お願い
「え、え、え……!?」
わたしは自分の目を疑った。思わず目を擦る。
だけど、目に見えているモノは幻ではないらしい。
一列に並ぶようにして、何本も、何十本ものリンゴの木が、ふらふらと空を飛びながら、この『湖』の方へとやってくる。
なんなのだろうと問う前に、「あいつら……」というオババ様の声と、そしてのほほんとした声が、重なり合うようにして聞こえてきた。
『あー、てお、はっけーん』
『まてないからもってきたー』
『ねー、これどこにおくー?』
よく見れば、何十本ものリンゴの木を運んでいるのは何十という妖精さんたちだった。
「お前たちいったい何をしているんだいっ」
オババ様が怒声を上げる。
『だってー』
『おばばがいったー』
『りすてりあにりんごはんぶんってー』
さすがのオババ様も頭を抱えて唸っていた。
「リンゴの実を半分やれとは確かに言った……」
「あ、あはははははは。妖精さんたち、リンゴの『実』ではなく……、リンゴの『木』を半分、持ってきちゃったんです……ね……」
何かもう、笑うしかないというか、脱力するというか……、いえ、リンゴの木はありがたいのですけれど。妖精さんたち本当に力持ちなのね……。小さいのに。
「……とりあえず『湖』の近くにでも植えるかね……」
オババ様が杖を振るう。すると妖精さんたちのリンゴの木がどんどん地面に植えられ、果樹園のような様相になった。
「嵐でせっかく植えた木が倒れないように固定魔法……。あー、よし。じゃ、おまえたち。雨が降る前にこの領地の人間たちにリンゴを配ってまわりな。嵐になったらせっかくの実が全部落ちちまう」
『はーい』
『はいたつー』
『おしごとおしごとー』
妖精さんたちが次々とリンゴを捥いで、そのままあちこちへと飛んでいく。すごい勢いで……。
パタパタと飛んでいく妖精さんの姿が見えなくなるまでわたしは空を見上げていた。
もうすぐ、夜になる。そして……雨が降る。テオとオババ様が作ってくれたため池があるから、きっとナーハン河は溢れない。だけど、土砂崩れとかは起きるかもしれない。
ああ、どうか、神様。わたしの領民を守って……。
腕を胸の前で組み、祈る。
祈るしか、出来ないのだけれど。
「……ふん、まあ、ついでのついでさね……」
ぼそりとした声に振り向けば、オババ様が杖を大きく振るっているところだった。
「とりあえず、リステリアの領土だけ、木がなぎ倒されるのや……土砂崩れを防ぐ、魔法をかけて、おい……」
オババ様の体がぐらりと傾いた。
「オババ様っ!」
わたしはとっさに手を伸ばしてオババ様の体を抱き止めた。……ひどく青ざめた顔。どうして?今の今まで大きな魔法を使って……あ。
そうだ。あんな火球を作ったり、土砂崩れを防ぐ魔法をかけてくれたり……、魔法を使えないわたしには、どの魔法がどれほどのものかは分からないけれど……。きっとこれは魔法……というか魔力の使い過ぎではないのだろうか?
「テオっ!わたしとオババ様をわたしの屋敷に運んでっ!」
了解したというように、ドラゴンのテオが低く鳴いた。だけどどうやってオババ様を運べばいいんだろう?わたしはオババ様を抱えたまま、テオの背に乗ることなんて無理だ。テオに人間の姿に戻ってもらって……、いや駄目だ、オババ様をテオに抱えてもらって、屋敷に先に行ってもらっても、わたしがいないと屋敷には入れないかもしれない。
悩んでいるうちに妖精さんたちが幾人か戻ってきた。
『りんごとどけたー』
『またつぎのりんごもわたしにいくよー』
『え?おばばさまどうしたの……』
妖精さんたちがパタパタと飛びながら、オババ様を取り囲む。
「妖精さんたちっお願いっ!オババ様を……オババ様を助けなきゃっ!」




