あっという間に過ぎる時
手を繋いで、黙ったまま歩く。
何から言おうか、どう伝えようか。
色々考えてはみるんだけど、それがなかなかまとまらなくて。
考えがまとまらないうちに、元は花壇だったジャガイモ畑の横を通り、あっという間にガゼボに着いた。屋根と柱と簡易なベンチがあるだけだけど、満天の星が見えるのでなんとなくロマンチック……な気がする。夜に二人きり、だからそんなことを思うかもしれない。
今更ながらドキドキする。
だけど、ちゃんと話をしなきゃ。
「あのね、テオ。聞いて欲しいの」
ベンチに横並びに座って、わたしはテオを見る。
「うん。リステリアと俺が一緒には生きられないってことだよね。正確に言えば、あと5,60年くらいかな、一緒に居られるのって。頑張って百年いけるかな?そのくらいの時間、俺はリステリアと一緒に生きられるけど、その後ずっと……リステリアが死んだ後も俺は長い時間を生きる。それこそ、リステリアが生まれ変わるとしても、その生まれ変わりの人にだって、一回や二回じゃなく、何回も会うかもしれない。そのくらいの長い長い時間」
オババ様は千年生きたドラゴンの魔女。テオだって、千年……ううん、それ以上生きるかもしれない。ドラゴンの寿命っていったいどのくらいなんだろう。
「テオは……平気?今わたしと一緒に生きても、必ずわたしはテオを置いて死ぬ。なら、初めから、テオと同じ寿命の誰かと生きた方が良いんじゃないかって。わたしはテオが好きだけど、テオを不幸にはしたくない。だから……」
苦しい。テオが、わたしじゃない、他の誰かと生きるのなんて、考えるだけでももう嫌だけど。
だけど、テオが幸せに生きるなら。
テオを悲しませずに済むのなら。
わたし、テオと一緒にいない方が良いのかな……。
俯いたわたしの頭を、テオはポンポンと軽く叩く。
「他の誰かなんていらないよ。俺はリステリアが良い。いつか、離れてしまってもね」
「テオ……」
テオがわたしを抱き寄せる。温かな腕。この中にずっと居たくなる。
「リステリアと生きたい。そりゃあ種族が違うんだから、俺は長生きで、リステリアは俺より先に死ぬ。きっと、リステリアが居なくなった後はきっと俺はすんごい泣いて泣きまくって、暴れたりして。落ち込んだり、辛かったりすると思う。オババ様、見てて知ってるから」
「オババ様?」
「うん。オババ様の最初の恋人の人間とは会ったことは無いんだけど、その後そいつが別の人間に転生してオババの前に現れた時のこととか、色々、オババから聞いて知ってるから。再会の喜びが大きかった分、相手が転生して前世の記憶なんかないどころか……」
テオが顔をしかめて、いったん言葉を切った。わたしはテオが言い出すのを待った。
「人間の、討伐隊。黒の森の魔物とか魔女が領地に害を及ぼしているとか、そんなこと言いだしたすんごい昔のある領主が居て、オババの元恋人が転生したのは、その討伐隊として駆り出された兵のうちの一人だった。オババに剣、向けてきたんだって」
「ひどい……」
「うん。オババもね。相手の最初の転生だったから、期待していたんだ。もしかしたら前世を覚えているかもしれない。覚えていなくても、再会してまた恋に落ちるかもしれないなんて。意外にロマンチストだからオババ。だけど、魔物を見るような目で、オババに切りかかって……。頭にきたオババは装備とか全部取り上げて、人間だけ森の外に転移させちゃったんだよね。取り上げた剣とか槍はさ、領主の屋敷の屋根にぜーんぶ突き刺して。今度やったら、屋根じゃなくて、領主や兵士の体に突き刺してやるって怒鳴って……。まあ、八つ当たり半分、悲しみ半分でしでかしたってとこかなあ……。だけど、オババはね、あいつ……、恋人の人間の事、それでも未だに好きなんだよね。次に転生した来たら、どんなふうに会うのかって、楽しみにしてるんだ」
「ええっ!?剣とか向けらえて、それ怒ってはいないの?」
「それ、最初の恋人じゃなくて、転生してきた人だから、別って考えているのかもね。それに……怒りって、長続きしなんだって。悲しみもね。記憶はだんだん薄れていって、で、いつまでも残るのが楽しかったことや嬉しかったことだけなんだって」
「楽しいことや嬉しかったこと?」
「うん、誰かといて幸せな時があった。それを数えて生きていると、嫌なことなんて忘れるってさ。オババ、外見は執念深い魔女、って感じだけど、ホントは前向きっていうか楽天的なんだよ意外にね」
確かに、そうかもしれない。最初に会った時も、御不浄をお借りした時なんて笑い転げてたし。
「で、さ。俺はそんなおばばに育てられたんだよね。だから、ね。リステリア。俺はリステリアと過ごしたたくさんの楽しいことだけ数えて生きていけるよ。オババみたいにさ。最初にリステリアに出会ってジャムを貰って。リンゴの木を育てている時も楽しかった。たくさんリンゴができたら絶対にリステリアに会いに行こうと思った。そんなこと考えているうちに何年もたっててさ。オババに『人間だからもうとっくに嫁に行ってるんじゃないか?』って言われて、慌ててリステリア探してさ。見つけてすぐ、森に連れてきちゃって……。いきなりドラゴンにさらわれて、あー、そう言えば、あの……、こ、怖かった?」
そ、そんな事情があったのね。わたしは首を横に振る。
「ううん。何でかわからなかったけど、わたし、ドラゴンのテオを見てもなんか懐かしい気がするって思っただけで、怖いとか、全然なかったの」
ただ、寒くて……御不浄に行きたいって、それで困ったくらいで。
テオはほっとしたみたいに「そっか」と笑った。
「で、さ。だから、俺は……リステリアと生きたいんだ。もちろんリステリアが先に死んじゃうこともわかってる。その後、すっごい泣いて悲しんで……、どうにかなっちゃうかもしれないけど。だけど、思い出すよ。リステリアと過ごしてどんなに幸せだったかって。それを思い出しているうちに、数百年なんてあっという間に過ぎるんじゃないかな?」




