定時以降の電話は出ちゃいけない
鳴り響く着信音。悲しいかな、骨の髄までしみ込んだ反射で2コール以内に通信石に魔力をこめる。
「……こちらジン。いかがしましたか?」
通信石は記録させた特定の波長の魔力を受信と送信を相互に行うことで遠距離での連絡を可能とした魔道具だ。世界を大きく発展させたと言っても過言ではない魔道具で開発当初でこそ軍事用の大型通信石しか存在しなかったが、今では小型化にも成功し持ち運び式も普及してきた。
いつでも他者と連絡がとれるため依存気味に持ち歩く人間もいるが、俺は今すぐにでも遠くに放り投げたい。
「やあジン君おつかれさま。君の事だからそろそろ討伐が終わるころかと思ってね。今時間あるかい?」
聞こえてくる声は案の定クソ上司だった。なんでこんなベストタイミングでかけてくるんだよ。超能力者かよ。
「ええ、大丈夫です。」
「偶然にも我が第3支部の有能ギルド員が出張している氷山関連の噂を聞いてね。どうやらその氷山で雪男が大量発生しているようなんだ。そのまま討伐をしてきてくれないかい?」
「……支部長。知ってましたね?」
「いや知りはしないよ? ただ、本来は山頂付近に生息するアイスドラゴンが4合目や5合目といった中腹に出るのは珍しいとは思っていたけどね。僕の予想では氷雪龍さ。いやー残念。あてが外れたよ。」
氷雪龍とかSランクの超大物じゃねえか。そんなところに単身ぶちこむんじゃねえよ。あと知らなくても予想してるなら言えよ。死んだらどうするんだよ。
「分かりました。当然これは査定対象に入れてもらえますよね?」
「もちろんさ。ノルマを超えた分はちゃんと評価するよ。じゃあよろしくね。」
意味深な言い方をして一方的に電話を切られると同時になにやら上の方から雪崩でも起きそうな騒音が響き渡ってくる。憂鬱な気持ちで魔力探知の範囲を広げると数えるのも面倒になるほどの人型の気配を感知した。
1体1体が3m近い巨体で分厚い毛皮に覆われているのが感じ取れる。完全に雪男の気配に一致した。ほんとにもう……ありがとうございます。
1体あたりはCランク程度の魔物でも、この数だけ集まればAランクに匹敵する脅威だ。うち漏らしが麓に降りて被害でも出された日には非難の声で耳が痛くなるに違いない。暗い気持ちになりながら魔物たちの方へと踏み出すとやけくそでショートライフを一気飲みし、全力で魔術を発動する。
「あぁ……今日も徹夜か。」
少しくらい夢見させてくれよ。
---2日かけて雪男の群れを掃討すると戦闘の魔力を感じ取った氷雪龍が舞い降りてきた。いい加減にしてくれ。




