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聖蹟駅はちょっと遠い  作者: 六福亭
2年目
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第3章(12)


 中間試験期間中だが、真衣と柚里は打ち合わせの為大学のカフェで待ち合わせをした。

「ここ、なかなか席とれないんだよね」

 真衣が言うと、柚里もうなずいた。

「いつも大学生でいっぱいだもんね」

 窓際の席に座り、二人は勉強道具を取り出した。打ち合わせもしつつ、勉強もしなければならないのだ。

「真衣ちゃんって理系だっけ」

 真衣が開いた教科書を見て、柚里が言った。

「うん、そうだよ。香野先生のクラス」

「いいな。優しいでしょう」

「まあね。放任主義な感じはするけど」

 二人は飲み物と、ちょっとしたスイーツを注文した。

「教会コンまでに合同練習したいよね。文化祭もあるからあんまり時間ないかもだけど」

「あと、総文も」

 5月末に開催される総合文化祭のことである。去年合唱部は希望者のみ見学に行っていたのだが、今年はコンクールにも出るためリハーサルをかねて出演することになった。

「あ、あと……」

「まだ何かあんの?」

「吹部は、6月中にコンクール会場でホール練習をするの。やっぱり、普段のホールと本番のホールは響きが違うから」

「要するに、めっちゃ忙しいってことね」

 手帳を開き、真衣は唸った。

「曲の仕上がりにもよるけど、最低3回は合同練習入れたいな……」

「6月に入ってから週に1回でどうかしら。前日リハーサルは別で」

「いいね、そうしようか」

 ふっと柚里の顔が曇った。

「どうかした?」

「……ねえ、真衣ちゃん。合唱部そっちもちゃんと教会コンに出るよね?」

「出るよ」

 真衣は即答した。

「先生には首に縄つけてでも私が引っ張ってくる。ここまできてドタキャンなんて許さない」

「秀紀君も?」

「……秀? 何で?」

 柚里がうなだれる。

「……柚里、まさかまだ私と秀がつきあってるなんて思ってるんじゃないよね?」

「それは誤解だったから、いいの。勘違いしててごめんね。……でも私、秀紀君を怒らせちゃって……」

「いつ?」

「遠足の時……」

 柚里が遠足での会話を話すと、真衣は呆れてため息をついた。

「……一応聞くけど、うちらがコンクールに出るのを馬鹿にしてるんじゃないよね?」

「してない!」

 柚里は必死に言った。誤解されるのはもうこりごりだったのだ。

「合唱部の皆がね、勝負なんかなしで和気あいあいと活動してるのがすごく好きなの。うちは……何というか、いつも戦いだから。私はそういう部活しか知らなかったから、真衣ちゃん達は本当に楽しそうだといつも思ってた!」

 もちろん吹部が嫌になった訳じゃないけど、とつけ加える。

「コンクールで結果を出すためには、自分や他校と戦わなきゃいけないの。でも、音楽ってコンクールが全てじゃないでしょう。合唱部には、吹奏楽部と違う方向性の音楽をやっててほしかったというか……」

「もう遅いよ。コンクール大好きな後輩が入ってきたからね。合唱部もこれからどんどん競技音楽部になると思うな」

 真衣の言葉を聞いて、柚里は不満げに口をつぐんだ。真衣が笑う。

「まあ、私らもギスギスするよりは楽しい方が好きだから。まったりやらせてもらいますよ」

 柚里はこくこくとうなずく。頼んだチーズケーキやらパイやらが来たので、二人はしばらく飲んだり食べたりに集中した。勉強道具は開いたっきり放置されている。

 しばらくして、柚里がぽつんと言った。

「……私、やっぱり秀紀君が大好き」

 真衣はじろりと柚里を見た。

「だから、それ本人に言いなって」

「だって、もう嫌われちゃったもん」

 柚里はケーキをほおばりながら遠い目をした。

「あいつ単純だからさ、柚里が今思ってること全部言ってやったらころっと手のひら返すと思うよ」

「そうかな……」

「この前だってさ、あんたに告白しようとしてたんだよ」

「この前?」

 柚里はきょとんとした。

「この前って、いつのこと?」

「ほら、秀に呼び出された日があったでしょ。あんたの代わりに田邊が来たらしいけど」

「…………」

 柚里ははっとした。

「秀紀君が……呼び出しておいて知らない女の子と帰っちゃった日?」

「いや、違うよ。代理で田邊に行かせたんでしょ」

「待って、何の話?」

 忘れもしない4月下旬の放課後(※第2章(5)~(6))、柚里は秀紀に話があると言われ、玄関で待ち合わせをした。ところが約束の場所に秀紀は来ておらず、別の女子ととっくに帰ったらしいと吹奏楽部員の田邊に教えてもらったのだ……が、

「私が秀から聞いた話だと、あんたじゃなくて田邊が来て、柚里が迷惑してるって秀に言ったんだって。もう話しかけるなって。だから秀は相当落ち込んだし、言われた通りに柚里のLINEもブロックしたし、自分から話しかけないようにしたんだよ」

「な、な、な……」

 柚里は驚愕で突然舌が回らなくなったらしい。

「なにそれ~~!!」

 彼女の珍しい大声が、カフェに響き渡った。

「ちょっと柚里、落ち着きなって」

「落ち着いてなんかいられない……! なにそれ、なにそれ!! ありえない!」

「分かったから、ここで大声出さないでよ。追い出されるよ」

 なだめられ、ようやく柚里は口をつぐんだ。

「どうやら、あんたらはめられたみたいね?」

「田邊君に……?」

 田邊は柚里と同じ吹奏楽部員かつ、クラスメイトである。ハキハキした性格の彼は、柚里にもよく話しかけてくれた。だが、パートがホルンとクラリネットであまり接点がないことと、柚里があまり積極的な性格でなかったので、そこまで親しい間柄ではなかったと柚里自身は思っていたのだ。

「田邊君がどうして、そんなことをするのかしら」

「さあ、知らない。それも本人に聞いてみなよ」

「待って、どう聞いたらいいと思う?」

「自分で考えなよ」

 ぴしゃりと言い放ち、真衣は立ち上がる。

「そろそろ混んできたから、お店出ようか」

「あ、うん」

 カフェを出ると、真衣は言った。

「今だったら、秀達は部室で勉強してると思うよ。来る?」

「ううん……あ、いや、……行く!」

 真衣は微笑み、柚里と共に部室へと向かう。


 一方その頃、秀紀は拓と部室で勉強に励んでいた。ところがそこに楓が駆け込んできて、大声で言った。

「千早さんのこと、聞きましたか!?」

「ど、どうした?」

 楓の顔は怒りで真っ赤になっていた。

「千早さんのクラスメイトが、千早さんをいじめてるんです!! のけものにして、悪口回して! 最低!」

 秀紀と拓ははっと向き直った。

「誰が言ってたの? 千早?」

「いいえ。福原先生から聞きました。たまたまいじめの現場をみかけて、問い詰めたけどあまりいい反応じゃなかったんですって。千早さんも全然話してくれないし。でも、もう既に靴隠されたりノート破かれたりしてるって」

「最悪だ」

「最悪ですよ。秀紀さん、今からそいつらシメにいきましょう」

「ええ?」

 戸惑う秀紀の腕を、楓がぐいぐいと引っ張った。

「ほら、早く! 善は急げ!」

「待ってよ、シメるって……何するつもり?」

「まあ任せてください。もう準備は整ってます」

 楓は不敵に笑った。

「腕っぷしなら拓の方が」

「おい」

「いえ、今回は秀紀さんの方がいいです」

 楓はきっぱりと言った。

「というわけで、秀紀さん借りますね」

 秀紀は言われるがままに楓についていった。階段の途中で柚里と真衣に出くわす。二人はぎょっとして、楓と手をつないだままの秀紀を凝視した。

「……何やってんの?」

「あ、いや、」

「ちょっと戦ってきます!」

 楓は明るくそう言って、秀紀の手をまた引っ張った。


「どこまで行くんだよ」

「2年の教室の辺りです。千早さんって何組でしたっけ?」

「3組」

「なるほど、了解」

「千早はどこに?」

「福原先生が面談してます」

 2年3組の教室の教室まで来ると、楓は立ち止まった。

「中には入らないの?」

「ええ」

 上がった息を整える為、楓は深呼吸した。息を吸うたび、彼女のお腹が膨らんだ。


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