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フォンノイマンのレクイエム  作者: 加茂晶
第5章 その先へ
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5.17. 情報漏洩

 だが先ずは、時宮准教授が本気で「フォンノイマンのレクイエム」を秘匿していたのか、を知る必要があった。そこで、オレは時宮准教授に尋ねた。

「『フォンノイマンのレクイエム』について口止めしたのは、オレが予知夢を見たら先生のところに相談しに来るように仕向けるためですか?」

 しかし彼は、

「いやいや、それは違う。確かに君がこの件で相談しに来ることは予知夢で知ってたけど、それはほんの3日前のことだ。君と高木さんに言ったように、『フォンノイマンのレクイエム』を『秘密扱い』にしたのは師匠だ。それは間違い無い。」

と意思を示した。

 それなら、時宮准教授は「フォンノイマンのレクイエム」のことを本気で秘匿してたのだろう。そう思って、

「そうですか。」

と応えた。


 オレは一応、納得した。でも、それなら、あの夢が現実になったらどう対応すれば良いのだろう?

 川辺は夢の中で、

「『フォンノイマンのレクイエム』って何なんだ? そのせいで由宇が危ないかもしれないんだ。」

って言っていたけど…。

 「フォンノイマンのレクイエム」自体は、玉置由宇を危険にするものとは思えない。すると、「フォンノイマンのレクイエム」を巡る何かが、玉置由宇を危険にするのだろうか? だったら、川辺に「フォンノイマンのレクイエム」を説明して、意見を聴いた方が良いのではないだろうか?

 オレはそう思ったので、

「先生が『フォンノイマンのレクイエム』を引き継いでからでも、かなり年月が経過しています。もう、秘密にしておく必要は無いんじゃないですか?」

と言うと、時宮准教授は首を振った。

 そして、

「私もそれは考えたよ。だけど、『フォンノイマンのレクイエム』は慎重に公開しないと、他国の諜報機関や産業スパイに狙われる可能性がある。師匠もそう思ったんだろうけど、今でも状況は変わっていない。まだ、世界が師匠に追いついていない…と思う。だから、『睡眠学習装置』での実験や君たちの研究成果を着実に公表して、世界を変えていきたい。」

なんて、格好の良いことを言った。


 似合わない…と思ったオレは、すかさず

「本音をどうぞ。」

と言い返すと、携帯端末を操作して、テーブルの上に置いた。

 すると、今度は調子の良いことを言い出した…。

「論文数増やして、研究費、ガッポリ稼ぎたいなあ。そのうち、かわいい女性記者が取材に…って何それ?」

と、携帯端末を指差したので、

「録音ですよ。先生の素晴らしいお話を、奥様にも聞いていただこうと思って。」

と、素直に答えた。

 少し青ざめた表情…に見えた時宮准教授は、それでも落ち着いて

「本当に録音されているかな?」

と応じた。鬼の首を取った気分だったオレは、録音を再生させたのだが…何も録音されていない。一体、何が起こったのだ?

 すると、時宮准教授は少し得意気に部屋の隅にあった小さいガジェットを指差した。

「この部屋はね、あれらで逆位相の音波を発生させて、話している対象以外へは声が届かないようにしてるんだよ。それこそ、『フォンノイマンのレクイエム』の秘密を守るためにもね。」

 よく見ると、時宮准教授が指差したものと同じガジェットが、散らかった本と同化するように部屋のあちこちに置かれていた。

 この部屋は薄い壁とドアで、話しがダダ漏れだと思っていたが…。

「それじゃあ、高木さんとオレに『フォンノイマンのレクイエム』を説明された時も…。」

「もちろん、この装置は動作させていたよ。」

 …ってことは、高木さんが誰かに話さなければ『フォンノイマンのレクイエム』の秘密は漏れないハズだ。だけど、彼女も口は固そうだ。木田になら話してしまうかもしれないけど、高木さんから「秘密」と言われたことを、木田(あいつ)が漏らす訳が無い。


 オレがそんなことを考えていると、時宮准教授も言った。

「桜井君も高木さんも、口は固いと思っている。だから、君の見た夢が予知夢で、川辺君が『フォンノイマンのレクイエム』について口走ったとすると…。」

 オレはその続きの言葉を待った。…しかし、彼はそこで頭を抱えたまま固まった。何も思いつかないのだろうか…?

 一方、時宮准教授の話を聞いている内に、オレの頭の中をこれまでに見て聞いてきた記憶が走馬灯のように流れた。やがて、オレ自身、こんなことを考えていたのを思い出した。

「…父は本当に、全ての研究成果を時宮准教授に譲ってやめてしまったのだろうか? 実はどこかで、『悪あがき』をしていたのではないか?」

と。

 父が「悪あがき」…研究…を継続していたのだとすると、それはKAONソフトでだろうか? あるいは、KAONソフトを実質的に乗っ取った()()()()()()でだったか?

 研究を独りで細々とやっていたとしても、当時はまだ珍しかった量子コンピュータを調達する必要があっただろう。それにはお金もかかるし、1台を独占出来なかったかも知れない。それなら、父本人が『フォンノイマンのレクイエム』を秘密にしようとしても、出資者やクラウドから漏洩した可能性はある。


 そこでオレは言った。

「先生がオレと高木さんにしか『フォンノイマンのレクイエム』を話さずに、その3人が誰も秘密を漏らさなかったとしても、他の人が知る可能性はありますよ。それは、父から漏洩した可能性です。」

 時宮准教授が頭から手を離して、オレの方を向いた。

「何だって? 師匠は私に『フォンノイマンのレクイエム』を託して秘匿し、ご自身は研究を止めたハズだが。」

 オレは確信を持って、スペキュレーションを語った。

「証拠はありません。でも、先生だって『悪あがき』くらいはするでしょう? 急に何かの事情で研究をストップしたとして、完全に止められますか?」

 すると、時宮准教授は目を閉じて腕を組んでしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。

「うーん…完全に止めるのは難しいだろうな。アイディアは止まらないし、思いついたら試してみたくなるし…。」

オレの確信は、時宮准教授にも伝わったようだ。

 そこでオレは、さらに推測して話した。

「父の置かれた立場になって想像すると、やっぱり研究を止められなかったんじゃ無いかと思うんです。すると、多分、どうにかして研究に利用できるレベルの量子コンピュータを調達したハズです。」

 時宮准教授もオレのスペキュレーションに乗ってきた。

「そうか。10年くらい前なら個人で独占するのは難しいから、スポンサーを募ったか、クラウドで提供されていたものを利用したか。いずれにしても、そこで漏洩した可能性はある。…すると、川辺君が『フォンノイマンのレクイエム』を知ったのは、情報が漏洩したからだろうか?」

 時宮准教授の問いに、オレは咄嗟に答えたが…

「そうだと思います。ですが、何故川辺が時宮研究室に来て『フォンノイマンのレクイエムのせいで、彼女が危ないかも知れないんだ。』なんて口走ったのかが分かりません。」

そう、問題の核心は、まだ霧の中だ。


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