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フォンノイマンのレクイエム  作者: 加茂晶
第4章 帰還した現実世界で
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4.10. 平山現咲と八神圭伍の推理

 馴れ初めの話で盛り上がっていたリア子と八神圭伍が落ち着くと、八神圭伍が言った。

「ここから、少し僕に話をさせてもらえないかな?」

すると、リア子が頷いた。

 そこから先も、またまた長かった。そしてそれは、こんな話だった。


 平山現咲…リア子の病室に初めて訪れたその時、八神圭伍は彼女から謝罪を受けた。

「どうもこちらの事情に巻き込んでしまったみたいで、ごめんなさい。そして、ありがとうございました。」

 八神圭伍は驚いた。彼女が勝手にクルマの前に倒れ込んできたのに、彼女を轢いたと疑われたのだから、謝罪されるのはわかる。だけど、何故彼女に礼をいわれるのか…?礼なら、むしろ彼が彼女に言うべきだ。無罪を証言してもらって助かったのだから。

 そもそも、彼女の身に一体何が起こったのだろう?八神圭伍は、女性…平山現咲が突然クルマの前に倒れ込んできたのを見た。そして、クルマから降りた彼の呼びかけに反応しなかった。よほど、体調がすぐれなかったのだろうか?

 そこで、彼は彼女に尋ねた。

「貴女の身の上に一体何が起こったのか、差し支えなければ教えてもらえませんか?」

 すると、彼女は答えた。

「私にもよく分からないんです。警察も何も教えてくれないし、父も事情聴取を受けたみたいです。私に言えることは、初老の浮浪者のような男の人に銃のようなものを向けられて、直後に肩に鋭い痛みを感じて意識が無くなった…それだけです。」


 だが、目の前の彼女は、肩に大怪我を負ってはいないようだ…。

 

 八神圭伍は、平山現咲の話を聞いて臆断した。この娘は、麻酔銃で撃たれたのではないだろうか?だけど、彼女が浮浪者のおっさんに麻酔銃で撃たれるような理由って、一体何だったのだろう?

 彼女にそんな原因があるようにはとても思えない。…ってことは、何かに巻き込まれたのだろうか?

 …そうだ、「平山」って社長の平山龍生と同じ苗字だ。もしかすると、平山龍生の娘?…そう言えば、目つきが似ているような気がする。平山龍生の娘なら、確か、ICPの社内行事にも来ていたと思う。すると、彼女とは初対面じゃ無かったのか?


 八神圭伍はしばらく迷ったが、やがて思い切って平山現咲に尋ねた。

「貴女のお父様は、もしかすると平山龍生氏…レゾナンスの社長ですか?」

どきどきしながら彼女の顔を覗き込むと、彼女は小さく頷いた。


 …やはり。すると、倒れ込んだ平山現咲を救護するためにクルマを出た時に見た、何となく見覚えのある浮浪者…あれはICPの社長だった高坂和巳なのではないだろうか?

 多分レゾナンスの立ち上げの時、ICPで高坂和巳の下で働いていた人たちを、平山龍生が煽動してヘッドハンティングしたのだろう。いや、逆に高坂和巳の部下たちが反逆して、平山龍生に助力を請うたのかもしれない。

 いずれにしても結果は同じだ。一言で言えば、平山龍生がICPを乗っ取ってレゾナンスにした、と言える。ICPの上層部にいた者たちは、使えそうな部下を、そしてその部下たちもさらにその部下を引っ張った…。その結果、末端にいた八神圭伍のような「ほぼ新人」まで、レゾナンスに移籍した…。

 高坂和巳からすれば、自分の会社を平山龍生に奪われたと感じたに違いない。そして、彼自身が無能だったからかどうかは分からない…。でも、彼と残った人たちではICPを維持できず、結局倒産してしまった。

 高坂和巳は普通に働いて日銭を稼ぐこともままならず、浮浪者にまで身をやつしたのだろう。彼にも家族がいたはずだが、そうなれば一家離散してしまったかもしれない。

 そんな彼が生き続けるモチベーションは、「リベンジ」だったのだろうか?平山龍生への復讐は、彼が大切にしているものを奪うことで成し遂げようとしたのではないだろうか?平山龍生の宝物…それは娘…平山現咲だと思ったに違いない。

 高坂和巳は平山現咲を奪うため、彼女を調べ上げたのだろうか?そして、ドローンで尾行していたのだろうか?


 その彼に機会が訪れた。そう、あの夜のことだ。平山現咲が人気の無い道を、1人で歩いていた。それを知った彼は、すかさず行動に移したのだろう。高坂和巳は平山現咲に追いつくと、麻酔銃を撃ったのだ。

 そして、彼女を眠らせて、平山龍生から奪うつもりだったのだろう。殺すつもりだったのか、あるいは人質にしてICPを復活させるための資金を得るつもりだったのか…。

 だが、高坂和巳は不運だった。正に平山現咲に麻酔銃を撃った直後、彼女が車道に出て、八神圭伍のクルマの前に倒れ込んでしまったのだ。その彼女を轢いてしまったと思い込んで、八神圭伍が警察と救急車を呼んだ。

 警察。それは、麻酔銃を撃った高坂和巳にとって、避けるべき存在。そこで、サイレンの音が聞こえてくると、平山現咲を諦めて立ち去ったに違いない。


 そう推理した八神圭伍は、平山現咲がまだ危険な状態にあると感じた。いつまた高坂和巳に襲われるか、分からない。本来なら、警察に保護を求める状況だ。

 だが、八神圭伍の推理には何の証拠も無い。そもそも、平山現咲を襲ったのが高坂和巳だというのは、八神圭伍の思い違いであると言われても否定できないのだ。平山龍生には察しがついたとしても、表向きは娘を襲ったのが高坂和巳だとは言えまい。いや、むしろ否定するかもしれない。

 そんな状況で、警察が彼女を守ってくれるとは思えなかった。仕方無いがこれも何かの縁だ。僕が平山現咲を守るしかないか。…そう八神圭伍は思って腹を括った。


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