夜空が消えた日
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「アレが“はくちょう座”,あっちが“わし座”で“こと座”。
その三つの中の輝いている星をそれぞれ繋いだら、夏の大三角形」
「キラキラしてる!宝石みたい…。ソラねーお星さま大好き!」
「俺も好き。」
小さい頃の私はキラキラした星を見るのが大好きだった。晴れてる夜はお隣の【翔兄ちゃん】と毎日夜に川原に寝そべりながらずっと夜空を見てた。
私は夜空も大好きだったし、星も大好きだったけど、一番好きなのは翔兄ちゃんだった。
―――――――――――――
時は過ぎてある夏のこと。
私【酒井 晴空】は中学一年、翔兄ちゃんこと【河上 翔也】は大学一年だった。
私の住んでる町は結構田舎で、小学校・中学校・高校・大学全て一つずつしかなかった。他の町の人は「大学があるだけこの町はまだやっていける」とか言ってるけど。
私と翔兄ちゃんの〔一緒に川原で星を見る〕という行動は小さい頃より少なくなったけど、いまだに続いていた。
翔兄ちゃんの大学から帰ってくる時間が十時を回ってることが多いからだ。大学までは片道一時間。汽車は2時間に一本出てるのだが、時間があまり正確ではない。そんなに大変ならいっそうこの町を出てしまえばいいのにとお母さんも言っていた。
でも翔兄ちゃんは、この町がすごく…すごく好きなんだ。
毎回星を見ながら呟いてた。
「この町は良いよな。空気が澄んでるし、星が綺麗だし。」
あたしもそう思う。それに翔兄ちゃんもいるから…。そう言えたらどれだけ嬉しいだろう。
でも素直になれないのが私の駄目な所だ。
久しぶりに部屋で窓を開けた。やっぱり星は綺麗だった。夜の風は昼間の暑さを嘘とするかのように心地よく感じる。
ふと隣の部屋に目を向けると,急に窓が開いた。すると翔兄ちゃんが頭をかきながら顔を出した。
「あっ…」
声が重なった。久しぶりに見る翔兄ちゃんは前よりも大人っぽくなった気がする。
茶色い髪は夜の暗さで黒く見える。
「久しぶりじゃん。晴空!元気してた?」
先に声を出したのは翔兄ちゃんだった。笑いかけてきた顔も声も変わってない。
そんな翔兄ちゃんを見て私の胸はキュッとした。
「うん久しぶり。翔兄ちゃんあのね、私明日から夏休みださ!」
「早くね?大学とかまだなんすけど…」
「そーなんだ。やっぱ子供だから休みはたくさんあるんだよ。」
「バカ。始まる日ぃ早くても、残念ながら大学のほうが期間長いんでーす。」
翔兄ちゃんは意地悪そうな顔で笑いながらいった。
「…じゃぁ明日の夜とか暇してんの?」
「まぁね。」
「星…久々に行く?」
翔兄ちゃんの口から出た言葉は、あきらかに私が期待していたものそのものだった。もちろん私は即オッケーした。
―――――――――――――
次の日の夜8時、約束した時間ちょうどに翔兄ちゃんは来た。ただ星を見るだけだけど、私はほんの少しオシャレした。玄関を出ると自転車にまたがった翔兄ちゃんがいて、後ろを指差していた。そこに私が座ると自転車は動き出した。いつもの学校へ行く道とは全く逆のほうへ行き、踏み切りのところに自転車を止めた。
そこの踏み切りはかなり古び壊れていていつも降りた状態になっている。この辺の住人は踏み切りを手で上げてそこを通っていた。そこの線路にはまだ電車が通っており気をつけないと電車の餌食になってしまう。いわゆるちょっとしたこの町の危険地帯だ。
私と翔兄ちゃんは踏み切りをまたいで川原に向かった。川原は踏み切りからちょっと歩いた所にありすぐ着いた。
川原に着くと一度大きく空気を吸い込んで私と翔兄ちゃんは川原に寝そべった。空はやっぱり満天の星空だった。都会にある[プラネタリウム]なんかよりもずっと輝いている。
「おっ!夏の大三角形はっけ―ん」
急に声を上げた翔兄ちゃんのほうを見ると、翔兄ちゃんは夜空に指を指してた。その指の指すほうには、綺麗に輝く大きな三角形が見えた。
「うわー…やっぱり綺麗だね…」
わたしはついつい見とれてしまった。
そのあと星を見ながら私達は他愛のない話をたくさんした。そしてまた明日も星を見ることになった。
―――――――――――――
次の日の8時にまたぴったりと翔兄ちゃんはやってきた。今日は歩きだった。家から川原までは遠くはないが、15分位はあった。その途中また昨日みたいにいろんな話をしていた。話の中、私が一番聞きたくなかったことを翔兄ちゃんが言った。
「そうだ、俺ねー彼女できたさ。」
私の思考が一度止まった。
カノジョ…翔兄ちゃんの特別な人…
私のほうがその人より翔兄ちゃんのこと好きだったのに…
その一言で私の心から色々な想いが溢れ出てきた。歳だって離れてるけど…告白なんてしなかったけど…私の“オモイ”は翔兄ちゃんに届いていると思ってたから。
その途端【悲しい】【うぬぼれてる】【甘かった】【思い上がってた】醜い感情が私を埋め尽くしていった。
隣では照れながら話をする翔兄ちゃん。ココには一瞬で世界が変わった私がいる。
その場に居たたまれなくなった私は一言
「おめでとう、翔兄ちゃん。あっ私走りたい気分だから先行ってるね。」
といい走り出そうとした。顔を見れない。涙が込み上げてくる。その瞬間翔兄ちゃんに腕をつかまれた。手を振りほどくとき、顔を上げてしまった。その時自分の顔には涙が頬を伝っていただろう。そしてその涙の理由を、翔兄ちゃんもわからなかっただろう。
そして私は走り出した。
少し走ると、あの踏み切りに出た。後ろを振り返ると翔兄ちゃんは居なかった。私はその場にしゃがみ込んだ。涙はまだ流れている。その時、後ろで自分を呼ぶ声がした。翔兄ちゃんだ。私と翔兄ちゃんの距離は少しずつ縮まっている。私は立ち上がり、踏み切りをまたいで歩き出した。
その時だ。
「そら!!」
目の前がしろく光り電車の急ブレーキの音が聞こえた。そして翔兄ちゃんの自分を呼ぶ声が頭の中に響いたと同時に体が宙に浮いた。
少しして目を開けると、目の前には急ブレーキで止まった電車と少し離れた所に翔兄ちゃんが倒れていた。
―――…翔…にいちゃん?
私はまだ状況が理解できずにただ呆然としていた。少しすると電車の中から顔が青ざめている車掌と、数人の乗客が降りてきた。乗客には怪我は無かったらしい。車掌が慌てて自分の携帯で救急車を呼んでいる。この周辺の住人もさっきの急ブレーキを聞きつけて電車の周りに集まってきた。
私は恐る恐る立ち上がり翔兄ちゃんのほうへ歩き出した。時々足に痛みが走る。でもそんなことは気にもとめず私の足は少しづつ翔兄ちゃんの方へ近づいていった。
翔兄ちゃんの周りは少し黒ずんでいた。多分“血”だろう。私は翔兄ちゃんの頬に触れてみた。
―――…冷たい…
息もしていない。
「…翔兄ちゃん?翔兄ちゃん…翔兄ちゃん!!返事して!!」
私は叫ぶように翔兄ちゃんを呼んだ。でも反応は…無かった。ただ目を瞑って動かない。
そう、まるで死人のように。
死んだ…―――
翔兄ちゃんが…死んだ?嘘…でしょ?
私のせいだ…私が殺した…。あの時電車の音に気付いてなかったから…。
後ろのほうの人ごみを掻き分けて翔兄ちゃんの両親と私の親がこっちに近づいてきた。そして翔兄ちゃんを見ると翔兄ちゃんのお母さんは泣き出した。
どうしてだろう。私…さっきから涙が出ない…。
「…どういうことなの!?晴空!」
私のお母さんが怒鳴るように私に聞いた。
「…私の…せい。私が…電車に気付かなかったから…。」
自分でもわかるほど声が震えている。
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
あやまっただけで翔兄ちゃんが戻るわけではない。けど私はずっと謝りつづけた。
謝ることを止められなかった。
どうせなら責められて、責められて、重い十字架を背負ってしまったほうが楽だろう。
私ハ自分自身デ私ト他ノ人ノ一番大切ナ人ヲ消シテシマッタノダカラ…
「なんでこんな取り返しの無いことを…謝ったて翔也君は戻ってこないのよ…」
お母さんは泣いていた。翔兄ちゃんを自分の子供のように見てきたから。
「…律ちゃん。もう止めて!晴空ちゃんを責めないで…。翔也は自分の命を捨ててまで晴空ちゃんを守りたかったんだから…」
お母さんの言葉を強く否定するように翔兄ちゃんのお母さんは口を開いた。
………え?
何いってるの…この人。自分の子供が…死ななくても良いはずの人間が死んだんだよ?
遠くの方で救急車の音が聞こえた。私はなぜかわからないけど、その場を逃げ出した。
「そら!どこ行くの!」
後ろの声を無視して、人ごみを抜けて私は川原の方へ走った。全力で。
途中つまづいたり、転んだりして足や顔に傷が出来て血が流れてもかまわないで走った。
川原に着いたとき、もう息は上がっていて苦しかった。手を見ると自分の傷ではないところに、血がついていた。さっきの翔兄ちゃんの血だろう。川の近くで崩れ落ちるようにすわり、川で血を流した。翔兄ちゃんの血は簡単に流れて残ったのは自分の傷だけだった。
なんでかわからないが、急に頬に冷たいモノが流れた。それは自分の涙だった。
急に[翔兄ちゃんがいない…]それが頭の中に浮かび上がってきた。どんどん涙は溢れていく。胸が張り裂けそうだ。
私はさっき出来た傷を川の水で濡らしていった。痛みは無い。いや、痛みはあるだろう。でもそれすら感じることが出来ないくらい、心が麻痺していた。
“翔兄ちゃんはもういない”
頭では理解しても心が理解不可能。
私は川原に寝そべった。空は変わらず星で埋め尽くされてる。
昨日は隣に翔兄ちゃんが居たよね。それで今日もいるはずだよね?
「ねぇ翔兄ちゃん…夏の大三角形ってアレ?」
ポツリと呟いてみた。
「アレってこぐま座ってやつ?」
「そういえば、翔兄ちゃんの彼女ってどんな人?」
………ねぇ、返事してよ。
彼女の話でも、どんな星の話でも、大学の話でも笑って聞くから…
でも周りはただの夜の静けさだけだった。
もう空の星も私には輝いては見えなかった。昨日までの宝石が散りばめられたような空なんて何処にも無いだろう。
わかってる。翔兄ちゃんは私にこんな風になるのを望んで私を助けたわけじゃ無いって。でもね、私はきっと翔兄ちゃんが思ってるほど強くないみたい。だから…翔兄ちゃんが居なくなった今、私の目に映るのは何もかもが消えたただの暗い闇だけ。
ごめんね、翔兄ちゃん……
初めての小説投稿になります。
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