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Love letter  作者: 冬野 暉
番外編
11/12

待ちぼうけ

旧サイトのWeb拍手で掲載していたSSです。

 小さな頃、誕生日が近づくたびに何よりも待ち遠しかったのは、真っ赤な苺が乗ったバースデーケーキと――お兄ちゃんからのプレンゼントだった。

 子どものお小遣いで買えるものなんてたかが知れている。お父さんやお母さんからのものに比べたら、本当にささやかなプレンゼント。それでも、あたしにとっては一番の贈りものだった。

 どんなものだってかまわなかった。お兄ちゃんがあたしの誕生日を祝って、あたしのためにプレゼントを用意してくれた。そのことが、嬉しくて嬉しくてしょうがなかった。

 お兄ちゃんがあたしの生まれたことを喜んでくれている。そう思うことができたから。

 八歳のときにお兄ちゃんが家を出ていってからは、その形が変わった。プレゼントの代わりに送られてくるようになったのは、お兄ちゃんお手製のバースデーカード。お兄ちゃんの描いた絵と、お兄ちゃんらしい素っ気ない、けれどあたたかな言葉が綴られた、世界でたった一枚のカード。

 誕生日の朝、郵便受けの中にバースデーカードの入った封筒を見つけた瞬間の、泣きたくなるような安堵と――歓喜を、今でも憶えている。

 ああ、まだ大丈夫。

 あたしとお兄ちゃんはまだつながっている。幼い日、誕生日おめでとうって言ってくれたお兄ちゃんの笑顔を信じていられる。

 バースデーカードを見つめながら、何度も自分に言い聞かせた。

 ――どうして気づけなかったんだろう。

 いっそ盲目的なまでの、その想いの真実に。




 夏が過ぎ、季節がめぐって。

 あたしはまたひとつ、年を重ねた。

 もうお兄ちゃんからのバースデーカードが届くことはない。

 ああ、そうかって気づくたびに、お兄ちゃんの死を思い知らされる。喪失の、途方もない重みを。

 お兄ちゃん。

 今なら、お兄ちゃんがあのバースデーカードにどれだけの想いをこめていてくれたのか、わかるよ。もしもあの頃理解できていたら――あたしたちの結末は、もっと違うものになっていた?

 そんなこと、いくら考えたって何にもならないってわかっている。

 でもね、考えられずにはいられない。

 本当に馬鹿だよね。

 もう二度と送られてくることのないバースデーカード。

 それでもきっと、誕生日を迎えるたびに、あたしは郵便受けを覗かずにはいられないんだ。

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