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無事助けられたお姫様は、王子様と共に城へと行き彼の花嫁となるべく教育を受ける。所謂妃教育だ。彼女は、その中で様々な試練に立ち向かい最後には無事王子様と結婚した。めでたしめでたし。
アレクシアは、本を閉じる。先日拾った本の続刊を読み直していた。何度読んでも、モヤモヤするし後味が悪い。だが他に本がないので仕方がない。
いびきを回避する為に、エルヴィーラより早く寝ようとアレクシアは頑張ってみたものの、エルヴィーラはベッドに横になった瞬間寝てしまう。余りにも早いので、無駄な努力だと諦めた。
代わりに、夜中は読書をして過ごす事にしたのだが……何しろ今手元にある本はこの2冊だけだ。
本当は恋物語ではなく、冒険物や贅沢は言わない、なんなら経済学書のようなものでも構わない。兎に角、違う本が読みたい……。
アレクシアは、深いため息をつく。
……やはり、恋物語は自分には合わない。この物語のお姫様に、全く共感出来ない。現実は、こんな都合のいい事ばかり起こる訳がない。現実の王子様だって、こんな素敵な筈がない。王族なんてきっと、傲慢で自尊心の塊でろくなものではないと思う。
現に、城に来た日の挨拶で『この様に美しい御令嬢ばかりに、集まって貰えて僕は幸運だ。……僕の為に、是非君達には頑張って欲しい』と言っていた。自分に酔いしれているとしか思えない。あれは、かなり引いた……。
だが世の令嬢達はこの本のお姫様を、夢見るのだろう……そして、王太子妃になりたいと願うのだろう。自分には無縁の話だ。
「……」
その時アレクシアは、ある事が頭に過り、ごくりと喉を鳴らす。
色々思う事はあるが、普通に考えて、この本はうら若き女性向けの本だ。
だがこの本の持ち主は、多分男性だろう……となると、やはりもしかして……もしかすると、心は乙女だったり……するのだろうか……。
世にはそういう男性もいると、以前本で読んだ事がある。別に人の趣向をどうこう言うつもりはない、ないが……。
「……」
考えるのはやめよう……変な想像しか浮かばない。
アレクシアは、そっと本をしまった。
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アレクシアが城へ来てから10日経つ。今日は妃教育は休みで、朝からエルヴィーラはベッドでゴロゴロとしている。この日ばかりは部屋の掃除もないらしく、汚れ物だけは回収に来た。まあ、流石に令嬢達を部屋から追い出す訳にはいかないのだろう。今日だけは、各侍女が部屋の掃除をする他ない。
アレクシアも、朝から何となく掃除の真似事をしているが、エルヴィーラが煩くてかなわない。
「お腹空いた」「つまんない」「お腹空いた」
ずっと、同じ事を言われていい加減嫌になる。一日中これが続くのか……そう思っていた矢先、扉が叩かれた。扉を開けると、見覚えのない侍女が立っていた。
「奇特な人もいるのね」
あのエルヴィーラとお茶をしたいなど、信じられない……。
先程の侍女は、妹と一緒に妃教育を受けている令嬢の侍女であり、お茶会の誘いだった。
折角の休みに、わざわざエルヴィーラとお茶をしたいとは相当人間が出来ているか、変わり者に違いない。
だが妃教育が始まってから、予想に反してエルヴィーラは文句は言うが、やめたいとは言わない。意外と周りと上手くやっているのかも知れない。
アレクシアとしては、早く妹が音を上げて辞退をして貰い屋敷に帰りたい所ではある。だが、こればかりは本人次第なのでどうにもならない。
話は戻るが、退屈で仕方がなかったエルヴィーラは、直様その誘いに乗って出掛けて行った。無論アレクシアも付いていくつもりだったが……「シアは、いらないから。貴女は掃除しているのがお似合いよ」と莫迦にする様に言われた……。
いらないって、私は物じゃないのだけど。
エルヴィーラの相変わらずの態度に、苛っとするがアレクシアは笑顔で送り出した。
これで、ゆっくり眠れる……。
仮眠をとる為、アレクシアは自室へ戻ろうとしたが再び扉が叩かれた。




