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「眠い……」
また今日も寝不足だ。アレクシアはため息を吐く。本当ならこのまま、あの木陰に行って仮眠したい所だが今日は行く場所があるのでそれも叶わない。
アレクシアは、フラつく足取りである場所へと向かっていた。それは、食堂だ。その理由は……。
昨夜部屋に戻ってきたエルヴィーラは、また夜食もといお菓子を食べようとした。だが、ない。
『なんで、ない訳⁉︎』
それは、貴女が昨日屋敷から持ってきた分を全て平らげたからでしょうに……。
呆れ顔で暫く眺めていると、ドスンドスンと暴れ出した。
『こんなんじゃ、お腹空いて寝られないじゃない‼︎』
グガアァ……グガァ……。
エルヴィーラはその後半刻程騒いでいたが、疲れたのか寝てしまった。
寝られないとか言っていたが、寝てる……。
その所為で、今日は仮眠を諦め食堂へと向かっている。また今夜も騒がれたら堪ったものではない。
どうにかして、お菓子を手に入れなければ……アレクシアの今日の課題だ。
食堂に到着すると、料理人に声を掛けた。
「すみません、今宜しいでしょうか」
ことの経緯を、掻い摘んで説明をした。無論暴れるとかは、省いた。そんな事を言えば、家名に泥を塗る事になる……。
適当に、主人が食事だけでは小腹が空く、主人が甘い物が好きで分けて欲しいなどと話した。
そんな可愛いものじゃないが……昨夜の出来事が頭を過ぎり苦笑いを浮かべる。
「なるほど、構いませんよ。今丁度手が空きましたので、何か作りましょう」
アレクシアより少し年上に見える青年は、快く引き受けてくれた。
良い人だわ……正直、断られたらどうしようかと思った。今夜もまた、暴れられたらと思うとげんなりする。
「何がいいですかね?ご主人の好みとかありますか」
そんなものありません。あの妹の唯一の取り柄は好き嫌いがない所だ。食べ物なら、何でも食べる……それは、人の物まで食べる勢いで。
「いえ、特にはございませんので……作って頂けるなら、なんでも!」
アレクシアの笑顔は引き攣る。
「了解です!ちょっと、待ってて下さい。あ、良かったら椅子あるんで」
彼の言葉に甘えさせて貰って、アレクシアは椅子に座った。暫く、彼が作業する姿を眺めていたのだが……寝不足故、次第に睡魔に襲われ我慢出来ず目を閉じてしまった。
「大丈夫ですか」
その言葉に、アレクシアは目を開けた。どうやら寝ていたようだ。慌てて立ち上がった。
「申し訳ありません!私ったら、寝てしまうなんて」
人に物を頼んでおいて、その頼んだ本人が寝るなどあり得ない。失礼にも程がある。
「随分お疲れですね。全然、俺は気にしてないので大丈夫ですよ。それより、頼まれていた菓子が出来たので」
彼は優しく笑い、焼き菓子の入った包みを渡してくれた。アレクシアは丁寧にお礼を言ってそれを受け取る。
「美味しそう……」
包みから少し見えたお菓子に、思わずそんな声が洩れた。甘い香りがする。
「あの……良かったら、一緒にどうですか」
アレクシアは、大事そうに包みを抱えて部屋へと戻って来た。あの後、焼き立てのお菓子と淹れ立てのお茶を出して貰った。
『良かったら、またいらして下さいね』
本当にいい人だった。この焼き菓子が無くなったら、また分けて貰いに行こうと、アレクシアは思った。




