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9-2.


 場面等変わらず、前回更新分の続きです。



「ハイハイ美しい主従の絆も結構ですが、そもそも大前提として皇女殿下に他国の王太子を指名する権限なんてありませんからね」


 美しい主従の絆を容赦なくぶった切るダニエルを軽く睨む。短い仕返しだった。

 そういえば、ケイトには気やすい態度を許しているが、この男にはその覚えが無い。

 それなのにどうしてやたらとぞんざいに扱われているのだろう。


「そうなんですか?」

「えぇ。皇女殿下と結婚する方が王太子となられますが、それは別に皇女殿下に気に入られた方が王太子となる、というわけではありませんからね」

「……あぁ。王太子と皇女の婚姻は国交だが、その王太子が誰になるかは国政だからな。皇帝(父上)ならまだしも皇女(わたし)がサフィーラの国政に口を出すことはできない。だからそもそも王太子の件に関してはわたしにとりいっても意味が無いんだ」


 次期王太子妃のパートナーとして印象づけることでサフィーラ内の貴族への牽制にはなるかもしれないが、それが王太子の選定に影響するとは思えない。

 だとしたらキャロライナへの懐柔策なのだろうが、それこそ今ケイトに説明したとおり、成功したとて何の意味も無い。

 むしろ能力に関係なく気に入った男を伴侶に選ぶような、そのために父に泣きつくような皇女だと思われているなら心外だ。


「そのことをボードリエ公爵夫人はともかくクラヴェル公爵閣下がご存知ないはずないんですけどねぇ……」


 だからこそ余計にヴィンセントの豹変に困惑していた。


 そしてもっというなれば、アクアディオニスの発言にも。

 いくらキャロライナがアクアディオニスは嫌だと言ったところで、そんなことは関係ない。


「じゃぁもう公爵閣下が王太子に決まったってことなんでしょうか。御婚約の前にちょっとでも距離を詰めておこうとされてる、とか?」

「それならどうして公表しない?王太子の座を空けておく利など無いだろう」

「んー……サプライズ的な?」

「……」

「あぁっ。送り返そうとしないでっ」


 キャロライナとダニエルに白い目を向けられ、ケイトが再び慌てる。

 朗らかなのは彼女の美徳だが、今はそういうのは求めていない。


「まぁとりあえず、皇女殿下が正しく現状を把握されているようで安心しました。引き続き、王太子が決定するまではどちらにも御心を傾けることのないようご注意ください。あまり親しくなりすぎると、禍根を残しかねませんので」

「……禍根、ね」

「何か?」

「いや、別に。言われなくてもわかっている」


 要するに、「二人の王太子候補を手玉に取った」という不名誉な噂が立たないように、ということだろう。

 品の無い噂はたとえ高貴な身であっても、暇な人間にとっては娯楽のひとつなのだから。


「……不満げなお顔をされていますね」

「別に?小侯爵の言うとおりだと思っているさ」

「私が言いたいのは、望まれた方と結ばれなかった場合、御心を痛めるのは皇女殿下だということです」

「……は?」


 珍しく深刻な表情で告げるダニエルを、まじまじと見返す。


 いったい何を言っているのか、すぐには理解できなかった。

 理解したあと押し寄せてきたのは、怒りだった。


「……小侯爵は、わたしを侮辱しているのか」

「……」

「姫様……」

「わたくしは、自分の使命を忘れたりなどしない」


 夫となる相手を敬い、支える。幼い頃から心に留めていた覚悟を違えるつもりなどない。

 夫ではない相手に心を傾けるなど、あってはならない。


「……出過ぎたことを申しました」


 頭を下げ、謝罪の意を示すダニエルを視界に入れたくなくて、顔をそむける。

 子どもの頃は気に入らないことがあるとすぐに声を荒らげ癇癪を起していたけれど、もうそんなことが許される年齢でも立場でもないことはわかっている。

 苛立つ心は、自分自身で何とかしなくてはいけないのだ。


「……久しぶりに外に出て、少し疲れた。用があれば呼ぶから、しばらく一人にしてくれ」


 あれだけ外に出たいと言っていたくせに苦しい言い訳だが、できた侍女と優秀な外務官は承知しました、と文句も言わず退室した。


 ひとりになると、徐々に気持ちも落ち着いてきた。

 冷静になると、どうしてあんなに腹を立てたのだろうかと自分でも不思議に思う。

 ダニエルは、心配してくれただけ。キャロライナを貶める意図なんて無かった。

 あとから考えるとわかるのに、その瞬間は頭に血が上ってしまうのか、怒りに支配される。

 それはよくないことなのだと優しく言い聞かせてくれた人は、もう傍にはいてくれない。

 叱ったり頭を撫でたり抱きしめたり、そんなことはもうしてくれない。


 もう誰にも甘えられない。


「……大丈夫。わたくしは……大丈夫……」


 ひとりでも自分の役目を果たしてみせる。

 皇女として、皇族としての使命と矜持を忘れたりしない。


 そうすればきっと、みんな褒めてくれる。


 父も、母も、そして。


「……お兄様……」


 兄もきっと、喜んでくれる。



 第一章終了です。


―・―・―・―・―・―


 簡単にですが登場人物紹介です。


■キャロライナ=ブレイド=ジュエリアル(18)

・髪:緋色  瞳:碧色

・ジュエリアル帝国第一皇女


■アクアディオニス=ドゥ=ノアム=ジェムナスティ

・髪:黒鳶色(赤みがかった黒)  瞳:琥珀色 

・サフィーラ王国第二王子


■ジークフリード=ドゥ=ルイアート=ジェムナスティ(故20)

・髪:ハニーブロンド  瞳:青色

・サフィーラ王国第一王子/元王太子


■リーゼロッテ=フォン=プリムローザ(19)

・髪:ピンクブロンド  瞳:碧色

・サフィーラ王国 公爵令嬢/ジークフリードの従妹


■ヴィンセント=デュ=クラヴェル(30)

・髪:青みがかった黒  瞳:明るい緑

・王弟/公爵/第二位王位継承者


■レクサンドラ=ドゥ=ルコット=ソレイユ=ジェムナスティ(42)

・髪:ハニーブロンド  瞳:琥珀色

・サフィーラ王国国王


■アウローラ=フォン=ボードリエ(40)

・髪:ハニーブロンド  瞳:青色

・サフィーラ王国 公爵夫人/王妹


■ジョセフ=フォン=ボードリエ(45)

・サフィーラ王国 公爵



■アッシュ

・髪:白色  瞳:緋色

・キャロライナの従者兼ペット


■ダニエル=アルフォート(23)

・髪:蜂蜜色  瞳:瑠璃色

・ジュエリアル帝国 小侯爵(侯爵令息)/外務官


■クレア=ウォーベック(23)

・髪:栗色  瞳:翠色

・ジュエリアル帝国 伯爵家令嬢(子爵令嬢)/第二皇女付侍女


■ケイト=シズリー(21)

・髪:飴色  瞳:藍色

・ジュエリアル帝国 伯爵家令嬢(男爵令嬢)/第二皇女付侍女


■ルーカス=ジュエリアル(42)

・髪:亜麻色  瞳:銀灰色

・ジュエリアル帝国 皇帝/キャロライナの父


■アンジェリカ=セイルヴ=ジュエリアル(42)

・髪:シルバーブロンド  瞳:青色

・ジュエリアル帝国 正妃/アデルバートの生母


■アデルバート=セイルヴ=ジュエリアル(23)

・髪:亜麻色  瞳:銀灰色

・ジュエリアル帝国 第一皇子/皇太子/キャロライナの異母兄


■マリアンヌ=ランス=ジュエリアル

・髪:金色  瞳:蒼色

・ジュエリアル帝国 第二皇妃/レオンハルトの生母


■レオンハルト=ランス=ジュエリアル(18)

・髪:金色  瞳:蒼色

・ジュエリアル帝国第二皇子/キャロライナの異母兄


■セレスティア=ブレイド=ジュエリアル(34)

・髪:緋色  瞳:碧色

・ジュエリアル帝国第三皇妃/キャロライナの生母


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