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【完結】婚約破棄された被災令嬢はドラゴンに永遠の愛を誓う  作者: 藍銅 紅(らんどう こう)@『前向き令嬢と二度目の恋』書籍発売中


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ため池

『りすてりあー』

『ぼくたちもりすてりあたすけるよー』

『なんでもいってー』


 妖精さんたちがわたしの周りをパタパタと飛ぶ。


「ありがとう、みんな……」


 一人じゃない。テオが助けてくれる。妖精さんたちも。……わたしは考える。まずできること。リンゴを捥いで、届ける。それはオババ様が言っていた通り、時間がかかる。なるべく早く届けたいけれど……もう間もなく雨が降り、ナーハン河が溢れるのだ。

考える。

考えつつ、言う。


「……雨が降る。なら、ナーハン河が溢れないようにしないと。土嚢を積み上げる……?いえ、無理ね……」


土嚢くらいで押さえられるのならば、既にお父様が手配をしているだろう。それでもおさまらないくらいの雨がきっとまた降るのだ。


「雨を……止めることなんてできない。なら、ナーハン河が溢れないようにするためには……」


どうすればいいんだろう……と思っていたら、テオが簡単に言った。


「氾濫、止めるのって難しいだろ?溢れることを前提にして、でっかいため池とか、川の傍に作っちまえば?低地に流れる水を、そのため池に流し込めればいいんじゃねえ?」


でっかいため池。

テオの言葉を考える。


確かに雨が降っても溢れなければいいのだ。だけど、でっかいため池?


「雨はすぐに降るのよ?今から作ろうとしても、間に合わないわ」

「え?間に合うだろ?その川の近くに行って、どっかんってでっかい穴?池?そーゆーの作るなんてすぐだ」

「すぐ……って、無理でしょう?穴を掘るだけでもきっと数か月はかかるわ」


テオはブンブンと腕を振り回して、地面を殴る仕草をした。


「一瞬で出来る……とまではいわないけど、こうやって。地面殴ったら、穴くらいできると思うよ」

「ええっ?」


わたしは呆気に取られて、テオを見た。


殴って、穴を、掘る。

いくら何でもそれは無理……と言いかけて、わたしはテオがドラゴンであることを思いだした。


……できるかもしれない。ドラゴンのテオなら。地面を殴って、それでため池を作るなんて、人間には無理でもテオになら。


わたしは頷いた。


「テオ……、お願いしていい?でも地面を殴るなんて、手とか痛くないかしら……」

「あ、じゃあ、衝撃波とか、がーって吐くよ」

「吐く?」

「口からゴーって。ドラゴンブレスって言うの?木とか林とか森とか、なぎ倒すの一瞬だし。岩山とかにも穴くらい開けられる威力あるし。火焔とか吐くのも出来るし。えーと、火球が一番強力かなあ……?」

「え、えええええええええ……っ!」


わたしは驚きのあまりテオを凝視してしまった。


確かにわたしなんかその腕にすっぽりと包み込んでしまうくらいの立派な体躯をしているけれど。背も、幼い時とは違い高くなって。さっき握ってくれた手も大きかったし、抱き上げてくれた腕もがっしりと強かった……。あ、思い出して顔が赤くなりそう。いいえ、今はそんなこと考えている場合じゃない。


「ドラゴンて……すごいのね……」


感嘆の声が思わず出た。そのわたしの声に被るように、オババ様が「仕方がないね」と呟いた。


「ため池だけじゃなく、ナーハン河の支流も作りな。河からため池までつなげて、池に水をためて。だけど、そのまま行先のない水は濁って腐る。だから、ため池からもう一度ナーハン河に水を戻せるように、もう一本排水用の水路を作らないといけないさね。ため池とだけじゃなく、河道掘削も必要かねえ……、川幅を広くして流せる水の量を増やすとか。ああでもそれには……河口部の流下能力を向上させないといけなくなるさね。今はそこまでやっている時間はない……か。とりあえず、支流にため池、さっさと作るかね……」


オババ様が杖を手に、よいしょと椅子から立ち上がる。もしかして……オババ様も手伝ってくださるのだろうか?


「オババ様……っ!」


わたしはオババ様を見る。オババ様は仕方がなさそうにして、ふっとため息を吐いた。


「泣く子には勝てんさ。お前を娼館なんかに売るなんて、そんなの後味が悪い。美味いジャムを食べられなくなるのも嫌だしね。……仕方がないから手を貸してやるよ」

「ありがとうございますオババ様っ!」


わたしはオババ様に抱きついた。千年以上生きていらっしゃる黒の森のオババ様の手助けだ。きっと何とかなるっ!


テオも頷いていた。


「さ、そうと決まればさっさと行くとするよ」

「はいっ!」

「ああ、テオ。背中に乗せな。もう自分でドラゴンに変化するのは疲れるんだよ」

「はいよ、オババ」

「それから、妖精たち。お前たちはお留守番……と言うと文句を言うだろうから、リンゴの係だ」


ぶー、とむくれかけた妖精たちが、オババ様の周りに集まる。


『なにするのー』

『りんごがかりってなあにー』

『るすばんなんていやだよーだ』


ぱたぱたとオババ様の周りを飛び回る妖精たちを、五月蠅げに、オババ様は手で払う仕草をする。


「ああ、テオのリンゴの半分を、リステリアの家に運ぶ。ため池を作った後、持って行くから、準備を任せるよ」

『わかったー』

『りんごはんぶんだね』

『ぼくたちはりんごのかかりだー』


ぱたぱたと飛ぶ数十もの妖精さんたちに、わたしは頼む。


「わたしはテオと一緒に行くわ。リンゴのほうは、妖精さんたち、お願いします」


よろしくお願いしますと頭を下げる。


『わかったー』

『まかせてー』

『すぐにはこぶねー』

「ありがとうみんな!」


雨が降る前に。河が溢れる前に。


わたしはオババ様と一緒に、テオの背に乗って領地へ戻る。





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