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フォンノイマンのレクイエム  作者: 加茂晶
第1章 プロローグ
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1.10. 実験再開

 「睡眠学習装置(仮)」の第二回目の被験者実験は、10月1日午後10時から開始された。集まった顔ぶれは、時宮准教授と高木さん、校医の二階堂先生、木田とムーコ、そして被験者のオレだ。木田とムーコは、お互いにオレから話を聞いて相手のイメージは出来ていたと思うが、初対面だったので互いに挨拶していた。その後も楽しそうに話し合っていたので、お互いに好印象だったようだ。

 木田が来たのは、時宮准教授から依頼されたからとの事。今回から開始するオレに対する刺激反応調査で、刺激を与える役割だそうだ。要は、「オレを突っつく」のが仕事。木田が言うには、時宮准教授は、オレの人見知りが激しいため、オレと親くて同性の木田を選んだんだそうだ。

 里奈は…来なかった。定期テストが近いというのが表向きの理由だが、本音は違うのかも知れない。オレとムーコ、木田と高木さんとでダブルデートを計画していると言った途端、すこぶる機嫌が悪くなり、その後いくら話かけても返事をしてもらえなくなって、今に至る。里奈も年頃だし、オレがムーコと仲良くしているように見えて、苛立っているのかもしれない。里奈に距離を置かれてしまうのは正直つらいが、()()()()()を治すためには、ここは辛抱するしかない。

 里奈に突き放された事がオレのメンタルにかなりダメージを与えてしまったため、木田にダブルデート計画の事をまだ話せていない。時宮研に来る前に、木田に話していないとムーコに言うと、

「まあ、任せてください!その代わり、見返り期待してますよ。」

だそうだ。頼りになるのか、頼って良いのか、ムーコはつかみ所が無い。


 前回と同様、オレは時宮准教授の指示通り、別室で睡眠学習装置専用の全身を覆う()()()に着替えて、ヘッドギアとグローブを着用し、シェル内のベッドに腰を下ろした。すると、前回の実験時には無かった円盤状の樹脂がベッドの足元に埋め込まれていた。円盤を指差して、時宮准教授に尋ねた。

「これって何ですか?」

「少しだけ右に回してみて。」

回してみると、シェルの蓋がゆっくり閉じる方向に動いた。反対に回すと、開く方向に動く。

「実験後に開いておく事は徹底するけど、緊急の場合には手動でも開閉できるようにしたよ。」

「わかりました。」

二階堂先生も、頷いていた。

 時宮准教授は皆に話し始めた。

「今回から、睡眠学習装置(仮)の学習実験の前に、一時間位、刺激反応調査を行う事にします。」

この刺激反応調査って、オレに()()を与えて脳波を測定するとか言うやつか。

「皆さんご存知のように、ここに居る木田君は桜井君の数少ない友達です。」

「数少ない」は正しいけど、ここで言わなくても良いだろうが。

「今回は、木田君に手、孫の手、水風船などで桜井君の身体の各所に刺激を与えてもらい、その間に脳波と赤外線放射量を測定します。もちろん、そのデータも睡眠学習装置(仮)に学習させるよ。」

 そこで、二階堂先生から質問があった。

「ちゃんと、事前に桜井君に説明してあるんだろうね?」

「もちろんだよね、桜井君。」

時宮准教授がオレに話を振ってきた。

「なにせ、高木さんの卒論のためだし…」

 最初の書類には、刺激反応調査について書いてなかったし、時宮准教授を少し困らせて見たかったのだが、高木さんのためと言われるとやむを得ないか。少し不安そうな高木さんを視界に捉えつつ、

「ええ、お話は聞いてますよ。」

と答えておいた。

 その後も二階堂先生は時宮准教授にいくつか質問をして、回答に納得してうなづいていた。だが、この刺激反応調査というのは、実験結果説明時の思いつきと悪ノリだけで計画されたのではなかったか?時宮准教授の二階堂先生への回答には、そんな素振りは全く無かったのだが。


 刺激反応調査は、シェルを開けたまま行われた。が、この実験が開始されると、今度こそ本当に「被験者になった」と実感した。高木さんが脳波と赤外線をモニターする中で、時宮准教授が木田に、次々に指示を出す。

 最初は無難に、頭や手、足などに手を触れる程度だったから、問題は無かった。しかし、徐々にしんどくなって来る。例えば、

「はい、今度はわきの下に孫の手を差し込んで軽くこすって。」

等と言うと木田が従い、我慢出来ずに顔がクシャクシャになっていくオレを、ムーコがジーッと笑いながら見ている。

 笑いすぎて、涙が出てきた。もうやめて欲しいと木田に目で訴えると、今度は高木さんが大真面目に、

「まだ、脳波も赤外線も変化しています。木田君も頑張って続けて下さいね。」

なんて言うから、木田もさらに張り切ってしまう。

 二宮先生は、モニターとオレの表情を見ながら、その様子を楽しそうに眺めているだけだった。


 結局、刺激反応調査が終わったのは深夜11時半だった。この試験は、もう高木さんの卒論がどうなろうと二度とゴメンだと思っていると、時宮准教授が、

「これで、触覚の反応テストは終わりだ。」

と言うのでホッとした。が、続きがあった。

「今後は、視覚、聴覚、味覚のテストだね。素材は、高木さんはもちろん、木田君や平山さんにも考えてもらおうかな?」

二ヤーっとしてオレの顔を覗き込む三人を見て、オレはこの実験の被験者になった事をかなり後悔したが、あとの祭りだ。


 その後行われた本来の実験、「睡眠学習装置(仮)」の学習実験は、前回とほとんど同じ流れで行われた。二階堂先生から受け取った睡眠導入剤を飲み、シェル内のベッドに横になると、高木さんが機器の最終チェックをしている間に急に眠くなってきた。

 前回との違いは、「睡眠学習装置(仮)」の量子回路を動作させているため、冷凍機の低周波音がする事と、ベッドサイドに里奈の顔が無い事だ。今頃、何をしているのだろう?意識が朦朧としていく中、オレは里奈を心配していると言うより、オレ自身が里奈が居なくて寂しいと思っている事に気づいた。でも、この感情は他の誰にも気付かれたく無いと、強く願った。


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