手を繋ぐ
満天の星の海から、ドラゴンのテオが降りてくる。すっとひと筋、落ちる流星みたいに。
わたしは思い切り手を伸ばす。降ってくる星を掴むみたいに。
くるりと、体の裏と表が変わるみたいに人間の形になったテオを抱きとめる。
「大好きよ、テオ」
お帰りとかありがとうとか、ラーカス様をどこまで送り届けたのとか。
側にオババ様がいらっしゃることまで気にもせずに。
わたしは胸の中の想いを吐き出した。
「わたしはテオが好き。一生一緒に居たいってわたしも思う」
「リステリア……」
いきなり言い出した私に、テオは驚きながら、それでも優しい目でわたしを見つめてくれた。
「だけど、わたしは人間だから。ドラゴンのテオとは一生の長さが違う。わたしはどうしたって先に死ぬ。テオを残して。……テオは、それでも、いいの?わたしはテオと居て、幸せな一生を送ることが出来る。でもテオは……」
「うん。リステリアが居なくなった後、俺は長い時を一人で生きるだろうね。実際にそうして生きてきたオババを、この目で見てきているから、それがどんなものか、理解できる」
テオがオババ様へと顔を向ける。
「よかった、起きたんだねオババ」
「ああ。お前の吠える声が大きくて目が覚めちまったよ」
「あはは。ごめんごめん」
「ま、いいさ。明日になったら黒の森に帰るから、背に乗せて飛んでおくれよ」
オババ様の「帰る」との言葉に、テオの「りょーかい」という軽い声と、わたしの「えっ!」という驚きが重なった。
「このままここに居たら、リステリアの力になりたくなるだろうからね。魔女はそんなに人間と交わらないもんなんだよ」
引き留めたいとは思う。だけど、それはオババ様の迷惑になるかもしれない。わたしは何も言えずにただ、泣く一歩前のような目で、オババ様を見る。
オババ様はそんなわたしの頭をぽんぽんと叩く。
「べつに今生の別れってもんじゃないんだし。何時でも森に遊びに来な。テオの背に乗って」
「……よろしいのですか?」
「ああ。テオの嫁ならあたしの孫も同然だ」
テオの嫁発言にわたしの顔が一気に赤くなる。
「その発言はちょっと気が早いと……。まだ問題が山のように……、それにテオの気持ちも……」
ごにょごにょとわたしは口の中で言う。
「ま、その辺の話はテオとリステリア、二人でしな。夜はまだ始まったばかり。朝まで時間があるさね。じゃ、あたしは先に休ませてもらうよ。まだすこし体がだるいからね」
ひらひらと手を振って、オババ様は部屋にと歩いて行ってしまった。
残されたわたしたち。しばらくの間、ゆっくりと歩いていくオババ様の背を見送って、それから、テオに向き直る。
「あの、テオ」
「リステリア、その」
二人で同時に呼びかけ合って、そして、二人同時に黙り込む。
「わたしね」
「えっと俺は」
また、同じタイミングで話しだしてしまった。き、気が合うのかなっ!?それともペースとか喋るリズムとかが似ているのかな?それってもしかして、わたしとテオの相性が良いってことなのかしら……、なんて考えてしまって、またもやぶわっと顔が赤くなった。
い、いやいやいやいや、落ち着いてわたし。
そういうことを考えるのは、後っ!今、わたしがテオと話さなくてはならないことは別の事よっ!
息を吸う。思いっきり。そして吐く。すうはあすうはあと、胸を押さえながら、いきなり深呼吸をしだしたわたしに、テオはすっと右の手を差し出した。
んんんんん?この手は何?えっと、触れていいってこと……?
じーっと見ていたら、テオがさっとわたしの手を掴んでくれた。
「ちょっと、歩きながら話そうか」
「さ、さんぽ……?」
「せっかく星、綺麗だから。眺めながら話そうよ」
「じゃ、じゃあ……あっちの方にあるフラワーガーデン……って、今、花は咲いていないけど……。でもガゼボとか、あるから、す、座って眺めるのはどうかしら。」
庭はジャガイモ畑にしてしまったから、ロマンのかけらもないけれど、星があるからいいわよね。
ゆっくりと歩き出すテオ。わたしも促されるまま、歩き出した。




