗い瞳だ、誰を地獄に引きずり込もうかと彷徨い始めた時。


「失礼。ダズウェンは居るかな?」


兄、アレスが扉を開けて入って来た。


「「「あ」」」


クラスメイト全員がアレスを見た後、ダズを見た。

女装させられて、ふりふりのダズを。


ダズを見つめていたアレスの瞳が驚愕に揺れたかと思うと、悲痛に歪んだ。

アレスは何も言わず、パタンと扉を閉めた。


「はっ!?兄上!兄上!!待ってください!!」


我に返ったダズが必死に兄を追って追いすがった。


「私はっ!!父上と母上に何て申し開きをすれば…!!」


アレスが悲痛な顔で呻いていた。


「あにうええええ!!」


誤解を解くのに、とっても苦労した。


剣舞はかなり受けた。

基本的に大爆笑のお祭り騒ぎだったが。

しかし、その日以降、ダズを見る目が怪しい少年少女が出没した。




ダズが三年生になった。

アレスが在籍できるのはあと一年と言うこともあり、学力ブーストの為、アレスから勉強面で扱かれた。

優しい笑顔のままだったが、そこに慈悲は無かった。

ダズは日に日に憔悴していった。


しかし勉強だけでもなかった。

武芸科の生徒同士で行われる大会もあった。

上級生の4年生から6年生までが参加条件の為、ダズは参加することは出来なかったのだが、下級生は下っ端として大いに忙しく走り回ることになった。

1年、2年時にも参加していたが、裏方の最上級生として例年よりもずっと忙しかった。

大会が始まる時など、全員が『ようやく終わった』と言う顔をしているほどだ。


後の細かいことは1年、2年に任せて、ダズ達3年生は疲れを癒す為、大会を観戦した。

流石に年の功があり、皆3年生よりも強い。

大会に参加しているのは、上級生の中でも実力者なので当然のことではあるが。


クラスメイト達は大いに盛り上がって観戦していた。

他の学部も、余興として大いに盛り上がっていたが、やはりダズ達の学部は盛り上がり方が違った。


「あれ凄かったなぁ!こうかな?」


先輩が見せた技を、仲間内で確認し合っている。


「いや、ここで、こうじゃない?」


「こう?」


「そうそう、そんな感じ!」


流石に観点が違う。

そんな中でダズも見ていたが、あまり強いとは感じなかった。

クラスメイトとは別に、先ほどまで戦っていた先輩の顔を見て首を傾げている。


(見たことがある様な…)


思わず視線で追っていると、その先輩の歩く先に、アレスが立っていた。

微笑み、何か激励しているような感じだ。


「…」


ダズは思わず、その場を抜け出して兄の元に向かった。

兄たちを追って、簡易控室をノックする。


「はい?」


顔を出したのは、やはりアレスだった。


「あれ、ダズ?」


アレスもまさか、弟が訪ねて来るとは思っていなかったのだろう、意外そうな顔で見て来た。

すると奥で椅子に座っていた先輩が立ち上がり、気安げに笑った。


「お?おお、ダズウェンか」


見た目はとっても知性的な雰囲気を醸し出しているが、口調は実にワイルド。

やはりどこかで…。


「あ、こんにちわ。お疲れ様です」


ダズは取りあえず、丁寧に頭を下げた。

しかしその様子に怪訝な顔をした先輩が突っ込んでくる。


「んん?忘れてるか?リーグだ」


「…あ」


ダズはようやく思い出した。

入学直後に、失神させたグラを運んでくれた先輩だ。


「やっぱりか!もう忘れるなよ?」


忘れられていたリーグは、しかし気分を害した様子は見せず快活に笑った。


「は、はい!すいません」


流石に失礼だった、とダズが慌てて頭を下げると、その頭上にアレスの不思議そうな声が。


「ん?知ってるのかい?」


いや、一度しか会ったことが無いから仕方ない、と自己完結したダズが顔をあげると、リーグはアレスとダズの顔を見比べて感心していた。


「ああ、一度な。しかしやっぱ、よく似てるなー」


「兄弟だからね」


アレスもダズも、母の血が色濃く表れた顔だ。

最近では流石に違いが出てきて、アレスは細身で、ダズが生命力に溢れる顔立ちをしている。


「まあ、アレスだったら俺の名前忘れないだろうがな」


リーグはニヤリと頬を歪めて言い放つ。


「ははは」


笑うだけで否定しないアレス。

事実なだけに、言い返せないダズが明後日の方向を向いてやり過ごす。


どっかりと椅子に座りなおしたリーグが、ダズに話しかけて来る。


「で、どうよダズウェン?」


「はい?」


どうよ、と言われても。

ダズは不思議そうにリーグの顔を見た。


「さっきの試合だよ」


「…お見事だったと」


危ないところも無くリーグの勝利だったはずだが。


「そうかぁ?本当はもっと早く決めたかったんだがなぁ」


しかしリーグは不満がありありの顔でぼやいている。


「あ、やっぱりですか?」


ダズにも心当たりがあった。

始めに打ち合い、押し勝ったリーグがそのまま追撃しようかと躊躇した隙に、相手が体勢を立て直したのだ。

あのまま踏み込んでいれば、リーグが勝っていただろう。

恐らくそこのことだろうかとダズは予測した。


「おう。やっぱ分かってるかぁ。お前も出ればよかったのにな」


リーグは感心した顔で頷いた後、残念そうに呟いた。

一年の時のダズの動きを僅かに見ただけだが、あの当時でも同じことはわかっただろう。

ダズには、当時からそれほどの実力があった。


「はは…。来年に、頑張ります」


流石に三年で参加できないので、ダズは来年に参加するつもりだ。

クラスでもぶっちぎりなので、余裕で参加できるはずだ。


「一度見てみたかったがなぁ」


残念そうにぼやくリーグに苦笑を返し、三人で色々と話し込んだ。

リーグは貴族ではなく平民出なので、卒業後にはどこかの領地に雇ってもらう予定だそうだ。

何だか、兄が唾をつけていそうな気がする。


しばらく話していると、すぐにリーグが呼び出された。

もう次の試合らしい。


「じゃ行って来るわ」


「頑張ってね」


「頑張ってください」


「おう。まあぼちぼちな」


兄弟二人分の声援を受けたリーグは肩を竦め、気負いなく歩いて行った。


リーグは二位だった。

決勝で、一つ下の5年生に負けてしまったのだ。

悔しそうにダズの肩を叩き、「来年は俺の敵を取ってくれ」と頼まれた。

ついギャグを挟んじゃうんだ

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