第2話 素人コメントで乗り切る講評
ジャスミンと、他三人の少女たちが見たこともない球技に興じる姿を眺めて、そろそろ十分が経とうとしていた。
「まずい。何分制の競技なのかも分からないけど、そろそろコメントを考えないと」
三つの個性豊かなボールを、互いのゴールリングに投げ入れる競技――ということだけは理解できた。
たぶん、ボールが多くて、魔法を使っていいバスケみたいなものだ。
「アッサム、白ボール!」
「わかってるって!」
アッサムと呼ばれた金髪ショートカットの子が、腕を伸ばして白いボールを掴み取る。
……いや、伸ばしているというか、伸びている。
物理的に三メートルくらい。
しかも相手は、空中を勝手に飛び回る白くて羽の生えたボールだ。
「あの子だけは普通の人間に見えてたんだけど、違うのか……」
エルフのジャスミンと、他の二人はすでに羽を生やしたり、体を水に変えたりしているのを見た。
異世界人であることに疑いはない。
「さて、マジでどうしよう」
俺がこの競技――ルーン・ラッシュと言っていたか?――について無知だとバレたら、今度こそ不審者扱いは免れない。
なんとかそれっぽいコメントを……と思考をさまよわせていると、腹の底に響く鐘の音が鳴った。
ゴーン、と。
ジャスミンたちが一斉に動きを止める。
「……今の、終了の合図だよな」
四人がフィールドから、こちらに小走りで戻ってくる。
ルールは分からない。
当然、気の利いたコメントも思いつかない。
とりあえず“分かっている風”を装うため、腕を組み、額にしわを寄せてみた。
今の俺の顔なら――このダンディなおじさまフェイスなら、きっと様になっているはずだ。
「あの……どうでしたか?」
四人が横一列に並び、代表してジャスミンが問いかけてくる。
「ふむ……そうだな」
時間を稼ぐように、言葉を選ぶ。
「四人とも、よく動けていた――」
そう言いながら順に視線を向けると、先ほど腕を伸ばしていた少女――アッサムが、こちらをキッと睨んだ。
……違うのか?
この時点で?
「よく動けていたが……ただ、それだけじゃ、判断がつかないな」
慌てて軌道修正を試みる。
だが今度は、ジャスミンの表情が少し曇った。
(どうすれば正解なんだ、これ)
「……ですよね」
ジャスミンが、なぜか納得したように頷く。
「こんな簡易ゲームじゃ、分かりませんよね」
「簡易……ああ。まあ、そうだな」
「本当は、フルメンバー、フルボール、フルゴールでの練習試合をお見せしたいんですけど……」
ジャスミンは続けて、部員数やら、練習条件やらを呪文のように並べ立てる。
正直、
俺に分かったのは一つだけだ。
――ここにいない部員が、あと二人いるらしい、ということ。
「まあ……チームの仲が良さそうなのは、素晴らしいことだと思う」
無難なところに着地させると、ジャスミンは一瞬、言葉に詰まった。
「……それは、やっぱり、あの噂が……いえ、なんでもないです」
(どんな噂なんだろうなあ)
どうやら俺は、また余計なことを言ってしまったらしい。
「はぁ……はっきり言ったらいいじゃない」
先ほどから厳しい視線を向けていたアッサムが、ため息混じりに吐き捨てた。
――まさか。
ついにバレたのか?
俺が何も分かっていない素人だって。
「こんなレベルじゃ、全然ダメでしょ。おまけに混成チームじゃ、話にならない」
違った。
方向が、違う。
「アタシたちだって、それくらい分かってるってば!」
カメリア色の瞳の奥に、さらに濃い苛立ちの炎を宿しながら、
アッサムは腕を振り回す。
「ちょっと落ち着きましょう、アッサム。それに混成は、レオニスさんのチームだって、そうだったじゃない」
先ほど身体を水に変えていた少女が、背後からアッサムを抱き留めた。
(……名前、まだ聞いてなかったな)
「落ち着いてるって! ブラスター・オーバーローズの混成と、アタシたちは全然違うでしょ!?」
レオニス。
ブラスター・オーバーローズ。
どうやら、俺の“元いた場所”の名前らしい。
「レオニス選手の現役時代は、ほかにも超一流が揃って、それで初めて戦えたのが混成チームなの! アタシ、何度も観たんだから! オーバーローズの試合、全部!」
アッサムは、なおも暴れていた。
俺に分かったのは二つ。
彼女たちが、本気で追い詰められていること。
そして、俺が想像していた以上に、レオニスという存在が重いこと。
「……ごめんなさい、レオニスさん」
アッサムを抱きしめたまま、少女がこちらに頭を下げる。
「来月までに成果を出せないと、このスタジアム、ほかの部活に渡さなきゃいけなくて……それで、ちょっと余裕がないんです。この子」
なるほど。
そんな事情なら――
騙したままじゃ、やっぱり悪い。
ちゃんと本当のことを言って、謝ろう。
「ごめん、アッサム。ジャスミンも、みんなも。実は俺――」
ちゃんと力になれないことを伝えて、ここを去ろう。
そう思って、口を開いた――
その瞬間だった。
「あーーーーー!!」
背後から、野太い男の声が響いた。
反射的に振り返る。
そこには、二足歩行でこちらに突進してくる巨大なグリズリーがいた。
(あ、終わった)
たぶんこれは――
真剣な少女たちを騙した、天罰だ。




