突然の来訪
一生一緒に生きてくれ。
それを愛の言葉として素直に承諾することはできない。
好きなのか嫌いなのかを問われれば、もちろん好きだ。
わたしはテオが好きだ。
元婚約者のラーカス様なんて欠片も思い出さなかったくらいに、テオとの毎日が楽しい。
領地もだんだんと復興していくだろうし、後はオババ様がお目覚めになってくだされば、もう何も問題など無い。
娼館に身を売ろうなんて思ったことなんて、ホント過去の彼方。お腹いっぱいご飯を食べるというところまでは行かないけれど、なんとか領民の皆と食料を分け合って、食べることが出来ている。皆も、何もなくなった領地を以前のように豊かにしようと前を向いてくれている。言うこと無し。
だけど、わたしは魔法も何も使えないごく普通の人間なのだ。そしてテオはドラゴン。
竜族で魔女のオババ様は千年という長い時を生きている。テオだって、きっと、長い時を生きる。
「一生」の、長さが違う。
仮にわたしと相思相愛になって、わたしが死ぬまで仲睦まじく過ごすとする。わたしはとても幸せだろう。
だけど、テオは?
わたしはあと百年も生きない。どうあがいても、テオを一人残して先に死んでしまう。
わたしが死んだあと、テオはどうするの?
残りの長い生を悲しんで生きるの?
それともあっさりとわたしを忘れて別の誰かと生きるの?
だけど、ここで、「テオは友達だし」なんて言って、誤魔化すことも出来ない。
もしも、テオの長命を理由にわたしがここで、テオの気持ちを拒絶したら。
テオは傷つくだろう。ううん、それよりも……わたしではない、誰か別の女の子に、テオがもしも「一生一緒に生きてくれ」なんて告げたとしたら。
ラーカス様に、婚約を破棄された時は、支援が受けられなくなって、領民やお父様が困るとしか考えられなかった。
だけど、テオが、わたしのそばからいなくなって、誰か別の女の子と一緒にしあわせに暮らしたら。
……わたしは、それに耐えられるのだろうか?
テオの幸せを考えるのなら、わたしではなくて、テオと同じくらい長い時を生きる相手を見つけてもらった方が良いとは思う。
だけど……嫌。
考えるだけで嫌。
もう、わたしにテオ無しの生活など考えられない。
前に、オババ様の家に向かう時、一緒に森を歩いた。転ばないようにってテオが、がっしりとして大きな手でわたしを包んでくれて……。
ううん、もっと前から、かもしれない。
ドラゴンのテオに会った時。ドラゴンの金色の瞳から目が離せなかった。
もっと前からかしら。アーノルド地方のリンゴ農園で、「リステリアのジャムだから美味いんだ」って言われた時。テオにもっともっと何かしてあげたくなった。
正直、いつから好きだったのかなんて、わからない。
だけど、テオの存在はわたしの心の中で大きな位置を占めているの。もう、とっくに。あたりまえのように。
「あ、あのね、テオ……」
「ん?」
真っ赤になったまま、テオにどういえばいいのか、どう伝えればいいのか迷っていた。すると……。
「復興などせずそのまま領民共々飢えて死ぬと思ったウェステルハイムが、よくもまあこれほどまでに立ち直ったものだな」
「ラーカスさ……、いえ、リヴァイエス伯爵令息様……」
解体中のヘラジカを、気持ち悪げに見て顔をしかめる元婚約者のラーカス・ド・リヴァイエス様が、いた。
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