四話 彼女は街のなんでも屋さん
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「【ステータス】だけじゃないけどね。異世界からきた人とこっちの世界の人たちじゃ、基本的に【LV】差が大きいし、【スキル】だってそう。【職業選択】のことだってあるし、【経験効率】だって全然違うわ。それから――」
「いや。ちょっと待って、待って」
俺はあわてて相手の言葉を遮った。
LV、それにスキルだって?
いきなりたくさんのゲーム用語をぶつけられても、頭がついていかない。
「あ、ごめん。そのあたりは、またあとで説明するね。――とにかく、異世界からやってきた人たちはこっちの世界の人たちのことを馬鹿にしてることが多いの。差別してるって言い換えてもいい。だから、私は嫌い」
はっきりと感情をこめて、飯端さんは言い切った。
俺はそんな彼女の表情をみながら、
「飯端さんみたいな人は、他にいないの?」
「私?」
「飯端さんはこっちの人たちのことを差別してないんだろ? 異世界からやってきた人で、そういう人って他にはいないわけ?」
飯端さんは少し考えてから、頭を振った。
寂しそうに笑いながら、
「いないわけじゃないわ。……そうね。異世界からやってきた人が、全員さっきみたいな人っていうのは言い過ぎたかも。でも、そういう人は本当にごく稀。そして、そういう人は組合から距離を置いてるのがほとんどよ」
「飯端さんみたいに?」
「ええ。組合には入ってるし、組合費も払ってる。けど、それ以上は関わり合いになりたくないってのが正直なところ」
「なるほどー」
それに、と飯端さんはこちらを窺うようにしながら、
「ナオヤくんは【ステータス】が見えないんでしょう? 仮に、これから先、あなたが異世界から来た人間だって認められたとしても、あの人たちはナオヤくんを歓迎しないと思う。彼らにとっては、【ステータス】を確認することと、異世界から来た人間であるってことはほとんど同じはずだから」
「確かに、さっきもそんな感じのことを言われたよ」
「うん。だから、仮にナオヤくんが組合に入ったとしても……」
彼女はその先を濁したが、なにを言いたいかはわかった。
組合の人間にとって、俺はあくまで「差別する側」の人間ということだろう。
飯端さんの言っていることは、恐らく正しい。
組合は俺にとって味方になりえない。甘えた考えは持たず、そう考えたほうがよさそうだ。
だが、そうなると……。
「……ますます、これからどうすればいいんだか」
思わず頭を抱えてしまう。
頭のうえに、くすりと飯端さんが笑う気配が降ってきた。
「それでね。私からナオヤくんに、提案があるんだけど」
「提案?」
「うん。組合の代わりに、ナオヤくんの後ろ盾になってくれる人を紹介してあげようか?」
……マジ?
「え、ほんとに? そんな人がいるの?」
「言ったでしょ? 私、組合から離れて独り立ちしてるの。私がお世話になってる人たちのことを紹介してあげるから、そこでこっちの世界のこととか学んでいけばいいんじゃない?」
もちろん、と彼女は笑った。
「ただでご飯を食べられるってわけにはいかないけどね」
それはもちろん、理解している。
働かざる者、食うべからず。
こんな状況なのだから、あちらの世界にいた時のようにのほほんと学生をやっていられるとは思っていなかった。
飯端さんはにこりと微笑んで、
「よかった。それじゃあ、さっそく知り合いに紹介する――前に、やることがあるか」
こちらを上から下まで見下ろして、
「まずは買い物に行きましょ。そんな恰好じゃ、街で浮いちゃうわ」
この格好、やっぱり浮いてたのか……。
「でも俺、こっちのお金なんて持ってないんだけど」
「貸してあげるわよ」
「マジで?」
「トイチでいい?」
「……謹んでお断りします」
彼女はあははと笑った。
「冗談よ。こっちの世界にやってきたお祝いってことで、金利はなしにしといてあげる」
なにこの子。女神サマかなにか?
「飯端さん……」
「なに?」
「惚れてもいい? ってか、好きです。付き合ってください」
「謹んでお断りします!」
最速でフラれたんだが?
「ふふ。――はいっ」
飯端さんは人好きのする表情で、こちらに手を伸ばしてきた。
握手ってことかな?
手を差し出すと、彼女は柔らかくそれを摑んで、
「歳が近い日本人だなんて、久しぶり。嬉しいなぁ。これからよろしくね、ナオヤくん」
その表情の眩しさに思わず目をそらしてしまう。
いかん。さっきのは冗談のつもりだったのに、本当に好きになってしまいそうだ。
顔が赤くなるのを誤魔化そうと、俺は適当に口をひらいた。
「あー。そういえばさ、俺って飯端さんとおなじ仕事をすることになったりするのかな」
「ん? 多分、そういうことになるんじゃないかなぁ」
「飯端さん、なにをやってるの? やっぱり、冒険者とか?」
彼女はうーん、と首をかしげながら、
「惜しい! けど、ちょっと違うかなあ」
「俺にも出来る仕事?」
「大丈夫、大丈夫。資格なんていらないし。必要なのはやる気と根性だけだから」
途端にブラックな気配がしてきたんだが、本当に大丈夫か?
不安をおぼえる俺に、飯端さんはいたずらっぽく片目を閉じて、告げた。
「私の仕事はね、いわゆる『街のなんでも屋』ってところかな」