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アレクシアはエルヴィーラを連れて自邸に帰った。未だに愚図っているエルヴィーラを何とか馬車から下ろして屋敷の中へと入ると、丁度父と母に出会した。
瞬間二人を見たエルヴィーラは、再び大泣きを始める。それはもう凄まじい声で、先ほどとは比にならない。窓が割れるのでは⁉︎と内心思った。
そして、そのまま母の元へと駆け寄り抱きついた。
「お母様あぁ、酷いのよ~お姉様が私を虐めるのおぉ‼︎」
わんわん泣き噦るその姿は、幼児のそのものだ。大きな幼児を、リディアは呆れ顔で眺めていた。
「アレクシア、これは一体どう言う事なの⁉︎どうしてエルヴィーラがこんなに泣いているの‼︎……あらあらエルヴィーラ、どうしたの?」
分かってはいたが、相変わらず変わる事のない母の姿に情けなくなる。
「お姉様が、皆を嗾けて寄ってたかって私を虐めてきたの‼︎酷いのよ!きっと私が王太子妃に選ばれてしまうのが気に入らないのよ‼︎」
「まあ、なんて事なの⁉︎妹に嫉妬して泣かせるなんて!なんて酷い‼︎貴女それでもお姉さんなの⁉︎今直ぐエルヴィーラに謝りなさい!さもないと屋敷から追い出しますよ!」
アレクシアはグッと堪える。何時もなら何も言えず黙り込むか謝って俯くしか出来ない。だが、それではダメだ。何も変わらない。アレクシアは意を決して口を開いた。
「私はエルヴィーラに謝らなくてはならない事なんて何一つしていないわ。だから私は謝らない。そもそも虐めていたのはエルヴィーラの方よ。他家の御令嬢に因縁をつけて、妃教育の間ずっと虐めていた。貴方方も人の親なら、エルヴィーラを連れて相手方に謝罪に行くべきです」
「信じられない、親に向かって何て口の利き方なの⁉︎」
激怒した母はアレクシアの腕を掴むと、手を振り上げた。振り払わなくてはと思うが瞬間身体が強ばり動かない。幼い頃から植え付けられた恐怖にはやはり勝てなかった。アレクシアは目を瞑り、頭を守る様に反対側の手で押さえた。
「そこまでだ」
その時だった、扉が開いたのは……。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
オリヴェルはアレクシア達が出て行き少し遅れて我に返った。慌てて追いかける。廊下を駆けていると、その後からリーゼロットが追いかけて来た。
「オリヴェル様、反応が鈍過ぎます。何普通に見送っていらっしゃるのですか!あそこは強引にでも引き止める場面でしょうに!」
「いや、アレクシアが余りにも素敵過ぎて……ではなく、勇士は遅れてやって来ると良く言うだろう?だからこれはワザと……」
「何を仰っていらっしゃるのか私にはちょっと良く分かりませんが……その様な御託は宜しいですから。そもそもオリヴェル様の場合、遅過ぎて間に合わなくなり後から後悔されるのが関の山です。負け犬にお成りになりたくないなら、お急ぎ下さいませ」
「どうして君は一々茶々を入れるんだ!」
「茶々ではなく、事実です」
オリヴェルはリーゼロットの言葉にダメージを受けながらも、馬に飛び乗る。するとリーゼロットも馬に飛び乗った。予想外の行動に目を見張る。だがそんなオリヴェルを尻目にリーゼロットは颯爽とオリヴェルを追い抜かす。
「リーゼロット⁉︎君、馬に乗れたのか⁉︎」
「まあ、嗜む程度にですが」
そう言いながら、リーゼロットはオリヴェルをどんどん引き離していった。
「一体何処が、嗜む程度なんだ……」
置いていかれたオリヴェルは、情けなく必死に後を追いかけるのだった。




