表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖蹟駅はちょっと遠い  作者: 六福亭
2年目
46/49

第3章(13)

「私が言うことに、適当に相づち打ってればいいですからね」

「わ、分かった」

 2年3組の教室の前。たった今から、ここは戦場になったらしい。楓は教室の扉が半分ほど空いているのをちらりと確認して、大きな声で秀紀に話しかけた。


「秀紀さん、知ってます? 2年の中村若葉って名前のクソブスな先輩のこと!」

 秀紀はぎょっとした。教室内に残っていた女子のグループが、こちらに視線を向ける。

「あのブス、分不相応にも竹田ヨシキ先輩が好きなんですって! で、好きなら告白でもすりゃいいのに、する勇気も勝算もないから、千早さんいじめて憂さ晴らししてるんです。竹田先輩が千早さんのことを好きだから。性格も顔も終わってるビッチですよね!」

「……い、言い過ぎじゃない?」

 楓は小声でささやいた。

「あいつが千早さんに言ったことですよ」

「……ああ、そう」

「ちょっと!」

 教室内にいた数人の女子が、楓に詰め寄った。

「あんた何なの? 1年のくせに……」

「あら、ご機嫌うるわしゅう、クソババアども」

 楓はにっこりと笑った。

「秀紀さん、この方達が千早さんをいじめてる奴らです。右から中村若葉さん、吉田藍菜さん、松岡結衣さん」

 秀紀は思わず3人の顔をまじまじと見た。彼女達は秀紀から顔をそらし、楓を怒鳴りつけた。

「あんまりなめたことしてると、あんたも潰すから」

「どうぞやってみてください、厚化粧のブス先輩♡」

 楓はちっともひるまない。

「こっちは、あんたらがやったことぜーんぶ、竹田のお兄ちゃんにチクりますからね」

「は?」

「あんた竹田君の何?」

「従姉妹です」

 楓はそうきっぱり言った。若葉の表情が強張る。

「嘘つけよ」

「嘘じゃありませんよ。竹田のお兄ちゃんに聞いてみたらどうですか? まあ、あんたらとしゃべってくれるかどうか分かりませんけどね」

 楓は携帯を取り出し、どこかにかけた。

「あ、出た。もしもしヨシキ君? 中村若葉さんがヨシキ君に愛の告白したいんだって! そう、あの千早さんいじめてる女!」

「やめてよ!」

 若葉が楓につかみかかった。とっさに秀紀が立ちはだかる。楓はひらりと身をかわし、話し続けた。

「うん。うん。えー、そこまで言う? 代わろっか? あー、しゃべりたくもない? じゃあ、私が伝えといてあげる!」

 電話を切った楓は、冷たい目で3人を見上げた。

「ヨシキ君から伝言。千早さんをこれ以上悲しませたら、一生許さないって。嘘だと思うなら、本人にどうぞ聞いてみてください」

 そう言って、楓は秀紀の腕を引いた。

「じゃ、行きましょうか」

「あ……うん」

 階段を降りながら、秀紀は楓に尋ねた。

「僕がいる意味あった?」

「もちろん。ボディーガード役ですよ。あと、1人でしゃべってたらバカみたいでしょ。あいつらが馬鹿にできっこない仲間が必要でした」

「……それで僕?」

「ええ。見た目も悪くない、特進クラス。どう考えてもあいつらより格上でしょ」

 なんだかもやもやとしているのを勘づいたのか、今度は楓が聞いた。

「引きました?」

「……まあ、ちょっとは」

「私、性格悪いでしょ。事実だから気にしてません。でも、ああいう奴らには私みたいな奴がぶつかっていくのが一番効果あるんですよ」

「本当に竹田の従姉妹なの?」

「ええ。だから、事情聞いた時ガッツポーズでした。私なら千早さんに代わってあいつらやっつけられるって」

「……強いな、楓は」

 楓は秀紀を見上げ、笑った。悔しいけれど可愛い。それを彼女も自覚しているのだろう。

「覚えておいてくださいね。悪意には、悪意で返すんです。私はそうやって戦うことにしてます」

「ハンムラビ法典的な?」

「そうです」

 目には目を、歯には歯を。悪意には悪意を。だけど……。

「悪意で返せない立場の人は、どうしたらいいのかな」

「例えば教師とかですか?」

「そうだね」

 楓は即答した。

「今日の私みたいなことを、秀紀さんがしてやればいいんじゃないですか」

「ぼ、僕が!?」

 楓は背伸びして、秀紀の肩を叩いた。

「がんばれ、ひでっち!」

「ひでっち!?」

 相談室の前まで来ると、楓は手を振って中に入っていった。千早に会いに行ったのだろう。秀紀は茫然と突っ立っていたが、やがて我に返り、部室に戻ることにした。


部室には、真衣と拓がいた。

「……あれ、さっきユズもいなかった?」

「帰った!」

 真衣が答える。

「秀さあ、ほんとに間が悪いよね」

「な、何の話?」

「せっかくいろいろ上手くいきそうだったのに、また振り出しに戻っちゃった」

「だから、何の話なんだって」

「知らなーい。本人に聞けば?」

 その後いくら真衣を拝み倒しても、何も教えてもらえなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ