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アレクシアは、中庭の木陰に隠れる様にして腰を下ろした。流石にこの恰好では、堂々と読書する訳にはいかない。誰かに見られたら、ただのサボっている侍女になってしまう。
「さて、どんな内容かしら」
本の内容は、恋物語だった。その事に少し落胆する……どうせなら冒険物が良かった。
アレクシアは普段、恋愛の話は好んで読まない。だが折角手に入れた貴重な本だ。読まないという選択はない。
「……」
暫くして読み終わったアレクシアは、本を閉じた。……王子様が、囚われの身の姫を助ける話だった。
「下らない」
思わずそんな言葉が出た。いつもなら、思っていても言葉にはしない。どんなに不満でも苛ついても、我慢してきた。
我慢しないと。
ただの作り話だ。こんなのは現実ではあり得ない、夢物語だ。だが、苛々する。悪態でもつきたいくらいだ。
アレクシアは、本を握り締めた。
幼い頃、読んだ絵本を思い出した……。お姫様が、危険に晒されると必ず助けに現れる王子様に、幼いアレクシアは憧れた。……きっといつか、私を王子様が助けに来てくれると。
『どうして、貴女は何度言っても分からないの!貴女の所為で、エルヴィーラが傷ついてるじゃない!』
ヴァイオリンを弾く事が好きで、一生懸命練習した。自分でも上手く演奏出来たと思った。先生にも褒めて貰えた。……だが、母からは叱責されて叩かれた。
『エルヴィーラは、本当に上手だわ。きっと才能があるのね』
そう言って母は、お世辞にも上手いと言えない演奏を披露した妹を褒めた。……私を褒めた先生は、もう屋敷に来る事は無かった。
事ある毎に母は、私を叱責し叩く。父にも叱責はされるが、叩かれる事はなかった。それだけはまだ救いだった。
まだ幼い私は、どうして母や父が怒って、どうして叩かれるのか理解出来なかった。アレクシアが理由を理解するまで母の逆鱗に触れ続け、日常的に折檻された。
誰か、助けて。痛い。怖い。苦しい。
だが、誰も助けてくれない。
あの絵本のように、王子様なんて助けにきてくれない…………。
「⁉︎」
アレクシアは、ハッとして目を開ける。どうやらいつの間にか居眠りをしてしまっていた様だ。
今何時かしら……。
アレクシアは、慌てて立ち上がる。その瞬間、地面に何かが落ちた。
「上着……?」
男性の上着だ。一体誰のだろうか。誰かが眠っているアレクシアに、掛けてくれたという事だけは分かる。
どうしたら……まさか、部屋に持ち帰る訳にはいかない。だが、こんな場所に放置するのも気がさす。アレクシアは、悩んだ末に一度部屋に上着を持ったまま戻った。
そっと、部屋を覗くとまだエルヴィーラは戻って来ていないようだ。掃除も終わっているみたいで、部屋の中は綺麗に片付いていた。
アレクシアは自分の部屋に入ると、紙とペンを取り出す。さらさらと、筆を走らせ書き終わると再び上着を持ち、あの木陰まで戻った。
丁寧に上着を畳むと、下にハンカチを敷きその上に置いた。そして、先程書いた紙を更に上に置くと踵を返し去っていった。
紙には「優しい方へ ありがとうございました」と書いてあった。




