表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
笑顔と恋と ※BLです※  作者: 舘城凛


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/37


「明日から一人暮らしか……」


 三月末。暖かな日差しが届く駅のホームで、「朝海悠真あさうみゆうま様」と自分の名前が書かれた手紙を取り出す。差出人はじいちゃん。


 今日、これから向かう朝海園――保育園までの地図と待ち合わせる時間が書かれた手紙が入ってた。朝海園は、保育園ともう一つの施設からなっているらしい。

 じいちゃんが園長。俺も明日からそこで保育士としいて働く。


 手紙を見ていたら、快速電車がホームに入ってきた。


「えっと、この快速に乗って四つ目だな」


 手紙をバックパックにしまいながら乗車し、停車駅の案内図を見た。

 降りる駅を確認してから空席を捜して車内を見回すと、何人かの女の人と目が合った。でも、さっと目をそらされる。たぶん、俺の身長が高いからつい見ちゃったんだと思うけど……。


 自分の状態を確認する。

 薄手のトレーナーにジャケットという組み合わせは、悪くないはず。それなりに体格も良いように見えると思うし、変な格好じゃない。少しツリ目だけど、たぶん大丈夫。


「?」


 何となく視線を感じて、そっちの方を見る。でも見られていると感じたのは、俺の勘違いだったみたいだ。


 車両の中に空席は五つ。

 それぞれの席を見ていたら、空席のとなりにいる女の人がスカートを足の下に入れてくれていたり、荷物をどかしてくれたりしている。足を組んでいた人はそれを止めていた。

 みんな、電車内のマナーを心得ているみたいだ。移動するときは気持ちよくしたいもんね。


 どこの席に座ろうかと迷っていたら、一つの席に目が行った。

 座席の一番端に座っている女の人を見たら、車内が明るくなったような気がした。いや、日は差しているんだけど……。


 日の光を浴びている女の人は、壁の方に身体を傾けている。

 スリーピングビューティー。

 そんな言葉が似合う人だ。日差しが当たる席で、すやすやと眠っている。

 少し横の髪が長くて、ちょっと茶色い。でもって肌が白い。チェック柄のトレーナーを着て、荷物を前で抱えている。


 ……あの場所が一番暖かそう。


 電車が次に停車するのは、まだもうちょっと先。

 スリーピングビューティーな女の人のとなりに座る。そしたら偶然、電車の揺れで女の人の体が俺の方に傾いた。


「んー……いい匂い……」


 女の人の髪の毛から、桃のような匂いがした。


「次はー江田沼えだぬまー。江田沼ー」


 ドアの上にある停車駅が書かれた図を見た。それによるとこの快速は凱津がいつ駅まであと三つ。

 さらに上を見て広域の路線図を見る。各駅停車だと、まだ八つも先みたいだ。さっきの駅から江田沼に来るまでの時間を考えたら、あと三十分くらいはかかるはず。


「ふぁ……」


 窓の外に広がる住宅街。連なる一軒家の屋根。

 昨日の昼間でかかった引っ越しの作業。

 程良い車内の温度。隣から聞こえる、気持ち良さそうな寝息。

 それらのせいで睡魔がやってくる。


「眠い……」


 電車が江田沼駅に停車。電車を待っていた乗客たちが次々と乗り込み、空席がなくなる。

 隣の女の人は、まだ起きる気配がない。


 ……疲れているのかな。どこまで乗るんだろう。


 女の人が辛くないように、奥までしっかりと座る。右腕が温かい。

 腕にかかる心地良い重さ。鼻に届く桃の匂い。窓から差し込む、暖かな日差し。


 ……寝ちゃうのはもったいない気がする。でも…………。


 俺は、ゆっくりと目を閉じた。




「お客さん。回送電車になるので降りてください」

「ふぁ、い」


 ゆさゆさと肩を揺すられ目を覚ます。電車を降りたときに冷たい風が頬を撫でた。

 寒い。

 おかげで眠気がなくなった。辺りはもうすっかり暗くなってたから、急いで時間を確認する。


「あっ」


 慌てたせいで携帯電話を落としてしまった。すぐに拾う。

 時間は二十時過ぎ。じいちゃんとの約束は十五時。画面には着信履歴が五件入っていた。

 恐る恐る履歴を確認してみると、じいちゃんから三件と知らない電話番号から二件の着信があった。

 留守番メッセージには、学生気分が抜けていないのかという内容が一つ。俺のことを心配するもの、メッセージを聞いたら連絡をよこすようにという伝言がのこされていた。

 俺は急いでじいちゃんに連絡する。


『悠真か? 今どこにいる?』

「ごめん、じいちゃん。寝過ごしたみたいだ」

『それで、今どこにいるんだ』


 駅名が書かれたものを捜す。


「えっと、青葉あおば駅!」

『わかった。じゃあ凱津駅まで迎えに行く』

「えっ。いいよ、迎えなんて。地図もあるし」

『暗くなるとわかりづらいんだ。青葉駅を出発するときに、また連絡を入れなさい」


 そう言うと、じいちゃんはすぐに電話を切ってしまった。


「迎えって、子供じゃあるまいし」


 携帯電話をジーパンのポケットに入れる。そして凱津駅へ行くために車掌さんに乗り換え方法を聞いた。


 教えてもらった通り、十番線へ向かう。

 何本も路線があるせいか、広い。俺が降りた三番線から十番線に向かうまでに何軒も飲食店が入ってる。


 十番線ホームに行って電車を待つ。その間に、時刻表の隣にあった路線図を見る。

 青葉駅は色々な方面から電車がくるターミナル駅みたいだ。上りも下りも、様々な路線が青葉駅を終着駅にしてる。


 ……ぐっすり眠っていたけど、あの女の人はどこから来たんだろう? 青葉駅で降りたのかな。それとも他の駅で降りたのかな。


 俺があのとき寝なければ、わかったかもしれないのに。

 後悔していると、電車が来るというアナウンスが流れた。


 ……でも、あの暖かさにはかなわないよ。あれは、寝ちゃう。


 気持ちを切り替えて、青葉駅を出るとじいちゃんに連絡した。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ