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王の企み



『バルド。例の山はどうなった』


行き交う群衆をオペラグラスで眺めながら、フィンリー王が尋ねました。目玉をぎょろりと動かし、カップに紅茶を注ぐバルドに視線を送ります。


『もう燃やしたのか?』


サイドテーブルに、コトンと紅茶が置かれました。


『全ての木を伐採し、現在は山を崩す作業にかかっています。少々手こずっているようですが、見習いの魔法使いたちの手も借りれば、来月には更地にできるかと』


バルドは黒い手帳を開き、淡々とした口調で答えました。

フィンリー王は窓の外に視線を戻し殴り合う群衆を見つけると『いいぞいいぞ、もっとやれ!』と、声高らかに笑いました。


『今月中に終わらせるように伝えておいて。できなければ人間も魔法使いもみな火炙りだ』


バルドはメモを取ると、手帳をパタンと閉じ内側の胸ポケットに収めました。


『ところで最近ラルフを見かけないな。やつはどうしてるんだ』


『例の少女にうまく接触したようです。報告するように伝えましょうか?』


『いやぁ構わないよ。あいつのことだから何か考えがあるんだろう。しかし監視はしておいて。悪魔の使いなんざろくな奴はいないからね』


外に視線を向けたままのフィンリー王に、バルドはまた淡々とした口調で尋ねます。


『彼女が自身の力に気づくのも時間の問題かと思われます。もしあのエディという魔法使いと手を組むことになれば、我々の計画は全て水の泡となってしまいます。すぐに捕まえなてもよろしいのですか』


『エディ?あぁ、前にラルフが言ってたあの森の魔法使い、そんな名前だったか。‥‥エディねぇ』


乱闘が治ると、フィンリー王は王座にどすんとだらしなく腰掛け『はぁ〜あ、もっと楽しいことはないかな〜』と天を仰ぎました。

サイドテーブルのロシアケーキに手を伸ばして2枚重ねて取ると、ひとくちでザクザクと頬張ります。


『惜しいけど、小娘が中に入ってしまった以上あの森へ近づくのは得策ではないよ。それに小娘を外へ誘き出す方法は幾つか思いついてる。あとは実行に移すだけだ。慎重にね』


指についたクッキーの粉を払いながら答えます。フィンリー王は、壁に掛かった群衆の争い合う絵を見つめると、何かを思い出したようにポツポツと話し始めました。



『昔、父上から、北のある森に厄介な魔法使いがいると聞いたことがあるんだ。その森は代々、水の魔法使いが守っていて、我々が簡単に侵入することはできないらしい。まぁしかし、私の父上は息子の私から見ても、冷酷で、恐ろしいほどに力を持った人だったから、その辺にいる魔法使いは父上の敵では無かった。みんな一瞬で真っ黒焦げになったよ。たしか、北の森の魔法使いもただの灰になったと聞いたなぁ』



フィンリー王は、今度は王座に浅く腰掛けると、バルドの淹れた紅茶に手を伸ばしました。香りを嗅ぎ、にこりと優しい笑みを浮かべます。



『つまり、エディとやらの両親を殺したのは私の父上というわけだ。彼らは国王からの命令を無視して、独断で行動し、全ての計画を破綻させた。まぁ、命令に従わなかったのだから当然の報いだよね』



怖いほど優しい口調でそう言うと、紅茶を口へ運び、ほっと小さく息を吐きます。



『しかしその邪魔が入ったせいで、父上の願いは最後まで叶わなかった。亡くなる直前まで、あいつの両親の名を囁いていたよ。だからこうして私が受け継いだ。その想いも、悪魔の力も。もしまた邪魔されるなんてことがあればどうかな?ゲイブリエル家の恥になるよね。でも大丈夫。そんなことにはならないから』


ティーカップをテーブルに戻すと、深く腰掛け脚を組み、バルドを鋭い目つきで見つめます。



『あと少しで、北の大地は火の海となるんだ』




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