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【完結】婚約破棄された被災令嬢はドラゴンに永遠の愛を誓う  作者: 藍銅 紅(らんどう こう)@『前向き令嬢と二度目の恋』書籍発売中


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リンゴよりも赤い

ぐっとこぶしを握る。

そうよ、何でもするってさっき言ったじゃないわたし。千年生きているという魔女様に会うなんて、はっきり言って怖い。だけど……、ここには食べ物があって、それをもらうには魔女様の許可がいるらしい。なら、頼み込む。仮に代償があってもいい。わたしが支払えるものならなんだって、払う。


じっとテオを見る。

テオは考え込んでいるみたいだった。


「オババは……昔、その……この森に入ってきたニンゲンの……持ち物とか奪って、記憶も消して、森の外に放り出したって感じの……、なんていうかちょっと、アレなところもあるんだけど……大丈夫かな……。ニンゲンのコト、嫌っているわけじゃないとは思うけど、多分、好き嫌いとか、激しいトコロ、あるよ?」

「うん、そんな噂、聞いたことはあるわ」

「リステリアのコト、気に入ってくれたら力になってくれるとは思うけど、どうかな……」

「会ってみなければ、わからないわよね?」

「うん……、なら、行く?会ってみる?」

「いいの?」

「うん、だってさ。俺が腹減ってた時に、ジャムくれたのリステリアだったろ?それに、あれだ。えっと『今はアンタに返せるものは無いけど……将来アンタに何かを返すよ』って、俺、前にリステリアに言っただろ?」

「そうだったわね……。じゃあテオ、お願いします」


わたしはテオにかっちりと頭を下げた。

何かを返してもらうとか、そういうことは関係なくて、これはわたしがテオにお願いしていること。だから、礼は必要だと思う。


『ぼくたちもりすてりあてつだうー』

『おばばにたのむー』

『リンゴもおばばにもっていくー』


妖精たちがわたしの周りをパタパタと飛んで、そして、リンゴを手に戻ってくる。


「ありがとう。本当に皆ありがとう」


さっきとは違う、うれし涙が零れそうになった。だけど今は泣いている場合じゃない。森の魔女に頼むのだ。リンゴを下さいと。決意と共に、わたしは魔女の家に向かって歩き出した。





「……ねえ、テオ。魔女のオババ様のお家って、ここから遠いの?」

「そんなこと無いよ。飛べばすぐだ」

「と、飛ばないと……たどり着けない……の、かしら、ね……?」


 そ、空は飛びたくないな……と、歯切れ悪くわたしが言えば、テオはキョトンとした顔でわたしを見てくる。……えっと、何故飛びたくないか、その理由を言わないといけないかしら……。それ、ちょっと、いいえ、かなり、言いたくないと言いますか……恥ずかしいのだけれど。

 わたしは俯いて、ちょっとモジモジしてしまう。


「えーと、リステリア。もしかして、飛ぶの怖かった?」


 いえ、そうじゃなくて……。な、何て言ったらいいのかしら。

 言い方を悩んでいたら、テオは見当違いの理由を思いついたらしい。バッと勢いよく頭を下げてきた。


「ゴメン!さっき、ここに来るときとか……こ、怖かったんだよね……?ニンゲンは空飛ばないの、俺、失念していた……」


 わたしは慌てて、勢いよく首を横に振った。


「ち、違うのテオ!怖くはないの!そうじゃなくって……、あの、その……」


 ホントウに?と探るような目付きで見てくるテオに、わたしは「うっ」と一瞬言葉に詰まる。


 正直に言うべきか。でも、それを言葉にするのは恥ずかしい。うううううううう、何か良い言い訳……じゃなくて理由は……。


 ちょっとだけ思案して、わたしは理由の半分だけ、テオに告げることにした。うん、理由の前半だけなら言っても恥ずかしくはないわ!そして、それは嘘ではないし。


「その……ね。空飛ぶ時って、すっごく寒いのよ……」

「え?」

「ドラゴンとは身体の感覚が違うんじゃないかしら。スピードを出して、疾走するみたいに飛ぶのはきっとドラゴンなら爽快なのだと思うの。だけど、人間であるわたしには……風をマトモに身体に受けて、体温がどんどん奪われてしまって……ガタガタと震えてしまうくらい、寒くてしかたがないのよ……」

「うわ……、き、気がつかなくて……ゴメン」


テオがしゅんと俯く。


「だ、だからっ!マフラーとかコートとか、防寒着があれば問題ないのよ。でも、今ここには無いでしょう?それにね、スカートで空飛ぶのはちょっと……。あ、足がすーすーしてものすごく、冷えて……その……」

「あっ!そ、そうかっ!に、人間のゴレイジョウって、足とか見せるのは、は、ハシタナイとか、そーゆー文化だったんだよなっ!ますますゴメン!」

「い、いえっ!分かってもらえればいいのっ!次に空を飛ばせてもらう時は、スカートじゃなくてズボンにして、防寒対策もバッチリするから……っ!」

「う、うん。それでよろしく……」


 わたしたちは二人してちょっと顔なんかを赤らめた後、


「じゃ、あ、歩いて、行こうか」

「う、うん。そうね」


と、ギクシャクと歩きだした。

妖精たちも、それぞれがリンゴを手にして、飛びながら付いて来る。


わたしは心のなかで、少しテオに謝った。

ほんとはね体が冷えてね……ちょっと、御不浄に……行きたくなるのよ……。そんなこと、言えないけど。その、今はね、まだそんなには……切羽詰まってはいないのだけれど、今また空飛んで、体が冷えたら……ううう、ちょっとその、どうしたらいいんだろう。果樹園でなんて無理。森の中で?いや場所はともかく、一人で鬱蒼とした森の中なんて行けなくはないけど……妖精さんやテオに付いて来られたら……いやあああああああっ!困る困る嫌ですっ!だから、体冷やすのは却下よっ!


と、内心困りながら、とにかくひたすら歩く。

ううう、これがまた……、いえ、リンゴの果樹園あたりはまだよかったのよね。だけどここは森の中なのよ……。鬱蒼と茂る森の中には当然人間が通るべき道はない。地面は「木の根道」と名付けたくなるくらいに露出した木の根がこれでもかと這っている。その間を縫うようにして歩いているの。しかもわたし、裾が長いスカートっていうかドレスにヒールなの。一応、婚約者のラーカス様と会うために、精いっぱいおしゃれしてたのよね……。まあ、婚約破棄なんてコトになったから、そのおしゃれも無駄でしたけど。

つまり、何が言いたいのかと言えば、高いヒールの靴で、スカートの裾を引きずりながら、平坦ではない木の根の道を行くのは……歩きにくいっ!何度も転びそうになり、何度も靴に小石が入り……。


「リステリア、大丈夫か?」

「ううう、ごめんなさいテオ。森の中っていうか、山道って歩きなれていないのよ……」


 跳べばすぐ、であるはずの距離を、歩いて何時間たったのだろうか?見かねてテオはわたしの手を引いてくれていた。


 ううううう……。恥ずかしい。


 転ばないように手を引かれるって言うのが、幼い子供のようで恥ずかしいというのもある。

でもそれ以上に……。

 

 テオの、がっしりとして、大きな……わたしの手をすっぽりと包む、手。


 ああ、あああああ。わたし、手に汗かいてないかしら?手が、べたべたしていたら、気持ち悪くないかしら……。ああ、そういえば、お父様やお兄様ならともかく、男の人と手を繋いだことなんてあったかしら?ラーカス様とだって数える程度、それも挨拶のために一瞬触れるとかだけ、とか。そんなのしかしたことがないわ。なのに、こんなにもがっしりとテオと手を繋いで……。あ、ああ、顔が赤くなりそうっ!いやもうなっているかしら、でも……手を離したらまた転ぶかしら?ああ、どうしたら……。


 そしてまた、動揺したわたしはまた転びかけて……。何十もの妖精さんたちが、転びかけたわたしの躰を支えてくれた。


『だいじょうぶー?りすてりあ』

『あしもとよくみてあぶないよー』

『りすてりあも、とべたらよかったのにねー』

「ご、ごめんねみんな。ありがとう重いでしょ……わたし……」


こんな小さな妖精さんたちが、わたしを支えてくれてるとは……。


『りすてりあはかるいよー』

『ぼくたちこーみえてもねー』

『とってもちからもちだからだいじょーぶー』


テオは、妖精たちが落としたリンゴをひょいひょい拾いながら、くすくすと笑う。


「ごめん、リステリア」

「え?」


 いきなり、笑い声でごめんと謝られて。そのままわたしはテオに抱きあげられた。こ、こここここれは、いわゆる『姫様抱っこ』というやつでは……。


 悲鳴を上げることも出来ずに硬直。わたしの思考は停止した。


「転ぶと大変だから、抱き上げていくよ。いいよね?」


良いも何も既に抱きあげられておりますがーーーーーっ!!


「ちょ、ちょっとテオ、わたし、重いからっ!じ、自分で歩くからあああああああっ!」


叫んだけど、「重くないよ、軽い軽い」とテオはわたしを抱き上げたまま、ひょいひょいと森の中を飛ぶようにして歩く。


「それよりリステリアの腕、俺の首に、回して?」

「え、え、ええええええええっ何故っ!」


身体が密着してしまうではないですかっ!

顔だって近寄ってしまうじゃないですかっ!


「ん?その方がバランス取れて持ち上げやすいし、早く走れる」

「は、はいいいいいいっ!?」


言うや否や、森の中をテオが疾走した。

うそおっ!木々をひょいひょい避けて、テオが疾走する。早い早い早いいいいいいいっ!


心の中で、きゃああああああ、と、声にならない声を上げながら、わたしはテオにしがみ付く。

妖精たちはキャッキャと笑いながら、これまたテオと同じ速度で付いて来る。


えええええええええええええーっ!


予想外の出来事に、もう何が何だかわからない。

だけど、一つだけ、わかることがある。


……きっと、今。わたしの顔はリンゴよりも赤い。



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