第一夜 噂
始めまして、推理小説?を書かせてもらいます。
色々と書きたい場面があるので、それを伸び伸びと書けたらと思います。
噂とはある種の病理のようなものだ。
まるで流行り病の如き速度で広まり、瞬く間に日常へと溶け込む。
この物語の始まりはとある女生徒が引き起こした事件。
僕にとってはあの人と挑むことになる何度目かの事件である。
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学生の本文は勉強だというが、僕はそう思ない。だって眠いから。
「なあおい、公彦起きてるか?」
授業の合間に用意された貴重な十分間の休み時間。
本来は次の授業の準備をしたりする時間らしいが、そんな事をする真面目な生徒の方が少ないわけで、僕――水上公彦も眠気に耐え切れず机に突っ伏していた。が、そんな僕に数少ない友人の一人である西谷恭介が話しかけてきた。
「……起きてない」
「アッハッハァ、起きてんじゃんか~」
今お前に起こされたんだよ!、と言わないのは僕がある程度大人であるからだろう。
「でなに?見ての通り僕は自律神経を整える為に仮眠を取ってるんだけど」
「ああそうだそうだ、この前また出たんだってよ噂の『夜間探偵』が」
「……またか」
それは僕たちの通う高校で最近噂になっているとある人物の事である。
旧校舎にある黒ポスト(黒塗りされたポスト)にその人宛の依頼を投函すると、決まって夜に現れては受けた依頼がどんな謎や事件であろうと解決してくれる名探偵。
どういうわけかその名探偵は夜の間に現れて問題を解決するということで、噂を知る学生達や大人の間でその人物は『夜間探偵』と呼ばれ始めていた。
「恭介、前にも言ったけどさ、そんな探偵がいるわけないだろ?どうせどっかの誰かが流した適当なホラ話だよ」
「でもよー、三組の佐藤さんがいるって言ってたぜ?」
知らねえよ、誰だよ三組の佐藤さんって。
「はぁ、それで?あの人、次はどんな事件に巻き込まれたんだ?」
「ん?あの人?」
あ、しまった……
「おいおい公彦~?どうしてお前、佐藤さんが事件に巻き込まれたってのを知ってるんだよ。さてはお前、寝てるふりして聞き耳立ててたな~」
ああ恭介が馬鹿でよかった。
「そういうわけじゃないけど。今朝の通学中に佐藤さんが何かしらの事件に巻き込まれたっていう噂を聞いてな」
ごめん顔も知らない佐藤さん。
「なるほどな、まあでも安心しろ俺はその噂の詳細を事細かく知ってるんだ。なにせ俺は佐藤さんに直接聞いたからな」
行動力ありすぎだろ。
「それじゃあ聞かせてくれよ、その噂の詳細ってやつを」
僕のその言葉を待ってましたと言わんばかりに、恭介は一度咳払いをした後、どこぞの有名MCばりの勢いで語り始めた。
まず件の佐藤さんは女生徒らしく、その巻き込まれた事件というのは、どうにも中々軽い話ではなかった。そもそも佐藤さんは巻き込まれたのではなく事件の中心人物だった。
恭介の話した内容をまとめて要約するとこうだ。
佐藤さんは部活終わりの下校中に度々不審な人物から帰路をつけられていたらしい。つまりストーカー行為にあっていた。
最初は気のせいと思っていたそうだが、帰宅時間を遅らせても早めても何度も同じように現れるその不審者に佐藤さんは怖くなって親や学校側、そして警察にも連絡したらしい。
下校時に必ず現れるその不審者に怖くなった佐藤さんは、現在はご家族による送迎で高校まで来て、帰りも送迎をしてもらっているのだとか。
「嫌な話だし、結構ハードな事件だな」
「だよな、俺も今朝聞いて思わず、こっわ!て声に出しちまったよ」
もしも自分が佐藤さんと同じ行為を受けたらと思うと、少しゾッとした。
僕や恭介でも怖いと思うのなら、被害を受けた件の佐藤さんはどれほど怖い思いをしたのだろうか。
「学校も最近交通安全とかいう名目で登下校に先生がいたりするだろ?どうにも聞いた話じゃ警察もまだ実被害も出てないからって本腰を入れての犯人捜索には至ってないんだってよ。今のところは登下校時の巡回パトロールを増やしただけとか」
だから最近学校までの通り道に教師や警察をちらほら見かけたのか。
「犯人の手掛かりとか思い当たる人物とかは?」
「いやー俺もそこまで深入りしては聞いてないからなーだって今朝初めて話したんだぜ?褒めてほしいくらいだよ」
今朝が初めての会話だったのかよ。つうか、初対面で最初の会話がこれって重すぎると思うんだけど。
流石はコミ強(コミュニケーション強者)の恭介だ。
「学校側も出来ることに制限があるし、警察は本腰を入れてくれてない。それであのひ……『夜間探偵』に依頼を?」
「流石公彦、察しが良くて助かるぜ。お前の言う通りでな、佐藤さんは噂を信じて『黒ポスト』に依頼の手紙を入れたんだってよ」
「なるほどね、やっぱり巻き込まれてるのか」
小声でそう言った僕の言葉に、恭介が意味も分からずに首をかしげる。ちょうどその時、次の授業の予鈴が鳴った。
適当に会話を切り上げると恭介は自分の席へと戻っていく。僕もまたウトウトとしつつも次の数学の教科書を机に上に出して、先生が教室に来るまでの間を机に突っ伏して待つ。
(今頃あの人は事件の真相を突き止める為に色々と考えてるんだろうか……はぁ、今日も徹夜かもな)
来たる夜の時間にそう思う。
けれど憂鬱な訳ではない、むしろ少し楽しみなんだ。
今宵もまた、あの人に会えるから。
初投稿なので六話まで出します。
ぜひ最後までお読みくださいませ。