おばあさんと狼と狩人と白いずきんの少女の話
序章 のどかな町の白ずきんの少女
その町全体はのどかさに包まれていた。都会の喧騒とは無縁の、静かな時間が流れるこの場所。町の中央には、小振りながらよく手入れされた赤い屋根の教会が佇んでいる。この教会を中心に、村の人々は日々の生活を営んでいた。
そんな町に、一人の少女が住んでいた。純白のフード付きのマントを羽織っている。彼女は、小さなかごを片手に、今日も教会へ向かっていく。そんな彼女に町の人は気さくに声をかける。
「白頭巾のお姉ちゃん、こんにちは」
少年Aが声をかける。少女は穏やかに答える。
白ずきんの少女「こんにちは。今日も良い天気ですね。今日は買い物ですか?」
少年Aは「うん!」と元気に答える。「そうですか。偉いですね。妹や弟がお腹いっぱいになるよう、良い食材を買ってくるんですよ」
少年B「白ずきんのお姉ちゃんこんにちは!」
白ずきんの少女「こんにちは!こちらは学校へ行く途中ですか。いっぱい勉強して立派な大人になるのですよ。」
少年Bもまた、元気に返事をしてかけていく。この町にはそんな小さな平和や幸せがあふれていた。
何気ない会話をしながら、少女は教会へ入っていった。
教会の中では、見知った神父が白ずきんの少女に話しかける。
「白ずきんや。そなたがこの町へ来てしばらく経つが、暮らしぶりはどうかな?」
少女は静かに答える。
「非常に良くしていただいています。私を養子に迎えてくださった両親も、大変良くしてくれますし。紹介していただいた神父様には、感謝しきれません」
神父は満足げに微笑み、いくつかのリンゴを少女に差し出した。少女はそれを籠に入れ、家路へ向かうのであった。
第一章 新しき隣人
帰宅すると、少女は元気よく「ただいま」と扉を開ける。義理の両親は彼女を笑顔で迎え入れた。
やがて日は傾き、夕食時となった。母が少女に語りかける。
「そういえば、最近、村の外れに新しい村人が越してきたという話は知っているかい?」
初めて聞いたと答える少女に、父が続ける。
「どうやら、足の悪いおばあさんのようでな。外れに住んでしまったため、なかなか街へ来ることができず、買い物ひとつとっても苦労しているらしい。そこで、白ずきんよ。おばあさんに食材を届けてはくれないか?」
少女は快く引き受けた。
翌朝、食材を籠に詰め、いつもの白いフード付きのマントに身を包んだ少女は、おばあさんの家へ向かうべく、森へ入っていくのであった。
第二章 森の中で
町から外れた森は、とても静かだった。少女は細い獣道をおばあさんの家へ向かって歩んでいく。
途中立ち止まり、耳を澄ませ、スーッと息を吸い込んだ少女は美しい花々に目をとめた。少女は駆け寄り、それらを摘むことにした。
「これは美しい、赤い花。一輪いただきましょう」
「こちらは可愛い、黄色い花。一輪いただきましょう」
「そしてこれは、儚げな青い花。一輪いただきましょう」
「華やかな桃色の花。一輪いただきましょう」
「力強い緑の花。一輪いただきましょう」
それぞれの色の花を一輪ずつ、両手に抱えた少女は、「1.2.3.4.5…うん!数はこれで丁度ですね」と呟き、獣道をさらに奥へ進んでいった。
日が高く上がった頃、少女はおばあさんの小屋にたどり着いた。ノックをすると、中から声が聞こえる。
「どなたかしら?」
その声は、おばあさんのものとは思えないほどに太く、野性味に満ちていた。しかし少女は特に気にする様子もなく、小屋へ入っていく。
中ではおばあさんがベッドに横たわっていた。頭まで毛布をかぶり、顔は見えない。
「初めまして。おばあさん。私は街の両親から、おばあさんに食材を届けるよう言いつかってまいりました。こちらをお受け取りください」
少女が食材を机の上に置くと、毛布の下から声が聞こえた。
「そうかい、そうかい。では、その食材はそこに置いておいてくれ。しかし、この香り……どうやらリンゴが入っているようだね。申し訳ないが、見ての通り体が悪くてな。もしよければリンゴを一つむいてはくれないかい?」
少女は快く受け入れ、懐からナイフを取り出し、慣れた手つきでリンゴを剥き始めた。部屋の中に、リンゴの皮をむく「しゃしゃ」という音が響く。
その音を聞いたおばあさんは寝返りを打ち、毛布の隙間からこちらを覗いているようだった。毛布の隙間から、おばあさんの顔が少し見える。
それを見た少女は、尋ねた。
「おやおや。なぜおばあさん。体は弱くとも音はよく聞こえるのですね?」
おばあさんは答える。
「ああそうさ。お前の美しい声を聞き逃してはいけないからね」
少女は続ける。
「ずいぶんと目も鋭い様ですが?」
「これはね。お前の表情、動き、姿、そのすべてを見逃さないためだよ」
そして最後に少女は尋ねた。
「おばあさん。なぜあなたの口はそんなにも大きいのですか?」
おばあさんはにやりと笑い、ガバッと毛布をはねのけて立ち上がった。
そこにいたのは、屈強な盗賊の大男だったのだ。
「そりゃあお嬢ちゃん。お前を食っちまうためさ!」
そう、この大男は盗賊。盗賊団『狼』のメンバーだったのだ。あの平和な町に目を付けたのか理由は分からないが、大層残虐で名の知られている盗賊団であった。
第三章 正体
男が少女に襲いかかろうとした、その刹那。男の顔に痛みが走った。男は頬を抑え、呻く。その手には血が滲んでいた。
「テメェ名にしやがる!」しかし少女の姿はもうそこにはなく、代わりに背後から声が聞こえた。先ほどまでの可憐な少女の声ではなく、凛と冷たく、力強い声だ。
「お前が何もしなければ…お前が襲ってこなければ、見逃してやったものを…」
背後からシュッとマッチを擦る音。あたりに煙が立ち込める。
振り向いた男が目にしたのは、タバコに火をつける少女の姿だった。先ほどまでの可憐さはなく、その目つきは鋭く、百戦錬磨の戦士のようだ。
少女はゆっくり立ち上がり、白い頭巾のついたマントの内側に手をやる。
その姿を見て肝を冷やした男は、叫ぶ。
「おい、話が違えじゃねえか。ただおびき出して襲ったら、それで終わりだって話だったじゃ……」
白ずきんの少女は冷たく言う。
「ふぅん。あんた、誰かに依頼されたんだね。大方の予想はついている。さあ、どうする?逃げるなら追わない」
男は一瞬たじろいだが、逃げることはしなかった。代わりに、声を上げる。
「こいつはやべえかもな…。全員出てこい!」
仲間を呼んだのだ。すると扉から、次々と男たちが入ってきた。元の男を含めて、5人の男たちだ。
「コケにされたままでは終わらねえ。それにお前をやらねえと報酬もねえからな。恨みはねえが、ここで死んでくれや」
白ずきんの少女は片手を未だ白ずきんのマントに隠したまま、その場にしゃがむ。そしてタバコを咥えたまま、黙っていたが、不意に男1人1人を順に指さし少女はつぶやく。
「アンタは赤い花。アンタは黄色い花。アンタは青…桃色、緑…。ああぴったりだ。ちょうど5人に、花5輪。」
男が脅すように言う。
「何ブツブツ言ってやがる!」
少女は答える。
「アンタらさ。けもの道からずっとあたしをつけてきてたんだろう?だからさ。あらかじめ摘んでおいたのさ。に手向ける花をね。」
そう言って少女は白ずきんのマントからライフルを取り出した。
男たちは大層動揺したが、冷や汗を流しながらも強がった一人の男が言う。
「ライフルがなんだ!この狭い家の中じゃ、そのライフル、果たしてどれほど役に立つかな」
そう言い、懐からナイフを取り出す。
白ずきんの少女は試すように言う。
「試してみるかい?」
言い終わる間もなく、部屋に一発の銃声が響いた。
男が一人、その場にばたりと倒れた。すでにこと切れたか、床には血だまりが広がっていった。そして少女はふところから赤い花を取り出し、倒れた男にパサリと投げた。「アンタは赤い花だ。そして花はあと4輪。」そう言い残りの男たちをにらみつける。
男たちはたじろいだが、すぐに立ち直る。
「やりやがったな!」
そう言い、残る4人の男がナイフを片手に飛びかかっていく。
さすがに多勢に無勢。長物のライフルの間合いは、すぐに詰められた。
木の床が軋む。息がぶつかり、空気が熱を帯びる。
だが、少女は一歩退くごとに、足の裏で床を確かめるように重心を落とした。
――その呼吸の間が、戦場の“隙”を制する。
男たちの刃は空を切り、彼女の髪一筋さえ掠めることができなかった。
しかし男たちのナイフも少女をとらえることはできない。
少女は身をかわし、男たちの攻撃を避け続ける。それどころか、武器を持たない素手の少女が、徐々に男たちを制圧していくのだった。少女は素手でも強かったのである。
あるものは顔面に一撃パンチをくらい、鼻血を吹き出し倒れたところ、頭を踏みつけられて動かなくなった。うつぶせに倒れたその背中に「アンタは黄色の花」と少女は花を落とした。
また、あるものはナイフを奪われ、奪った少女のナイフが首を裂き、血が噴き出した。「アンタは青…。」倒れた男の上に青い花が落ちた。
瞬く間に味方が減っていく。男の一人が叫ぶ。
「こいつ強すぎる。こいつ何者なんだ……」
そして、もう一人の男がハッと気づいたように言う。
「この強さ……ただの小娘じゃねえ。それに……」
少女の頭巾は、男たちの返り血で赤々と染まっていた。
「な、まさか……」
一人が呟く。
「あの、グリム戦争の英雄。赤ずきんじゃあ……」
もう一人が続ける。
「赤ずきんだぁ!?赤ずきんって言えばあの…ブレーメンの森の撤退戦でラプンツェル将軍の猛攻をしのぎきり、唯一生き延びたという……あの英雄……」「敵の返り血でフードが真っ赤に染まってなお戦い続けたって…あの…」
少女はそれに答えるように言う。
「赤ずきん…はぁ…その名前は気に入ってなかったんだけどね」
少女の口に加えたタバコから灰がぽとりと落ち、男の血だまりで消える。
その音で、男たちは今、目の前にいる少女が自分たちの手に負えないということに気づいた。
その時、小屋の扉がバタンと開いた。
どうやら、帰りが遅くなった少女を心配した町の狩人が、後を追ってきたのだ。
「白ずきんの少女よ、これは一体……」
赤ずきんはチッと舌打ちをし、目線を狩人に向けた。
その一瞬を見逃さなかった男たち。扉に立つ狩人を突き飛ばし、一目散に逃げていく。
「しまった」
赤ずきんは男たちを追っていく。
ものすごい速さだ。ライフルを片手に、風のような速さで音もなく、一直線に男たちを川辺へ追い詰めていく。
男たちが橋を渡ろうとしたその背中に向かって、赤ずきんはライフルを構え、二度、引き金を引く。
1人1発。見事に命中した2人の男は、川に落ちていく。
しかし赤ずきんは言う「仕損じたか!」1人の男は仕留めたが、1人の男は致命傷をまぬがれていたのだ。
男を追って川にかかる橋の上に立つ赤ずきん。川は赤く染まっていた。かろうじて致命傷を免れた男が橋の上に立つ赤ずきんを振り返る。その目に映るのは白いずきんのいたいけな少女ではなく、返り血で赤く染まったフードをかぶり、なおも自分の命を狙う噂にたがわぬ戦争の英雄の姿だった。
男は情けない声を上げ、川を泳いで下っていき、逃げ去るのであった。
赤ずきんは懐から、獣道で摘んだ花の1輪を川に流し、そしてもう1輪を手にし、眺める。
「花が…1輪無駄になった…」
そう呟きながら、赤ずきんは取り残された狩人のいるおばあさんの家へ戻った。
そんな赤ずきんを、森の影から一人の老婆が見つめていた。指先には黒い糸が絡んでいる。
老婆はその糸を指先で弄びながら、低く笑った。
「ち……やはり盗賊団程度ではどうにもならないね。平和な町に染まりきって腑抜けて見える今ならやれると思ったんだが……腐っても戦争の英雄というわけかい。」
老婆の指に絡んだ糸をプチンと切る。切れた糸口が月光に淡く光っている。
「でもね、戦場の糸は…まだ切れちゃいない」
切れた黒い糸は風に解け、森の奥へ吸い込まれる。
そうこの老婆こそ、町のはずれに越してきたおばあさんの正体。そして今回の盗賊を陰で操っていた黒幕であった。
「しかし、こりゃ一回帰って、ラプンツェル将軍に報告だね。」
そうつぶやくと、老婆は森の中へ消えていった。
終章 根無し草
小屋に戻った赤ずきんは、狩人に静かに言う。
「狩人さん。この辺に服の仕立て屋はないかい?」
狩人が怯えたような動揺したような目で赤ずきんを見つめている。そして赤ずきんの質問に質問で返した。
「白ずきんちゃん…これは…?アンタは…?」
赤ずきん「あぁ…あいつらの言ってたことは…まぁ大体ホントのことだよ。確かにアタシは先のグリム戦争に参戦した。そこでどう呼ばれてたかは…まぁさっきの男が言ってた通りさ。」
狩人「じゃあ…白ずきんちゃ…いや赤ずきんさん…あんた国の英雄じゃないか!どうして命を狙われたり…」
赤ずきん「英雄…そうかもね…。でも…だからこそ…じゃないかい?」
と、彼女は続ける。
赤ずきん「まぁもういいだろう。それよりさっきの話。また頭巾が赤くなっちまったからね。綺麗な白に仕立ててくれる店を探してるんだ。是非紹介してくれ」
狩人は赤ずきんに仕立て屋を紹介した。しかし、その仕立て屋は教会の町とは別方向にあるという。
赤ずきんはため息をつく。
「結局、こうなるのか」
そう呟き、狩人に紹介された仕立て屋に向かって、歩みを進めた。
赤ずきんは、教会の町へ二度と帰ることはなかったのである。
数年前、2つの大国が衝突した通称グリム戦争。その戦争の英雄「赤ずきん」の後日談。
今後、彼女にどのような物語が待っているのか。この物語に続編はあるのか?
それはまた、別の話である。
ちなみにちなみにこの狩人の男。彼もまたこの後、盗賊団『狼」をまとめ上げ、後に開戦されるグリム戦争をしのぐ大戦争。『アリとキリギリスの戦役』にて敵の3豚大将が守る藁の城、岩の砦、レンガの谷を攻略する活躍をし、赤ずきんと並ぶ英雄となるのだが…。
それもまた別の話である。
こんにちは。『いんさいど』と申します。
この度はお読みくださってありがとうございます。
今回はグリム童話『赤ずきん』をひとひねりして「そう来たか!」って思われるような物語にしてみたいと思って書いてみました。
…しかし!
どこをかいつまんでも「どこかで見たことある…」という具合。改めて世の作家様たちの偉大さを痛感した次第であります。
ただ、そうは言いましてもせっかく書いた物語。どなたかの目に触れ「まぁちょっとは面白くもなくはなくもないわけじゃないんじゃない?(は?)」そう思ってもらえたら幸いです。
もしお時間あるようでしたら評価をばしていただけると今後のモチベーションになりますのでお気が向きましたら是非にお願い申し上げます。
ではまた!




