咆哮
先ぶれも何も無い突然の来訪。
いえ、それよりもラーカス様がまたウェステルハイム領にやってくるなんて思ってもみなかった。
二度と会わない。会ったとしても、どうしても出席しなければならない国王陛下ご主催の夜会などの行事にすれ違う程度だろう思っていた。
「何か御用ですか?もう婚約も破棄しましたし、家同士の相互扶助協定もなくなりました。ウェステルハイム家はリヴァイエス家と既に無関係です」
「無関係?相互扶助の協定が無かったら話もしてはいけないのか?」
馬鹿にしたような嗤いを浮かべるラーカス様。……この方、こんな人でしたかしら?ああ、そう言えば女連れで婚約破棄を言い出すような誠意の無い男ではあったわね……。
「……断絶だと、言い出したのはそちらでしょう」
「二年も無条件でウェステルハイム家を支えてやればな、こちらとしても我慢の限界だった。何時まで支援せねばならんのかとな。我慢の限界を覚えるのも当然だろ。だけど、最近はウェステルハイム領も復興してきたと聞いてな。だからわざわざやってきたんだよ。昔みたいにまた相互扶助の関係を結んでやっても構わないし、リステリア、お前と再婚約を結んでやってもいい」
あまりにも厚顔な申し出に、わたしだけでなくニーナやセバスたちまでもがむっとした表情を隠さずにいた。
「……クロイツアー男爵家のアデーレ嬢はどうなったのです?」
あの婚約破棄の申し出の時、わざわざラーカス様に引っ付いてきて「ごめんなさいねえええええ」などとわたしに向かって高笑いをしたご令嬢。彼女と婚約を結んだんでしょう?
「ああ、あの嘘つき女。アデーレの領地は全く暴風雨の影響を受けていないと言ってたけど、それ、嘘だった。あの女のところも本当はウェステルハイム伯爵家と同じようにかなりの困窮具合だった。だから、被害のないリヴァイエス家の私に近寄って来たんだ。婚約にあたって調べてみたら、もう笑うぐらいに嘘しかなかった」
「……だから、見捨てた、と?」
「もちろん。利益のある所とでなければ婚約など結ぶ価値はないだろう?なあ、リステリア。お前だって、この私と再婚約できれば願ったりかなったりだろう?喜べよ、この私がもう一度お前を選んでやる。長年の付き合いもあるし、復興してきて上向きになったことでもあるしな」
わたしはぎゅうううっと拳を握りしめた。拳が、ぶるぶると震える。怒りで、目の前が真っ赤になる。
何が喜べだ。一番辛い時に婚約どころか相互扶助の協定を破り、一方的にこちらを見捨てたのに。
ウチの領地が復興したのはオババ様とテオのおかげだ。そうでなかったら、今頃わたしは娼館で、泣きながら男の人の相手をしていたはず。
怒りが大きすぎて、言葉が口から出ない。ただ、わたしはラーカス様を睨みつけて、拳を震わすしか出来なかった。
「なあ、リステリア。そいつ、なんか偉そうに言ってるけど、リステリアはそいつの事、好きだったりする?」
「そんなわけないでしょうテオっ!冗談でもやめて」
「じゃあ、そいつ、要らない?」
「わたしの人生に、こんな男は要らないわよっ!」
「じゃあゴミってことでいいね」
テオがわたしのほうを向いてにっこり笑う。それから、そのままラーカス様のほうに向きなおった。
「なあ、アンタ。自分の足で帰る?それとも強制的にゴミ箱に捨てられるのとどっちがいい?」
「はあ?なんだ貴様はっ!」
「んー、何だと言われれば、こういうもんだけど?」
テオが一瞬でドラゴンに変化する。そしてそのまま大きな口を開けて、ラーカス様に向けて咆哮を放った。
お読みいただきましてありがとうございました!!
ブクマとか、ちょこっと増えて嬉しいです感謝☆
『さようならダニー様 ~ とっくの昔に解消した、元婚約者の結婚式に参列させられました ~』という短篇を書きました。よろしければそちらもお読みいただけると嬉しいですm(__)m




