リンゴ煮とジャム
けっこう長い時間煮込むから、その分の薪をテオに用意してもらう。
その間に、わたしはリンゴの皮を剥いていった。剥いて芯を取ったリンゴを、更に小さく切ってどんどん鍋に入れていく。時折、妖精たちにレモン汁と蜂蜜を振りかけてもらう。剥いて、切って、振りかける、を繰り返して、リンゴを半分くらい切ったところで、火の準備が出来たみたい。
「な、リステリア。もうその鍋、火にかけていいのか?」
「待って……、まだ切っていないリンゴがこんなにたくさんあるのよ」
「待てねえええええ」
コドモみたいな言い方にわたしはくすりと笑う。
「じゃあ、鍋にお水を少し入れてくれる?」
「水?どのくらい?」
「コップで1杯くらいかな?鍋底が焦げ付かないようにするためのものだから、果汁が出るまで待っていれば必要はない物なんだけど。ま、煮ているうちにどんどん汁も出てくるから、そんなに大量には要らないの」
「へー」
今、リンゴを切り終えた分だけ、先にジャムにすることにする。ごく弱火で、コトコトと煮出す。
そして、ちょっと考える。
「ねえ、テオ。オババ様に小鍋とお砂糖、お借りできるかしら?」
「ああ、構わないと思うよ。でも何で?」
「待てないんでしょう?ジャムが出来るまでは時間がかかるわ。直ぐにできる簡単リンゴ煮、作ってあげる」
残りのリンゴの皮を剥いて、芯を取り除く。ここまではジャムと一緒。さっきは小さく切ったけど、今度は櫛切りにする。小さめのお鍋にお水と砂糖を入れる。砂糖が溶けたら櫛切りにしたリンゴを入れる。煮るのはほんの十分程度。もっと煮ればしっとりとしたリンゴ煮になるけれど、このくらい短い時間なら、食感が残る。シナモンとかレモンとか入れても美味しいのよね、この簡単煮リンゴ。
「テオ、お皿用意してくれる?」
「え、もう出来たの?」
「うん。オババ様にも持って行ってくれる?」
出来上がったリンゴ煮を、皿に乗せる。二人分。
「二皿?リステリアは食べないのか?」
「まずはテオとオババ様に。わたしはジャムのほう、見ているわ。焦げないようにかき混ぜないといけないから。あと、妖精さんたちにもね、リンゴ煮作ってあげたいし」
「……いいのか?」
「待てないんでしょう?オババ様と一緒に先に食べててちょうだい。食べ終わったあとは、こっちのジャム、煮込むの手伝ってね」
「ありがとっ!」
わたしを楽々抱き上げられるような青年になったテオが、そんなふうに子供みたいに喜ぶから、わたしも嬉しくなった。
妖精さんたちの分を考えると、残りのリンゴも全部簡単リンゴ煮にしようと思った。ただし、今度もう少し長く火にかけて、しっとりバージョンで作るつもり。時折、忘れないようにジャムの鍋もかき混ぜる。
「あー、そっちもおいしそう……」
食べ終わったらしいテオが、次に作ったリンゴ煮をじっと見ている。
「さっきのはシャキシャキバージョン、こっちはしっとりバージョン。ちょっと長めに煮るわ」
「へー……、同じリンゴなのに、色々あるのな」
「妖精さんたちにも食べて欲しいから、残りのリンゴ、全部使ってたくさん作ったわ。テオ、こっちも食べる?」
「もちろんっ!あ、オババも欲しいって言うと思う」
「ふふふ、みんなで食べてね」
テオにジャムの鍋を掻きまわしてもらっている間に、しっとりリンゴ煮も完成。シャキシャキバージョンのほうは急いだから砂糖とリンゴだけ、だったけど。しっとりのほうにはレモン汁と蜂蜜を混ぜたものを少し、風味付け程度に振りかけてみる。
「さ、こっちがテオの分とオババ様の分。妖精さんたちのはこっちね。さっきのリンゴ煮とはまた違う風味がすると思うわ」
「速攻で食べて、ジャム掻き混ぜるの、手伝うからっ!」
急いで、隣の部屋にいるオババ様のところに走るテオに「ゆっくり食べて」と声をかける。ふふふ、なんか嬉しいなあ。
隣から「ああ、このリンゴ煮も美味いね。相手のことを思って丁寧に作った味がする。……ジャムのほうも楽しみだ」というオババ様の声も聞こえてきた。
妖精さんたちも『おいしー』『りんごにさいこー』『もっとたべたーい』とリンゴ煮を頬張っている。
ああ、なんて、幸せな時間なんだろう。
もしかしたらこの先。娼館なんかに行った後。こんなふうに幸せを感じる時間なんて無いかもしれない。だから、今この瞬間をわたしは忘れないようにしよう。胸の奥の奥の奥、わたしの一番大事な心の奥に、この時間を宝石のようにしまっておく。
わたしは、ほんの少しの間、祈るようにしてぎゅっと、胸の前で腕を合わせ……そして、また、ジャムの鍋をかき混ぜていった。




