転生しても
「ゴミ捨て……かい」
オババ様が呆れたように苦笑した。
「テオのことだ。しばらくはここに寄り付けないように遠くまで飛んでいくだろうよ。リステリア、ここだと冷えるだろ。館の中に入って待っておいでよ」
「はいオババ様。あ、オババ様、お腹は空いてはいませんか?ずっとお眠りになっていらっしゃったので。それにお体はもう大丈夫なのですか?」
「そう……だね。何か貰えるかね」
「では、厨房に参りましょう。何もなければわたし、作ります」
「そうかい。そりゃ嬉しいね」
わたしとオババ様は厨房に向かった。ゆっくりと、肩を並べて。
歩きながら、いろんな話を聞いた。テオの子どもの頃の事。オババ様の昔の事。
「そりゃあ色々あったさ」
あっけらかんとお笑いになるので、ちょっと込み入ったことも聞いていいのかなと思いつつ、わたしは恐る恐る聞いてみた。
「あの……オババ様は……ご結婚とかは……されたのですか?それとも黒の森でずっとお一人で?」
「うーん、若い頃には恋人もいたがねぇ。その恋人は人間だったもんだから、先に死んじまったさ」
わたしは足を止めた。オババ様は優しい。だから、きっとわたしが何を聞きたいのか、きっとオババ様にはわかっていらっしゃる。
ありがとうございますとの気持ちを込めて、わたしはオババ様をまっすぐに見た。
「あの……、失礼でなければお聞かせください。恋人と死に別れて、その後……オババ様は……辛くは、無いの、ですか……」
声が、段々と小さくなっていってしまう。ごめんなさい。辛いことを思い出させるようなこと、お聞きしてはいけないのだと、本当はわかっている。だけど……。
ふっと、オババ様がお笑いになる。懐かしむような、小さな子供に向ける慈しみのような、そんな顔で。
「子どもが遠慮するんじゃあないよ。聞きたいんだろ?」
「はい。わたしは、人間です。だから、テオに好きだと言っても一緒に居られるのは後五十年か六十年か……頑張って長生きしたところで百年は越せないでしょう。なのに、好きだと言っていいものか……。残されたテオは……寂しくなったりしないのでしょうか……。テオを辛くさせるなら……好きだなんて伝えない方が良いのかしら……って」
残して、先に死ぬくらいなら。テオに好きだなんて言わない方が良いんじゃないかって。だけど誰か別の女の子にテオを取られるのも嫌なんて。わたし、いったいどうしたらいいのかしらね。
オババ様は「そりゃあ、どうしたいか自分で決めな」とわたしの頭をガシガシと掻く。
「あたしの話をしようかね。あたしの最初の恋人は、今言った通りニンゲンさ。出会って、すぐ死んだね。死ぬときにそいつが言ったのさ。『絶対に生まれ変わって、また傍に来るから待っていて欲しい』とね」
「うまれ、かわる……。そんなのが本当に出来るのでしょうか……」
「ああ。確かに生まれ変わってきたさ」
「本当に?」
「ああ」
もしも生まれ変わることが出来るのならば。わたしが死んでもまた、テオと会える……?
そんな期待が胸に沸き上がった。だけど、オババ様はふっと笑った。寂し気な、顔で。
「生まれ変わって、出会えたさ。だけど、あいつはあたしのことをこれっぽっちも覚えちゃいなかった」
「え!?会いに来たのに、ですか?オババ様のことを覚えていたからこそ、オババ様に会いに来たのでは……」
「いいや。あたしに会いに来たんじゃないんだよ。偶然会っちまっただけ。あたしのことなど覚えちゃいない。……まあ、あの頃はあたしも若かったからね。頭にきてね。黒の森の外まで魔法で吹っ飛ばしてやったのさ」
あ、あの噂。魔女のせいで人間は黒の森には入れない。入ったとしても身ぐるみはがされて、記憶を失って、森から放り出されるとか言うのは……それが伝わったものなのかしら……ね。確認する気はないけれど。だけど。けらけらとお笑いになるオババ様。もう昔のことだと吹っ切れていらっしゃるのかもしれない。だけど……。わたしは俯いた。
「生まれ変わったら、前世の記憶とかは……」
「そんなもん、覚えちゃいないだろうね。魂が同じだとしても、生まれ変われば別人だ」
「そう……、ですか……」
別人。生まれ変わったところで、魂は同じでも、別の人。
なら、わたしが死んで、それで転生をしても……新しく生まれなおしたわたしはわたしではない。テオとの記憶も覚えていない。
胸の中にごうごうと風が吹き荒れるみたいだった。
わたしは、どうしたらいいんだろう。
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